……

セリン……?

 戸惑う彼女の横で、男の眼が、ゆっくりと引き絞られる。
 私が放った、刃のような言葉へ合わせるように。

ああ

 男の端的な返答は、周囲に満ちる光を、陰るように感じさせた。

その日々が続くほど――かつての世界は、優しいものではなかった

 そう語る男の瞳は……最初に出会った時と同じ、黒い力を秘めたものに戻り始めていた。
 彼女もまた、男の様子の変化に気づいたのだろう。

……すてきな日々が、ずっと続くことは、ないのでしょうか

であれば、俺が今ここに存在することは、ないだろう。違うか?

……

 無言となった彼女と、苛立ちの視線で見つめる私へ、男は口を開く。
 ――そうなった理由と、かつての世界の光と影を、私達へ語るために。

アイツは周囲の人間達に、完全に受け入れられていたわけではなかった

 独り、森の奥に住居をかまえ、最低限の交渉で生きる変わり者。
 それが、かつての世界で女性が呼ばれていた立場だと、男は告げる。

魔女、と呼ばれることもあったらしい

 街から離れた土地で暮らし、生計を立てていた彼女。
 まれに街へ降りることはあっても、行うのは最小限の関わりだけ。
 薬学や戦場での知識を求められ、応えることはあったが、それが魔女と呼ばれて遠ざけられる原因にもなったらしい。
 ……つまりは、彼女も男と同様、周囲と強い関わりがあったわけではないようだった。

それは、しかし俺のような厄介者を抱え込むには、好都合でもあった

 変わり者として過ごしていたため、そうした変化は関係のないことだと、村からは放っておかれたという。
 だからこそ二人の生活は、しばらく安定していた。

関わらないことが、穏やかになられることも、あるのですね

案外、この闇に眠る者達にも、同じ考えがいるのかもしれんな

そんな、ことは……

 途中まで出た言葉を、彼女は最後まで形に出来ない。
 なにを想っているのか、もう私も男もわかっているから、聞きはしない。
 男は自分の話に戻るためか、少しだけを顔を険しくし、言った。

だが、いつしか人の言葉は、様々な場所へと伝わる。俺の存在を知る者が、その場所にいることを、気づいたように

 女性は、男の存在をできるだけ隠していたという。
 が、それでも、王の軍隊にまで情報が渡っていたらしい。
 そして、その危険な空気を、男が出先の森で感じた時。
 ――すでに事態は、変わり始めていたのだという。

……俺が戻った時には、もう、遅かった

 ――彼女は、男と共にいるというだけでバケモノの烙印を押され。
 ――その全身を、串刺しにされ、殺されたのだという。

……っ!!!

――あいつは、ただ、俺とともにいただけなのに。平和に暮らせるように、祈っていただけなのに

 串刺しにした者達を、想い出しているのか。
 顔の全てを引き集めたような男の表情は、まるで、かつて見た悪魔や怪物のような不気味さがあった。

叫び、怒り、やつらを打ち付ける俺を見る眼は……あの頃と、まるで、変わっていなかった

 男を見つめる、王の兵士達。
 彼らの眼は――かつての、男を恐れた、瞳と同じものだったという。

……そして俺は、全てを、忘れた

 そこから先の記憶は、はっきりしないと、男は言う。
 ただ、わかることと、覚えていることが、一つだけある。
 怒り狂い、追っ手を全て皆殺しにし。
 より深い絶望が、その心を覆ったこと。
 それだけは、はっきり、今も覚えていると。

――結局、俺の手にできたのは、どす黒く見えるほどの血の池だけ

 顔をうつむけ、私達の瞳を避けるように、男は口を開く。
 光がこぼれ落ちるような、淡い、ゆれるような声で。

俺は、彼女との約束を、守れなかったのだ

 ぽつりと呟く男からは、光がこぼれていた。
 先ほどまで、グリの光よりも強いのではないかと想えた、男の光。
 それが今は、少しずつ、削りとられるように闇の中へと吸い込まれていく。

ケッツァー、さん……

 その様子に、隣に立つ彼女も、名前を呼ぶことしかできない。
 男も、こぼれ落ちる光を代わりに、言葉を止めてしまった。

そうして、あなたはまた、闇にのまれてしまったのね

セリン……!

