そこでようやく、光は収まった。
そこでようやく、光は収まった。
えっ、もう終わり? いいところ
だったのに……。
……稲葉、あんたあたしの千里眼を安物のテレビかなんかと勘違いしてるんじゃないのかい? ……まったく、こっちは 天命を削ってやってるっていうのにさ。
……。
銀さんは呼吸を整えると、あたしたちに向き直った。
……で、感想は? それと何か
聞きたいことはあるかい?
……うーん、あんなの見せられたら
信じるしかないんだけど、でも
やっぱりあれ本当に起こるんだよね?
……。
はは、正直な子だね。あたしの未来予知は一日以内なら確実に当たるよ。その後となると不確定要素が増えすぎて未来が分岐するから、外れることもあるけどね
うーん、でもシンブラックがまさか
悪い奴らだったなんて……。
ちょいとお待ち。早合点するんじゃないよ、シンブラックが悪い奴らだなんて、
いつ誰が言ったんだい?
えっ、違うの? 人質を取ったり
人を殺したりしてたじゃない?
確かに殺人誘拐は悪い事さね。だが奴らにそうさせてしまった要因が必ずどこかにあるのさ。例えばあんたが一度死んだ原因はなんだったか覚えているかい?
うっ、それを言われると……。
わーい。じゃああたし
お湯くんでくるねー。
給湯室は部屋を出て突き当りを右だ
間違えるなよ。
まったく、いくらあたしが方向音痴だからって、建物内で迷うわけないじゃないですか。心配性だなあ。
まあ、迷子になったあげく命まで取られたんじゃ、確かに割に合わないけどね。
でしょでしょ! もっと同情して!!
だからってこれからも同じことしてたら命がいくつあっても足らないよ?
……はい、すみません。
反省してます。
よしよし、いい子だ。だからあたしが 少しその手助けをしてやろうって気になったのさ。こんな機会二度とないから次はヘマするんじゃないよ?
……はーい……。
……はーい……。
……でだ。シンブラックは目的のため なら何でもする、表面上はグレイな、 中身ははっきり言って真っ黒な企業な
わけだが……。
センセイ! さっきと言ってることが
違くないですか!!
だまらっしゃい! 小さいことには
大きく眼を瞑らなきゃ、この先社会じゃやっていけないよ!?
――はい、失礼しました!
ふん、まあその素直さや謙虚さも
あんたの美徳のひとつだから、
せいぜい大事にするんだね。
真っ黒と言ったが、社長の目的は真っ白というかむしろ聖人的な考えだね。 人から寿命をなくし、労働という概念を消すことで、人類をさらなる高見へと 至らせる。どんな世界になるのか想像もできないが、見てみたい気もするね。
……働かなくていいなら、
人は何をすればいいの?
たぶん、なにをしてもいいんじゃないかね。働くもよし、遊ぶもよし。機械が養ってくれるなら食うには困らないんだから。ただし、寿命がない分殺人や戦争は重罪だろうね。もっとも、誰もが
満たされた社会でそんなことが起きるかどうかはわからないけどね。
話がそれたが、今回関係あるのはその 社長の考えに共鳴した人間のひとり、 まあ人間かどうかも分からないが、
パープルってネコが部下からの報告で 真白とゆーまが裏で繋がっていると
勘違いしたのが始まりさね。
あの執事さんね。なんか裏で
社長とやり取りしてたね。
ああ。佐々木って男が裏でネコを追っ払ったもんだから、そう確信したんだろうね。佐々木はあんたらを守るつもりで働いたんだから、恨んじゃいけないよ?
あの佐々木さんが……
人間やるときはやるもんだね。
佐々木は若いころの行いのせいで畜生道に落ちたんだが、虚仮の一念で地獄から舞い戻った。まあそれはいいんだが、 そのせいで真白はパープルと部下の夜襲を受ける。……あと数時間後にね。
えっ……。
……!!
これを止められるのは、世界であんた達ふたりだけだよ。あたしは未来は
分かるが荒事には向かないからね。
……さあ、どうするね?
問われてあたしは返答に困る。
確かにシンブラックの暴挙を止めたいのはやまやまだが、果たして自分たちに何ができるのだろう?
介護士の仕事をしていた時に、護身術を習ったことはあるが、それがどれほど役に立つのだろうか。
警察に言えば――なんと説明する? これから真白家が強盗に襲われる。……どうしてあたしが知っていると説明する? いたずらと思われるか怪しまれるに決まっている。
もし頼れるものがあるとすれば……。
……お、おう。道に迷ったら次から
すぐに俺に連絡しろ。別の企業でも
同じことして悪名が知られたら、
お前の就職に響くからな。
――だめだだめだ、レンセンパイを巻き込むわけにはいかない。
……もし、ボクたちが何も
しなかったら、どうなるんですか?
ゆーま!?
ほう……その考えはさすがの
あたしも思い至らなかったね。
突然何を言い出すのかと思えば……。あたし自身とは思えない発言だった。
その場合は、水晶玉で見えた通りになる――と言いたいところだが、実際は
そう上手くはいかないだろうね。
――えっ、どうしてですか?
なぜって、あんた達はもうシンブラックが悪事を働くって知っちまったからね。それを知らんふりしてさっき見た通りにできるとは、到底思えないからねえ。
……そうですか、分かりました。
怖い顔をしていた銀さんは、だがそこで表情を緩めた。
――そうか、あんた母親になったんだものね。わが子を一番大事に思うのは別に悪い事じゃないさね。胸張って良いよ。
……はい。
あっ……。
そこであたしは、あることに気がついた。
そうだゆーま、チャーリーは?
――あっ、そうだね! 呼べたらきっと、力を貸してくれるかも!
そしてあたしとゆーまは、姉妹のように声を合わせて彼を呼んだ。
チャーリーさん
チャーリーさん
いらっしゃいましたら
おいでください。
ハイ、私ヲ呼ビマシタカ?