飛行船からゴリさんやえるふちゃんに見送られ、ボクは寮の前に降り立った。
飛行船からゴリさんやえるふちゃんに見送られ、ボクは寮の前に降り立った。
船はしばらくすると移動を始める。あれはえるふちゃんの家に向かったのかな。
昨日から丸一日か。あれから
いろいろあったな……。
……。
自室の前につくと、人が待っていた。
お帰り、遅かったじゃないか。
あなたは確か……あの時のお婆さん?
ちょいと話がしたいんだが、
家にあがってもいいかい?
はい、どうぞ。
やれやれ、記憶が別々ってのは
厄介なもんだね。あんたらふたりに
話を聞いてもらいたいんだが、
もうひとりの方に戻れるかい?
あ、はい。
わっ、ととっ。あれ、家に戻ってる?
あ、うん。
ボクはあたしにここまで来た経緯について、ザックリと説明した。
こんばんは、稲葉。
あ、銀さんだ、こんばんは。
……。
稲葉ってアンジーの呼び方が移っちまったよ。嬢ちゃんは、何て呼ぶべきかね、
名前はなんていうんだい?
あ、ゆーまです。
うん、あたしもゆーまって呼んでる
じゃあ、ゆーまだね。あたしは
銀河の使者だよ。よろしくね。
はい、よろしくお願いします。
で、銀さんはわざわざ何しに
うちまで来てくれたの?
茶を飲みに、と言いたいところだが、 まあありていに言えば、助言をしにさ。
すでに死ぬ予定の人間が死なずに、
死ななくていい人間が死んでいる。
この子らに罪はないんだが、はてさて どう切り出したらいいもんかねえ……。
ずずず~。飲んでるふり。
……助言? って、あっはは、
なにそれゆーま、超傑作!
ああ。ちょいとテレビつけてもいいかい?
はい。最近全然見てないけど、
今面白いのやってるのかなあ?
――昨年、全世界で同時多発的に起きた融合炉の事故について、日本やその他の保有国ではいまだ稼働中であり、原因は国民性に由来する整備不良なのではないかとの意見が有力です。この指摘ついてシンブラックを始めとする現地入りした日本の技術訪問団は「そうかもね!?」と表明しており、関係者は頭を抱えている模様です。次のニュースです――。
あー、これ大変だったよねえ。ネットは繋がらなくなるし、飛行機は飛ばなくなるし。日本国内でもこんなのだったから実際停止した国は大変だったろうなあ。
もう去年のことだ。電気という現代人の生活には欠かせないエネルギー源を不意に絶たれた国々は、国内機能がマヒし大パニックに陥った。
非常用の電源や燃料もすぐ底をつき、原因不明の一斉停電は人々の生活を石器時代レベルにまで陥れてしまった。
先進国ばかりに起きたことから、人々は最初テロの可能性を考えたが、肝心の攻撃も声明も証拠もなく、偶発的な事故という線で話はまとまりつつあった。
一週間続いた停電は海外支援という形で収束を始めるが、そのうち最も貢献度が高かったのが、シンブラックによる「エネルギー転移」技術だった。
日本の同盟国だったアメリカへの支援を皮切りに、必要最低限の電力を確保した国々は予想を大幅に下回る被害にとどめ事態を収拾できた。
転移装置で既に世間の注目を集めていたとはいえ、一企業に過ぎなかったシンブラックが現在までの地位を獲得するにはこのような経緯があったからだ。
今やシンブラックは月面に独自のプラントを持つことが許されるほどの巨大企業にまで成長した。この一連の出来事を関係者はのちに「エネルギーショック」と呼んでいる。
この事件、そもそも最初に引き金を引いたのは先進国側だが、実は融合炉を停止させて事態を拡大したのがシンブラックだって言ったら、あんた信じるかい?
えっ、そうなんですか?
今や救国の英雄扱いされ、就職難易度ナンバーワンとまでいわれるシンブラックにそんな悪評があるなんて、にわかには信じられなかった。
うー……ん、でも一応、あたしそこを 目指して頑張ってるわけで……。
目指すのは問題ないさ。混乱させちまったね。あたしが言いたいのはさ。
……そのシンブラックが、あんたたちを今も血眼になって探してるってことさ。
先に引き金を引いたあんたたちをね。
えっ……。
……。
稲葉は心底意外、ゆーまは
心当たりがあるって顔だね。
ゆーま、それ本当なの?
うん、いつかは来るとは思ってたけど、まさかこんなに早く誰かに知られるとは思ってなかった……。
いつか来る? とんでもない!
もう見張られているのさ!
ここも、あたしらもね!!
ええっ、銀さん、
お、脅かさないでよ。
あんたたちだけの話じゃない。
あたしやアンジーも既にやばいのさ
でも安心おし。あいつらも馬鹿じゃない次の手を打つために今は準備している 最中さね。だから次の一手ですべてが
決まる。先手をどっちが打つか、
こちらがどう動くかで次が決まるんだ。
あたしはそのために今日ここへ来た。
光った……!
見せてあげるよ、明日何が起きるのか。
今何もしなければどうなるのかをね!
……。