 私の言い方が気になったのか、視線を向けてくる彼女。
 でも、非難するようなものではなく、どちらかと言えば。

(泣きそうなのに、泣かない)

 先ほどの男と、違うのに、似ている。
 全身で感じているなにかが、ぎゅっと、顔に集まってしまったように見えた。

(……いっそ、感情のままに責め立てられた方が、楽なのかもしれない)

 自分と同じ立場の、違う考えの存在に、始めて出会った。
 今更ながらに、男と話しながら悩んでいたことは、吐き出してしまった方が良かったのかもと感じる。
 なぜなら――否定され、非難され、対峙してしまった方が、苦しまなくてすんだかもしれないから。
 私は、そんなことも考える。

(……そうか。これが、同じ目線の、違う感じ方)

 でも、と、不安も感じる。
 胸に初めて感じた、その想い。
 ――まるで、光と闇がせめぎ合うような、やるせない心地を。

……そこからは、さっき言ったとおりだ

 顔を上げた男は、最初の雰囲気に戻っていた。
 神か悪魔と呼ばれ、私を恐れさせ、闇に似た重さを発し。
 そして、かつての世界で全てを破壊し、戦場を血で染めたという存在へと。

王に従う者、王と血のつながる者、そして全ての始まりである王そのもの。それらを、この手で

 じっと、男は自分の両手を見つめる。
 大きく開いた、巨大で威圧的な、人ならざる力を持つ、二つの手。
 ……空っぽの、両手を。

――心のままに求めた行動は、全て、満たされた。俺は、初めて、結果を手に入れた

結果……ですか?

自身で望んだ、行動の結果を、手に入れたのだ

望んだ、行動……

 彼女は、男の言葉に疑問をぶつけた。

そう、なのでしょうか

 その声に、私の皮肉を止めた時のような、硬さをにじませて。

それは、ケッツァーさんが、ご自分で望まれたものでは……!

心を塗りつぶし、想いつく限りの形と姿を、動かなくした

 空っぽの両手を、握りしめ。
 最初に、彼女に叩きつけようとした拳を、その眼の前へと差し出して。
 ――暗い、闇のような声で、男は告げる。

それは……育てるという行為を知った俺が、自分で、選んだことだ

……っ

 暗い声に、今度は、彼女も返す言葉が出てこない。
 そうして、男の雰囲気が最初に戻るほど、薄暗い世界が私達に近づいてくる。
 周囲に満ちていた光が、少しずつ、弱まっていっているからだ。
 グリの光と彼女の光は、ずっと変わらない明るさを保っている。
 変わっているのは――やはり、男から漏れ出ていたはずの、女性と交わした、記憶の灯。
 それに、気づいているからなのか。
 彼女が、男が闇に偏らないよう、願う言葉を呟いたのは。

(男の胸の内にあり、かつての世界で過ごした、様々なこと)

 その中には、もちろん、女性と過ごした明るい日々もあったのだろう。
 ……だが、私には、わかる。

(光るだけの、ものじゃないのよ)

 私の考えと合わせるように、男は、低い声で呟く。

都合のいい、夢だったのだ。自分の存在を、忘れようとし、平和に暮らそうとした。そんな俺が……そのままでいられるはずは、なかったのだ

 闇を感じさせる、男の重く低い声。
 最初に、神か悪魔かと私達をふるえさせた時よりも、そこには違う響きが混じっている。
 ……その中に、光があることも、知ってしまったからだろうか。

(だから、知りたくはない。進み続けるだけなら、そんな、混じりあった感情は……知らなくて、すむのに)

 私も彼女も、ただ、男の言葉へ耳を傾ける。

散っていったアイツは、その俺を、なんと呼んだのだろうな?

