神 斬
髪 切 り屋

参の巻 金剛

4、六大(ろくだい)四

さて、物語の舞台は、日出国(ひいずるくに)木国(きこく)光野山(こうややま)
町石道(ちょうせきみち)の二つ鳥居

丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)から
光野山(こうややま)の土地を譲りうけた、空海が、
その感謝の気持ちを、あらわすために作った鳥居と
言われている。

二つ鳥居からは丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)が
ある天野の里の風景が一望できる。

そして、いま、遍照と名乗る、法師が、この、二つ鳥居から
天野の里の方向に、祈りをささげている。

この時の朱右は、まだ知らないのであるが、この遍照こそが
空海その人であることを。

遍照金剛

朱右殿、少しは、体力的に、回復いたしましたかな?

朱右

ええっ、おかげさまで、少しは回復いたしました。

二つ鳥居のよこにある、町石には
百二十と彫られている。

慈尊寺を出発するときの町石は百八十と彫られていた
壇上伽藍の一町石まで、1/3歩いたことになる。

朱右

すこしは、体力が回復したとはいえ、まだ1/3はたして
俺は、壇上伽藍までたどり着けるのだろうか

すこし不安になる、朱右だったが、また、一つ、先ほどから
別の事が、すごく気になっていた。

その事は、朱右の口から、思いではなく、次の瞬間
言葉になって発せられていた。

朱右

あのぉ、遍照さん、一つ聞いてもよろしいでしょうか?

遍照金剛

どうぞ

朱右

先ほどから、すごく気になっていたのですが、遍照さん
 目をつぶったままで、道を歩いているのですかね?

遍照金剛

はい、よほどのことがない限りは、あまり、目を開けていませんが

朱右

気にさわったら、すみません、ひょっとして、遍照さんて、視力が弱いのですか?

遍照金剛

いえ、視力が弱いわけでは、ありませんが

朱右

なら、安心しましたが、しかし、ほとんど、目をつぶったままで、道を歩けるってすごいですね

遍照金剛

これも、日々の鍛錬の成果ですかね

遍照金剛

さて、朱右殿、お話を変えますが、少し、朱右殿の体力が、回復できるように
雑談をさせていただきますね

遍照金剛

この、町石道(ちょうせきみち)は、かつて、光野山(こうやさん)を開いた
 僧が、麓の慈尊寺におとずれた、その僧の、高齢のおかあさんに、会いに
いくために、開かれた、道なのです

遍照金剛

その当時は、木の、卒塔婆をたてていたのですが、その後、石の卒塔婆
 つまりは、町石となって、現代の形の道となったわけです。

遍照金剛

そして、その僧は、母に、ひと月に、九回、御山から、慈尊寺の間を往復して、高齢の母を案じて、上り下りしていました

朱右

なるほど、だから、九度山なのですね

遍照金剛

さすがは、朱右殿、察しがよいですね

遍照金剛

では、察しのよい、朱右殿に拙僧から、質問です。
 あなたは、稲荷神から、聞くところによると
右目にだけ、黒髪が見えると、言うことですが
この二つ鳥居から、天野の里を見て、黒髪は見えているのでしょうか?

遍照金剛

私には、黒髪を見ることができないので、率直にお答えいただきたい

朱右

(なんか、子供の時に、こんな感じの質問されたような・・・)

朱右の記憶の片隅で、白狐との修行の日々が思い出されていた。

朱右は右目に精神を集中し魂の力を発動した
朱右の右目がうっすらと朱色の光をはなち輝いていた

遍照金剛

(ほう)

朱右は、なぜ、白狐が、自分と僧遍照を引き合わせ、
御山登りをする事になったのか
その、意味に確信をもちつつ答えた。

朱右

天野の里を見ますに、先ほど、参拝させていただいた
 丹砂都比売神社(たんさみやこひめじんじゃ)の辺りには、黒髪らしきものは、全く見えません、清浄な空気で満たされている感じです。

遍照金剛

なるほど、では、朱右殿、あちら側を見てもらえますか

空海は、ある、方向を指さした。

そして、朱右に問うた

遍照金剛

朱右殿、拙僧が指さした方向に、何か見えますかな?

朱右

すこし、木々が邪魔して、見えにくいのですが、遠くの、山の上に、大量の黒髪が柱のように
立ち上がっている部分が見えます。
 対照的に、その近くには、全く、黒髪が見えません

遍照金剛

なるほど、稲荷神の言っていた事を信じていなかった訳ではございませんが
 朱右殿、あなたの黒髪を見る力は本物ですね
試すような真似をして、失礼いたしました

空海

それでは、朱右殿の体力も回復したようですし
 水分を補給して再び、出発しましょうか
 これから、朱右殿には、拙僧と一緒に、少し
 鍛錬していただかなければ、ならないのでね

すこし、遍照の顔がうれしそうに、やさしくほほえんだように見えた

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参の巻     金剛 4.六大 五に続く

神斬髪切り屋 参の巻 金剛  4 六大 四

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