熱烈な愛を桜に送る少年、和田守男。






好きでいる事は人がどうこう言える事ではない。






恋をすることは素晴らしい事だと俺も思う。






けれど、だからと言って相手の事を何も考えない熱烈ラブビームを送っていいかと言われると、そういう訳でも無いと俺は思う。






いや、おそらく俺以外でもたくさんの人が思うはずだ。






モラル的な問題もそうだ。相手の気持ちを考えてない、自己満足でしかないという事もそう。






だからこそ、桜が心配だった。






あの衝撃的な告白から一週間。






和田守男は毎日のルーティンの様に、桜に纏わりついた。






当の本人である桜の顔にも心なしか、疲れが見え始めて来たのである。






当然だ。毎日、毎時間、どこぞのブラック企業のような営業スマイルを作っているのだから。







それに桜は、愚痴を知らない。






桜はただひたすら、自分のストレスを溜め込むだけで、発散をしない.

和田 守男

桜さん、今日も一緒に帰りましょう

羽島桜

……はい

大野信一

………

また一つ、桜のストレスが溜まった。






桜のストレスメーターを察することが出来る様になった。






これは俺の進歩なのか? いいや、見ていれば誰だってわかる。






もういいんだ、桜は頑張った。

大野信一

おい、もういいだろ

俺は桜の前に立ち、和田守男を睨みつけた。

大野信一

お前の目には何が見えてる

和田 守男

僕の目には桜さんしか見えてない!!

大野信一

アホかお前、お前の目にはどんな光景が写ってる??

和田 守男

笑顔で笑ってる桜さんが……

大野信一

ふざけな!!

和田 守男

ちょっと、人の事をバカ呼ばわりは……

大野信一

うるせーよ
バーカ!!

大野信一

人の表情をしっかり読み取れない、自分の行動の自己中さに気づかない、あまつさえ、それに気づかずに人に迷惑をかける。
超絶バカ野郎じゃねーか!!

和田 守男

なっっっ!!
親にも言われたことないのに……

大野信一

そんなの知るか、桜の優しさに気づけない奴に、桜に近づく資格はねえええええええ!!

羽島桜

……!!

気づけば、俺の背中のシャツを桜が掴んでいた。






そして、少し顔が赤く染まっている様に見えた。





可愛い……。





けれど、その横から感じる冷たい視線……。






実の方には向けそうにない。

和田 守男

なんで……そんな事言うんですか……

和田 守男

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

和田 守男

なーーんでーーーだーーーーーよーーーーーーーーー

和田守男は突然暴れ出した。






髪の毛をむしり、頭を上下に振り、身体が左右に揺れている。

和田 守男

なんでみんな僕を嫌うんだ僕は何もしてないのに結局は誰も信じる事ができないんだなんだよもう………

和田 守男

もういい、死んじゃえよ……

瞬間、和田守男がポケットから取り出した刃物……カッター。

和田 守男

死ねぇぇぇぇぇーーーーー

俺は動き出すタイミングが遅れた。







それに、俺と和田守男の距離もかなりの至近距離。避けた所で逃げられない。







なら、やる事は一つしかなかった。

大野信一

桜!!

俺は桜の方へ向き直し、桜に抱きついた。

羽島桜

ふえ!?

早川実

はあ!?

突然の事で驚きを隠せない桜だが、こうでもしないと桜を守れない。






我慢してくれ……!!

伊村延彦

おりゃあ!!

和田 守男

うお!!

突然、和田守男の変なうめき声が聞こえ後ろを振り向くと、そこには横腹を抱えて倒れる和田守男の姿があった。

伊村延彦

おう……どうしたんだこいつ……

大野信一

延彦……おま……ええ……

伊村延彦

いや、なんかカッタ―もって襲い掛かってたから横腹に回し蹴り入れただけなんだけど……大丈夫?

大野信一

みろ、大丈夫に見えるか?

伊村延彦

あー、これはやばいわ

和田守男の目は白目をむいていた。

伊村延彦

とりま、こいつ運ばないとまずくね?

大野信一

おう、どこかへ運ぼう

俺達はまるで死体を運ぶかのように、容疑者を運ぶことにした。






桜はどこか心ここに在らずといった感じでその場に立ち尽くし、






実はどこか俺を睨みつけていた。







なんだ、この状況……。

第18話 悪夢さえあればいい

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