 ――女性とともに、男が約束したこと。
 ――誰かを見つけるために、罪を忘れず、なにかを育む。
 ――それを破ったのも、また、男自身でもある。

 育むことを捨て、かつての力をふるった男。
 燃えさかる赤と、地面を染める紅。
 全てが赤く染まった世界は、生ぬるいのに、どこまでもこの闇のようにおぞましいものだった。

 ――男は、そう語り。
 ――私は、流れ落ちる血の色を、想い出す。

 ……まれに見ることがある、印象的な、形からあふれる赤い色。
 血と呼ばれるあれが、満ちる世界だなんて、想像するだけで身が重くなる。

……それが、先ほど聞いた話に、つながるのね

 眼の前の威圧感から想像するしかない、男の行為。
 迷いもなく、先ほどの拳をふるわれた世界は、いったいどんな形に変わったのだろう。

その後の記憶は、なぜか、はっきりしない

 王を討ち、かつて自分が過ごした城も破壊し。
 かつて逃げ出した地下室も、炎というものとともに消え。
 男はようやく、そこで肩から力が抜け、武器を落としたのだという。

そのまま、考えもしない存在として生き続けたのか。それとも、それこそが最後の力で、あの人間達に灰とされたのか

 男の意識は、もう、考えることすら放棄し始めていたのだという。
 かつて山の中をさまよい、女性に発見された時よりも、より深く。

――俺の心に、もう、光は見えなかった

 なにかを育てることも、壊すことも。
 男の眼と心には、もう、なにも映し出されることはなかったのだという。

俺には、もう、なにかを照らし出そうなんて考えは、残っていなかった。罪の精算をし、なにかを育むことも。または、他者から恐れられる存在となることも

 また、男は両手を開く。
 空っぽのままの、その両手を。

俺は、全てを捨てた。……なにもかも

でも、でも……リンは、信じています

ケッツァーさんの心を照らした、女性さんの心。その、光を、リンは信じています!

 その彼女の言葉は、どこかズレているように感じた。
 光を否定しているわけでも、闇にとらわれたわけでも、男の行動は説明ができない。

……信じていない、わけではない

 男は、彼女の言葉を受け止めながら。
 どこか、悲しそうに、次の言葉を口にする。

だが、強い光は……より強い、闇を生み出す。俺には、それを、抑えることができなかったのだ

……光が、闇を、生み出す

 ――想わず、納得してしまいそうになる。

 あんなに優しく、語りあった光が。
 真実を知った時、「嘘つき」という言葉とともに。
 私の胸をえぐった時を、想い出して。

そんな、ことって

 彼女も、男の言葉を、わかっていないとは想えない。
 ……知っていながら、周囲を照らしだすことは、はたして罪といえないのだろうか。

(それでも彼女は、光で照らそうとするのだろう。……眠る形が、そう、望んでいないとしても)

 もしこの闇に、グリや彼女の持つ光がなければ、この闇はそもそも『闇』と認識されない。

 ――光があるからこそ、闇がある。

(なら、私と彼女が求める、『永遠の光』は?)

 ――私と彼女が、進み続ける理由は?

……わかってはいるのだ。俺の、俺が、耐え続ければよかったということは

 空っぽの掌を見つめながら、男は、できなかった想いを口にする。

だが、俺は、できなかった。照らされた光を、失ったことに。――世界に満ちていた、その闇を、許すことは

ケッツァー、さん……

……お前の眼は、似ている

ほえっ? リンの眼が、誰にですか?

あいつの、俺を信じると言った眼に……よく、な

 そこまで言って、男は――。

……くっ

 ――まるで、腕をねじる痛みのような声を、小さく漏らし。

ここは、どこだ

えっ?

 周囲に満ちていた光を、最初の、黒い濁ったものに変貌させた。

こんなに、俺の心をかき乱し、なにを考えている?

あの、リンはお話を聞きたくて……!

……

 彼女は、必死に男へ呼びかける。
 だが、男の雰囲気は、また一変していた。
 まるで――かつて出会った、巨大な力を持つ、恐ろしいナニカと似た存在に。

暗闇の世界……ここは、地獄か。だが、断罪する管理者もいなければ、笑う悪魔の気配もない。もしくは、先にここへ来ているであろう、忌々しい王に関わる人間達の気配も、なにも感じない

ケッツァーさん、落ち着いてください!

