あんた……瞳子をどうした








灯里の母親は
西園寺撫子の代わりとして
侯爵家に行った。

それは


……そうか、亡くなったのか




ただ単に
娘の代わりをするため、ではなくて


西園寺にいたら殺される、と物騒なことを仰っていたとか


瞳子を使って
新たな「西園寺撫子」を作ろうとして


それで、失敗した……のか?







瞳子が欲しいと言って来たのか


侯爵が灯里の母親に
どんな処置を施したのかは
想像することもできない。

だが
そのせいで灯里の母は亡くなった。





だから今度は

人形の「瞳子」を欲しがった。










でも所詮は自動人形。
それも森園輝が「瞳子」として
作り上げたものだ。

侯爵が理想とする「撫子」には
程遠い。



その所作も。
能力も。

「人間」として見るのなら。





















あの侯爵家の遣いという男が
森園輝に渡していた紙幣は。

あれは何のための金だったのか。
本当に、ただの援助だったのか。
輝と侯爵の間で
「何についての金か」という理由に
相違はなかったのか。

もしくは
知らせないまま渡すことで
「代金を受け取った=了解と見なす」

なし崩すつもりだったのか。




















そして
輝と瞳子だけではなく
今度は――






















木下女史を、
罪もなき少女たちを、

紫季を、
そして灯里を

己の目的のために
利用しようとしている。

























でも、灯里の代わりとなる技術を持つ者など

言っただろう。
私は少しばかり医学の知識がある。それに協力してくれる者もいる

3人寄れば文殊の知恵という言葉を知っているかな? ひとりひとりの知恵は浅くとも、互いに補えばひとりの天才をも凌駕できる

森園輝や森園灯里の技術を得ることも可能だ


そうは言うけれど
1度は失敗していること。

多少知識があったところで
どうにかなるものではないだろうに。

それにもし失敗しても代わりを用意すればいいこと。
案ぜずとも娘は掃いて捨てるほどいる。
皆、華族令嬢になれると喜んでその身を差し出すことだろう

そんな自分勝手なことを……!




狂っている。


力こそが正義だ。現にきみたちは未だに連続殺人の犯人を検挙できない。
「できない」のだよ。永久に。全ては私の足元でもみ消される

……さて、きみは知りすぎてしまった。
ここらで幕引きとしようじゃないか。連続殺人の犯人はきみだ、ということでいいかな

そんなことができるはずがない

力の前にすべての真実は歪められる

……っ





そうなのか。
それでいいのか。






否。いいはずがない。









あんたは……それでいいのか!?



晴紘は侯爵の傍らに佇む女に
声をかける。

ずっと
表情すら変えない彼女に。







撫子は喜んでいるだろう。本物の人間になれるのだか、

あんたには聞いてねぇ!






……いいのか? それで。

















誰も助からない、こんな結末で。













【漆ノ弐】生贄を捧ぐ・陸

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