ギュダ

一斉に投石せよ!

弓を持たぬレジーナの兵を見て、

遠距離攻撃はないとふんでいた斥候兵達。

いきなり至近距離からの投石に、

当たりどころが悪く

落馬する斥候兵も何人かいる。

完全に敵は勢いを失ったようだ。



実は砂塵を見て隠れないと決まった時、

ギュダがあらかじめ

兵士全員に隠し持たせていたのだ。

ギュダ

敵の機先は制した。
一陣まずは馬を狙え!
二陣は敵の側面から攻めよ!

ギュダの声に反応し、

兵が一斉に動く。

ガンツ

僅かな間に
完全に掌握してやがる。

そう言い、馬の腹を蹴り

誰よりも早く敵陣に突っ込むガンツ。

長柄武器のハルバードを振り回し、
(長い柄に斧と槍が備わっている武器)

敵陣深くを二つに裂いて暴れ回っている。

レジーナ

皆の者、
ガンツに遅れを取るな!

レジーナは手網を操り

愛馬・ナダレを駆けさせ、

やはり敵陣の真っ只中に突っ込んで行く。

ギュダ

姫をお護りしろ!

レジーナの右側をギュダが固め、

遅れて左側にも兵士達が集まろうとする。



だが、もうレジーナは

突撃を敢行し前進している。



国を出る時にかすめ取ってきた

国宝剣・『ジュヅヴァ』を奮い、

斥候兵達を次から次へと切り伏せていく。





レジーナとガンツの突撃で

数の劣勢は覆せそうだが、

敵もまだ諦めていない。

騎兵の馬上からの攻撃は、

歩兵からすれば脅威なのだ。

盾で守勢に回る兵士を

躍起になって倒そうとする斥候兵。

その隙をつき、馬に狙いを定める。



ギュダの作戦通り、

馬を狙う攻撃が功を奏し、一陣は優勢。

と同時に、

側面に回り込んでいた二陣がなだれ込み、

敵陣に混乱をもたらす。

斥候隊長

おのれぇーい!
くらえ!

斥候隊長が放ったのは、

前方扇状に飛ばす特殊クロスボウ。

斥候隊長に狙いを定めていた兵士が

何人か犠牲になり倒れていく。

そして姫をも襲ったその矢は、

側を固めていた兵士が盾で防ぎ、護りきった。


兵士

倒れた兵士の名を呼ぶ兵士達。

同じ釜の飯を食った仲間が射貫かれ

力なく地面に身体を預ける。



助からない。

誰がどう見たって助からない傷。



仲間の死を受け入れねばならぬ状況に、

体温が急激に上がり

胸の内で息苦しい感情が暴れ出す。

ギュダ

ルーチェ、ナノーネ!
嘆く間などないぞ!
同胞の分まで戦え!
その手で敵を
殲滅してみせよ!

仲間の死にうろたえる兵士を

一喝するギュダ。



その声を受けて

目に炎をたぎらせた兵士は、

斥候隊長に突撃する。



ギュダの槍が斥候隊長に防御された時、

ルーチェと呼ばれた兵士が

馬の鐙(アブミ)を切り裂く。



馬上でバランスを崩した斥候隊長に、

ナノーネと呼ばれた兵士が

槍の柄の部分を叩き付けた。

ギュダ

大人しくしてもらおうか

馬上から叩き落された

斥候隊長の首元に、

ギュダの槍が突き付けられていた。

斥候隊長

馬鹿な強すぎる。
何だこの兵士達は。

レジーナ

我々は祖国を
取り戻す為にここにいる。
何があろうと必ず成し遂げる。
お前達のような
雇われとは志が違う。
負ける理由など
見付けたくても見付からぬぞ。

レジーナの熱量に

斥候隊長はたじろぎ声を失い、

生き残った斥候兵達は目を見開いて固まった。

ギュダ

・・・・・・・・・・・・。
さて斥候の隊長殿。
此度の侵略について
余す所なく話せ。
何か隠していると感じたら、
例えそれが事実でなくても
首は繋がっていない
ものと思えよ。

斥候隊長

…………。

ガンツ

おー怖い怖い。
おいお前さん、
この御方はエグい刑罰を
考案するお偉いさんなんだ。
既にそのプランが
三、四通り頭に
過ぎっているはずだ。
涙なんて通用しないぜ。

斥候隊長

ま、待てっ!!
話さないと言っていない。

斥候隊長は簡単に口を開いた。



やはり強大な軍事力を持つナバールが

イシュトベルトを侵略したという。



しかし末端の隊長であるこの者には

理由など知らされておらず

大した情報は得られなかった。

ガンツ

なんだそれだけか。
所詮雑魚だな。
始末しますか?

レジーナ

もう用はない。
逃がしてやれ。

ギュダ

甘いですぞ、姫!
この者が姫の事を知らせれば
たちまちに多勢の兵が
押し寄せますぞ!

レジーナ

捨ておけ。
このような卑しい者に
成し得る事などない。

ギュダ

姫がそのように仰るなら
仕方ありません。
……逃がしてやれ。

斥候隊長

馬鹿共め!
その赤髪が言った通りだ。
お前達は終わりだ。
チナ村に来ている
ジャグラス様に報告すれば
お前達など
直ぐに捕縛されるわ!

斥候隊長

ゥグハッ!

斥候隊長

な、ぜ、お前、
た、たが……ハ……

隊長を襲ったのは、

傷付きながらも生き残った斥候兵だった。

斥候兵

レジエレナ様!
私共も元々は
ナバールに国を追われた身。
レジエレナ様の国を取り戻す
お気持ちに心打たれました。
どうか私共も
ご同行させてください!

傷付きながらも生き残った斥候兵達を

馬上から見下ろすレジーナ。

そしてすぐさま返答の声を上げた。

レジーナ

お前達の偽りない志は、
このレジエレナ=
ルター・イシュトベルトが
確かに受け取った!

レジーナ

だが忘れるな。
同じ志だからこそ
頼り合い助け合いながらも
自分の手でやり遂げる
意志が必要なのだ。
私はお前達が
自らの手でその志を
完遂する事を願っているぞ。

レジーナが発した言葉は、

それぞれの斥候兵に響き

忠誠と祖国奪還を誓わせた。



ガンツもレジーナの気概に触れ

自然と笑みを零した。



ギュダは無言で軍礼をとっていた。

主君を誇りに思う気持ちが

そうさせたのだろう。









街道での斥候兵との戦闘は圧勝に終わり、

その半数の20騎を行軍させる事になった。



討ち取られた斥候兵の隊長が

もらしたセリフが気になる。



チナ村にジャグラスという者が

きているというセリフだ。



何者か分からぬが、

レジーナ達はチナ村への足取りを

少し早める事にした。

街道での戦死者

イビツヴァーナ





パルメザ





その他3名、計5名

祖国奪還の礎となり

永眠

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