……俺の胸に満ちる、この、暖かな光

 空っぽの手を、男は、胸へと当てる。
 その付近にだけ、光が膨れたり縮んだりしながら、暴れるように光を脈動させている。

俺が、芽生え、忘れていたもの。……もう、闇に押しつぶして、しまいたかったものなのに

潰して、しまいたかって……。そんな……!

(――暖かな、痛み)

 男の嘆きが、私にはよくわかった。同じような痛みを、想い出しそうになるくらいに。

 ――私のために泣きながら、消失していった優しい少女。
 ――そのほのかな光は、想い出すたびに、手がふるえてしまうほど。

(光があるから、闇が深くなる)

 今の男の様子は、自分で言ったとおりの状態だ。
 こうして、かつての世界でも、自分を抑えられなくなってしまったのだろう。

お前達は……何者だ

そ、それは……

なぜ、俺の記憶を探る。……なぜ、俺にとって最も愛しい時間を、想い出させた

 だから、私は。
 感情を溢れさせ、怒りと悲しみを混ぜたように叫ぶ男を、じっと見つめ。

これほど……苦く愛しいものを、なぜ

 ――手元のグリを、身体を守るように、そっと掲げる。

愛しい……。愛しいのに、お辛いのですか……?

 ふるえるような言葉を吐き出す男へ、彼女が、足を踏み出そうとする。
 また、繰り返すために。

――茶番ね

 私は、その一言で、彼女の足を止めた。
 ……そう。
 もう、茶番は、いい。
 優しい世界も、冷たい世界も、同じことだ。
 ――いつかは、光か闇に、変わってしまうだけなのだから。

ちゃ、ばん?

こうして、この光の話を聞いて、どうするの

どうするって……。大切な、ことじゃないですか

大切……。大切なのは、誰のため?

もちろん、ケッツァーさんのためです!

……っ!

 ぎりっ、っと歯を噛みしめる。
 私は、怒っていた。
 彼女の振る舞いに、心を乱されていた。

ケッツァーさんに、せめて、良かった想い出を取り戻してもらいたいんです!

せめて……?

せめて、ですって!?

 ――だから、言わずにはおれなかった。

奪うだけの私達が、誰かを救おうだなんて、ありえない。……考えていい、はずがない! 言っていい、はずがないのよ!!

セ、セリン……?

 絶叫した言葉は、彼女の胸に、届いただろうか。
 ……関係ない。
 どちらにしろ、思いあがったあなたに、言わずにはおれないから。

あなたは、勘違いをしているわ

 切った口は、もう、戻ることはない。
 胸の中に抑え込んでいた言葉も、あふれ出て、止めることはできない。

私達がやっているのは、救済じゃないわ。与えているのは、絶望なの

なにも、なにも救うことなんて、できないのよっ

 自分から、こんな声が出るなんて、おかしいわ。
 他人事のようにそう感じながら、私は叫ぶ。
 叫び続ける。

光が強ければ、闇が深くなる。消えていく者が、どんな想いで、その光を感じていると想うの?

消えていく、方達……。リンがやっているのは、闇を、深くすること……?

そう。あなたがやっているのは……自分のため。光を見て、この闇を忘れ、安心したい

 深く、低く、私は言った。
 男の、悲しく重い声を、再現するかのように。

――自己満足に、すぎないのよ

 そこまで一気に告げた私へ、彼女は、言葉を返してこなかった。
 代わりに、聞こえてきたのは。

奪う……奪う、だと。どういうことだ

 地の底から響くような、男の、ふるえる怒声だった。

あ、あの……

奪われるのは、俺のことか?

あの、聞いてくださいケッツァーさん!

 彼女は、触れ合おうと近づくけれど。

……!

 男の瞳が、鋭くなる。
 かつて、神か悪魔かと呼ばれていたと自身で語った、険しい目つき。

ええ。――奪われるのは、あなたよ

 そして、その切れ味鋭い矛先が向けられるのは。

セリン……!?

 彼から漏れ出る光を吸うために、無表情にカンテラを向ける私へだった。

待ってください、セリン!

