日の光がまぶしい。



 迷宮の暗闇に目が慣れていたせいか、夕方前の陽ざしはハル達の目を細めさせた。どこからか運ばれてくる花の香も、地上に帰ってきた実感の一つだ。

 何より死地を乗り越え、魔気の重苦しさから解放されたハル達。生きてこの場で息をしていることにすら、清々しさをおぼえた。

 地上に戻った後は、そのまま訓練場の一室に赴き、報酬を受け取りに行った。結晶師が二人居て、全員のエンゲージ・コアを確認。魔気を吸い込み少し黒色に変色していた。そしてどうやったか分からないが、結晶師が持つエンゲージ・コアにその魔気を移動させた。

 すっきりと元の透明に戻ったエンゲージ・コア。その回収した量に比例してなのだろう、おそらくガロンの詰まった麻袋を手渡された。

アデル

えっ!?

 アデルはその麻袋の重量に目を丸くした。

 部屋を出るまでアデルの反応が気になる面々。そして部屋を出るや否や、中身を確認する。

ダナン

おおー!
結構あるもんだな。

ユフィ

こんなに!?
想像以上だわ。

 複数の100ガロン銀貨がザラリと音を立てた。太陽光を反射する煌きは単純に美しく映った。

ジュピター

おほっ。
こりゃ美味いもん食えるな。

ハル

うひょーーーっす。
早速、酒場に行くっすよ。

アデル

私は先に宿に
戻ってから行きますね。
又、酒場で合流しましょう。

ハル

へ?
そんなに眠たいんすか?

ユフィ

シャワーに入りたいだけよ。
勿論、私もそうだけど。
それに刻弾の副作用が
どんな形であるか不明だし
一人でいるのは危険ね。

コフィン

アリスはどうしますか?

アリス

無論カジノだ。
一緒に行くか?

コフィン

遠慮しておきます。

コフィン

それでは男性陣は
酒場に先に向かうとしましょう。

 地下にある酒場は昼の太陽光を知らず、いつ来てもランプの灯りと、酒の香りで満ちている。あちこちのテーブルに冒険者が居て、実に美味そうな料理を口に運び酒を喉に流し込んでいる。

 コフィンは適当なテーブルを見付けゆっくりと腰を下ろした。それに続きハル達もテーブルにつく。すると注文もなしに麦酒が6つ7つとテーブルに無造作に置かれた。

コフィン

料理を少し大目で
適当にお願いします。

 細かい注文をしないコフィンの声を受け、麦酒を持ってきたウェイターは軽い返事をして厨房に伝えに行く。

ハル

乾杯~っす!

ジュピター

プハァ~、
こりゃ旨いな。

ダナン

おう、ドンドン飲むぜ!

ハル

ロココももっと
呑むっすよ~。

ダナン

チビチビ飲んでたんじゃ
でっかくならねぇぞ。

ジュピター

いや、
酒で身長伸びねぇだろ。

ハル

そりゃそうっす。

 次々に運ばれてくる料理に手を伸ばし、つまらない話で盛り上がり酒を飲むハル達。その中でロココの口数は少なかった。

コフィン

料理が口に合いませんか?

ロココ

いえ、とても美味しく
頂いています。

コフィン

それは良かった。
気分が優れないように
見えたので。

ロココ

…………

コフィン

…………

 ロココは視線をテーブルに落とし、言葉を発さなかった。馬鹿騒ぎしているハル達と比べると、明らかに元気がなさそうにしている。

 コフィンは何かを言おうと口を開きかけたが、入口にユフィとアデルの姿を確認して口を噤んだ。

ユフィ

盛り上がってるわね。

アデル

凄く良い香り。
ユフィさん、
私達も頂きましょう。

 シャワーを浴びて合流したユフィとアデルがテーブルに付く。アデルの前に新しい料理が運ばれてくると、すぐにナイフとフォークが両手に握られた。

ユフィ

ほんとよく食べる娘ね。

アデル

美味しぃ~。
口の中が幸せで一杯です。
生きてて良かったぁ。

ダナン

アデルちゃん、
この肉も美味いぜ。

アデル

そんなにいっぱい……。
頂きます。

 小さな身体でよく食べるアデルを横目に、ユフィはサラダを少し口に運んだ。そして元気のないロココに気付く。

ユフィ

どうしたの?
体調が悪かったりする?

