神 斬
髪 切 り屋

参の巻 金剛

4、六大(ろくだい)三

ここは、日出国(ひいずるくに)木国(きこく)光野山(こうややま)
町石道(ちょうせきみち)の六本杉

意気揚々と、歩く、すこし華奢(きゃしゃ)に見える、お坊さんと
その後に、元気に歩く、白黒の犬
そして、すこし離れて、かなりお疲れ気味の、大きめリュックを
背負った青年の一行が壇上伽藍を目指しておりました。

遍照金剛

さすがに、11月ともなりますと、すこし、肌寒いぐらいで
ずいぶん歩くのが、楽な季節になりました

朱右は、その言葉を聞きながら、心の中で思っていた

朱右

(この人は、体力的に、超人か何かなのか?)

朱右

あのぉー、遍照さん、少し、休ませて、いただけないでしょうか

遍照金剛

朱右殿、さすがに、ここで、休憩をしていると、御山の境内に、予定の時刻には
 到底、着きますまいて、もうすこし、頑張って、歩いてくださいね。

遍照金剛

この先、すこし行った、所に、二つの鳥居が並んでいる、場所がありますので
 ひとまず、その場所に着いたら、すこし、休憩いたしましょう。

朱右

遍照さんって、すごい、体力があるんですね。

遍照金剛

ははは、昔は、拙僧も、すごく、山道を登ったりするのが、苦手でしたよ
 でも、法起坊(ほうきぼう)と言う、天狗に鍛えられた成果ですかね、山道を
 歩くのも、へっちゃらになりましたよ

遍照金剛

最初は、誰でも、今の朱右殿、みたいなものですよ、男子なのですから
  頑張って、修行すれば、すぐに、足腰が強くなって、山道もへっちゃらになりますよ

朱右

しかし。遍照さん、今、さらっと、びっくりな事を話してませんでした。
 遍照さんの師匠って、法起坊(ほうきぼう)って天狗なんですか?

朱右

稲荷の神が、存在するのを知ってるから、今さらですけど、普通の人が
 天狗が現代に、実際、存在しているって知ったら驚きますよ(汗)

遍照金剛

法起坊(ほうきぼう)は、そうですね、私の山林修行の師匠といいますか・・・
 吉乃の金峰山や四国の石鎚山で、私が若い時に、山林修行していたころ
 いろいろ、教えをいただきました、まっ、心の師って感じの人ですかね、何代目だったかは、存じ上げませぬが

遍照金剛

僧としての、師匠は、石淵上人 勤操(ごんそう)様
 拙僧に虚空蔵菩薩求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)
 今の時代で簡単にいいますと、超記憶術的なものをお教えいただいたかたです

遍照金剛

そしても、もう一人の師匠は、第七祖阿闍梨である
 青龍寺の恵果和尚 現代では恵果阿闍梨と呼ばれているかたですね。
 密教の師匠でもあり、灌頂(かんじょう)時に、拙僧に遍照金剛の名を授けてくれたのが、恵果和尚であります

朱右

へー、だから、遍照さんなんですね。灌頂(かんじょう)ってのは
 よくわかりませんが

遍照金剛

灌頂(かんじょう)は、簡単に言いますと、仏の道に入る時や位を授かる時に
 守護してくださる、仏様との、ご縁を結ぶ密教の儀式でございます
 私の、灌頂名、遍照金剛は「この世の一切を遍く照らす最上の者という意味で
 大日如来とのご縁がある、灌頂名でございます

そんな、話をしながら、石道を歩いていたが、すでに半時以上は、経っておりました。

朱右

(もう、あれから、30分以上も経っているけど、遍照さんのすぐ近くの感覚は、何キロ歩く事なんだろう)

遍照金剛

朱右殿、二つ鳥居が見えてきましたよ。

遍照金剛

拙僧は二つ鳥居から、天野の里を拝むので、朱右殿は、休憩しておいてください。


この後、いよいよ、遍照金剛(空海)の六大修行が始まる事を、朱右はまだ知らない。

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参の巻     金剛 4.六大 四に続く

神斬髪切り屋 参の巻 金剛  4 六大 三

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