 訴えるような瞳で、彼女は私へふりむく。
 でも、その瞳の意味に応えることなく。

グリ

『いやぁ、久しぶりに話せますなぁ。……まぁ、悪く想わんでほしいねぇ』

 誰へ向けたものかもわからないグリの言葉を無視し、カンテラを前へと突き出す。

さぁ、終わりにしましょう

 冷たく、淡々とした口調で、私は男へと告げた。
 ――そう告げれば、わかるだろうから。

光……。そうか、先ほどよりも強い光。これは、俺から……?

 男の視線が、自分の腕や足を見つめ。
 その流れの先を追い、答えを見つけ、驚愕する。
 光の道は、美しい一本の線を描きながら、私の手元へと延びていた。
 ――グリが照らす、カンテラの光へと。

力が……抜けていっている、のか? これは、俺の力を、貴様達が吸っているのかっ

あ、あの……

そうなんだな

……はい

 小さな声で、彼女はうなずいた。
 グリほどではないが、彼の光は少しずつ、彼女の手元にも惹かれてしまっているようだった。

リンとセリンは、あなたの光を。その、かつての世界で光っていた理由を、知りたくて……

 ――その言葉が、引き金となった。

ふざけるなっ!

 男の怒声に、周囲がふるえた。
 そんなこと、あるはずがないのに。
 だが、目の前の男を見ると、ありえないことではないと想えてしまう。
 最初に出会った時の、威圧感と圧迫感。
 それを上回る殺気を、私と彼女へ向ける姿が、そこにあったからだ。

騙したのか。俺を、戦場へと駆り立て、彼女を殺した者達と同じように……俺を、利用しようとしたのか!?

ち、ちが……

 彼女の声は、だが、はっきりとしなかった。
 だから――。

『永遠の光』

 ――私が代わりに、その意志を、進む。

私は、そこへ行かなければならない

セリン……!?

この闇の世界を払い、かつての世界へ戻るかもしれない、ただ一つの方法。その言葉を信じ、私は、私達は、この闇を進んでいる

 ――そう。たとえ、それが。

どんなに闇にのまれようと。あらゆるものを裏切っても。どこまでも終わりが続いていようとも

 ――光を奪い続けるその行為が、闇と、同じものだったとしても。

この手の光が、絶えるまで。本当に、裏切るわけには、いかない

 ――そう、形を持って、私はここにいる。

たとえ、全てを犠牲にしてでも。それが、私の進む、理由だから

 ――それが、かつての男のように、私が意志を持った時。
 ――私が決めた、この世界での……進み方、なのだから。

セリン……

『永遠の光』、だと……

 小さく、私の言葉を噛みしめると。

……ふっ、ふふ、ふははは!

 今までにない大声で、男は、笑った。
 空っぽの片手で、その顔を、覆い隠しながら。

ケッ、ケッツァーさん!?

……

いっぱい、食わされたというわけか。こんな子供の甘言に、まんまと……!

ケッツァーさん、あの、お話を

違わぬだろう!

あ、あぅぅ……!

 横目で見た彼女は、眉をひそめて、なにかを言おうと口を小さくふるわせた、辛く悲しいもの。

違わない。……どんなに言葉を、選ぼうともな

 そんな彼女の様子を、見たからか。
 それとも、すでに怒りを抑え、戦うための状態へ変化したためか。

お嬢ちゃんは、俺の光を、奪うために現れた。それだけのことだろう?

 冷静に、私たちとの関係を口にした男から。

あっ……!

 ――胸に残っていたかすかな光が、すっと、消えていった。

ケッツァーさん、あの……!

リン!

……セ、セリン!?

覚悟を、しているのでしょう

 無視しようかとも、考えた。
 余計な言葉をかけている、との自覚もあった。
 でも、それでも、私は言うしかなかった。

あなたも、『永遠の光』を探す者なら――

 のみこんでいた言葉を、封じていた言葉を、自分にかけた呪いを。
 私は、彼女に。
 リンに、施す。

――心なんて、捨てなさい

……っ!?

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