Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
セアト暦40年
英雄の輝石
5 砂の町
砂漠にもすっかり慣れて、2人の足どりはしっかりとしていた。
しかし、もうどれくらい歩いたのか、自分はどこへ向かっているのか、思考回路は痺していた。
方位磁石を頼りに、ひたすら真っ直ぐ進む。
辿り着くところがあるのだと、それだけを信じてただ真っ直ぐに。
太陽光で肌がひりひりするのも、少ない水分で体力を持たせることも、もう苦には感じない。
とめどなく流れる汗を拭う。
不意に立ち止まったフラウの視線を追ってみると、遠く、遠くに見える緑に囲まれた大きなオアシス。
一瞬幻かと思う。
しかし、目を凝らしてみると間違いなく存在していた。
見えたよ
砂の町。
あなたの名前は花の総称
私の名前はその中に埋もれるもの
まだ10にも満たない少女が、薄暗い自室の窓から町並みを見下ろし無表情に呟いた。
窓ははめ込みで開かない。
掛けられた繊細なレースのカーテンの隙間から、顔を半分だけ出している。
よく晴れた日には輝く町並み。
しかも、この薄暗い部屋から眺めるなら尚更輝く。
私の存在は意味がない
私は、生まれてきてはいけなかった……
幼い少女にしては残酷な言葉。
自分の存在はどこにもない。
輝く街へ出向くこともできなければ、城内で慕われることもない。
伏せられた長い睫の影で曇る瞳は、何も映してはいかなった。
ここが砂の町……
外壁はなく、どこもかしこも入り口で、布を纏った人々がそれぞれに歩いていた。
たくさんの人が歩くから、地面は踏みしめられて硬くなっている。
今までのように一歩歩くごとに砂に埋もれることはない。
砂埃で黄色くも見える視界。
砂漠に咲く花。
立ち木。
日差しを遮るものがあるから涼しいし、人の温もりで暖かさも感じる。
オアシスを中心として、点々と建ち並ぶ布や泥で出来た家。
小さな小さな集落だが、延々と砂漠を歩いてきたラムダにとっては、とても輝いて見えた。
奇跡の町。
そう呼ばれるのも分かる。
旅人風の人がラクダを連れてオアシスの水をすくっていたり、住み着いた人が旅人達へものを売ったりしている。
しばらくたっぷりと辺りを見渡してから、フラウが肩を下ろした。
着いたわね
とりあえず体を休めたいわ
宿を探しましょう
異論はなかった。
だから、勘に任せて歩くフラウの後を着いていく。
この町の宿は一夜をやり過ごすだけのもので、雨風をしのげる泥壁の建物の中に、ワラの簡易な寝床があるだけだった。
大部屋で雑魚寝なので、知らない人も多い。
皆旅人風で、種族さえ違う人もいるようだ。
不思議な空間。
これが世界の一部。
案内された2人はひとまず腰を落ち着けた。
あーあ。ふかふかのベッドで寝たいわ
文句言うなよ。十分だろ
持ち物を確認しながら、ラムダはフラウを宥める。
フラウはただ何となく言ってみただけだが、真面目に返してくれるラムダが可笑しくて口元がニヤついた。
足りないものをチェックしているラムダを暫く眺めていたが、ふと思いつくと、フラウは立ち上がった。
あたし、レダの情報がないか聞き込みに言ってくるわ
あぁ。いってらっしゃい
フラウを見送りながら、ラムダは思った。
いつまでフラウと旅をすることになるのだろう。
どうしてレダを追っているのだろうか。
ラムダにとっては目的のない旅だから、一緒に行動をすることは構わないのだが、か弱い女の子と一緒なら自分に行動の制限が出てきてしまうのではないか。
そうなった時に、自分は強くなることが出来るのだろうか。
まぁ、今そんなことを考えても仕方ない。
ラムダは、荷物を落ち着けると、自分も情報収集へと出向いた。