ロココ

……いえ。

ユフィ

……ロココ。
気にしなくていいのよ。

ロココ

…………

ユフィ

迷宮での探索は
失敗が死に繋がる。
それが分かってるから
自分を責める
気持ちもわかるわ。

ロココ

……ユフィさん。

ユフィ

人間誰もが完璧じゃないし、
失敗もあるわ。

ロココ

で、でも、
ハルさんも危なかったし、
アデルさんに刻弾を
撃たせてしまったのは
僕の責任です。
失敗したでは
済まされないところでした。

ユフィ

その自責の念だけで
いいんじゃないかしら?
それに責任を感じているのは
あなただけじゃないのよ。

ロココ

ユ、ユフィさんは
しっかり指揮をとったり
魔物とも戦ってました。
僕がしっかり自分の
するべき事を……

ユフィ

私だけじゃないわ。

ロココ

え……?

ユフィ

あなたより僅かだけど
付き合いが長いから分かるの。
あそこで馬鹿騒ぎしてる
彼等も抱えてるのよ。
自責の念を。

 視線の先にはハルがいた。デザートチェケンの手羽先を五本同時に口に放り込み、手を使わずに骨を綺麗に取り出す隠し芸を披露している。その無意味な技術を見せる面構えはアホとしか言いようがない。

ユフィ

私の指揮も
もっと早く出せたし
鞭を失ったのも痛手だったわ。
前衛の三人は自分が弱いから
苦戦したって思ってるだろうし
アデルだってロココに
刻弾を撃つのを任せきり
だったって思っているわ。

ロココ

そんな事ないです。

ユフィ

そう思うなら一緒じゃない。
皆同じよ。
自責の念を持つ仲間を
責めたりする事はないわ。

ロココ

こんな僕を仲間って
言ってくれるんですか?

ユフィ

ええ、もちろん。
皆そう思ってるわよ。

 ユフィは即答して、あまり見せない笑顔を見せた。それは自然体で温かくて、ロココの表情も少し和らいだ。

ユフィ

仲間だと思うからこそ
協力しあうのよ。
お互いが信じあって力を併せ
困難に立ち向かうもの。
だから私はあなたに
刻弾を撃つように指示した事を
間違っていたと思わないわ。
ロココ、あなたを
信じているのよ。

ロココ

僕を信じて……

ユフィ

ええ、もちろん。

ロココ

…………

ユフィ

プレッシャーに感じるわね。
それが自然だわ。
でも、一緒に乗り越えて
成長しましょう。

ロココ

一緒に…………。

コフィン

私がルーキーの頃、
先輩に言われた言葉を
思い出しました。

 ずっと隣で聞いていたコフィンが、唐突に話始める。

コフィン

先輩であろうが
指示を出す立場であろうが
背中を預ける相棒。
どちらか一方が信じて用いる
『信用』じゃ駄目だ。
お互いが信じて頼る
『信頼』じゃなきゃ
生きていけない。
という言葉です。

ロココ

…………。
僕にも出来るでしょうか?
そして、その期待に
応えられるでしょうか?

コフィン

それはあなた次第です。
あなたにも目的がある筈です。
私が言えるのは、
迷ったり恐れたりした時に
その目的を思い出す事。
すると自然に
勇気が湧いてくるものです。

ロココ

目的…………。

 ロココは目的という言葉を聞き、眼を伏せた。何かを思い出すロココに、二人は何も聞かなかった。

 ~航章~     70、自責の念

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