Wild Worldシリーズ

セアト暦40年
英雄の輝石

4 砂漠行路

 

  

 

  地図さえまだ正確でない時代。

 それでも、大陸の南半分はこのフェルケ砂漠とされ、この広大な砂漠の中に存在する砂の町は奇跡の町とも呼ばれていた。

 どこまで行っても広がるのは黄金の砂でしかなく、振り向けば、2人分の足跡がどこまでも続いていた。

それもやがて吹く砂嵐に埋もれていく。


ラムダ

暑い……

 強い日差しが直接ラムダたちを照らす。


 失われていく水分。

 大切にしてきた水ももう半分をきってしまった。

 このままだといつか尽きてしまう。

 いつまで持つだろうか。



 なかなか現れない町に、ラムダの希望も徐々に薄くなっていく。



 だけど1人じゃなくてよかったと思う。

 1人じゃないから何とか立ち上がれている気がする。



 しかし、前を歩く元気な少女の姿が、なんだか信じられなかった。

 自分はこんなにくたくたなのに。

ラムダ

フラウ、少し休もうよ

フラウ

オアシス見つけたらね

ラムダ

暑い……

フラウ

そう暑いって言わないでよ
余計暑くなるじゃない

 見渡す限り黄金の砂。

 砂丘。

 手が届きそうなほど近く大きい太陽。



 話している間にもラムダたちの体力は奪われていく。

 自然と口数も少なくなっていった。



 その上、ラムダは水の豊かな港町出身で旅慣れていない。

 ついに吐いてしまった弱音は、ラムダが限界近いことを示していた。



 熱さで、視界は陽炎のように歪んでいる。

 進んでも進んでも変わらない景色に、歩いている感覚さえ奪われかけていた。

フラウ

あっちにサボテンがあるわ
オアシスが近いのかも

 しばらく歩き進んだ後、フラウが指差した。


 ふたりはフラフラと引き寄せられるように歩いていく。


 そして砂丘の上から遠くキラキラと光る小さなオアシスを見つけた。


 その瞬間、2人は立ち止まり奇跡を信じた。

ラムダ

すげぇ……

ラムダ

オアシスってあんなに輝くものなんだ……

 ラムダが感動している間にも、フラウはさっさと言ってしまう。

 ラムダが慌てて追いかけると、フラウもオアシスを見つけたおかげでどこか嬉しそうだった。



 オアシスまでは遠かったけれど、歩くたびに大きくなっていくそれにラムダたちはただ歩き続けた。

 やがて辿り着いたオアシスは本当に小さかった。

 直径50センチメートルくらいだろうか。


それでも、ラムダもフラウも生き返った心地になる。

 周辺には大小さまざまなサボテンが生え、心なしか涼しかった。


 


 日が傾き始めると、気温が急激に下がっていく。

 今日これ以上進むのは危険だと判断し、一晩はここで休むことに決めた。



 砂漠の夜は冷える。

 冷えるなんてものじゃない。

 凍える。

 昼間とは打って変わった状態だ。

 氷点下の温度は普通にしていたら凍え死んでしまう。


 本格的に夜になる前に、ラムダは携帯燃料で火をおこし、フラウにもらったクッキー状の携帯食料とチョコレートを口に入れた。

 フラウは水筒に出来るだけの水を入れている。

ラムダ

明日には着くかな

フラウ

生きていればね

ラムダ

怖いこと言うなよ

 こんな時にどうして冗談にならないことを言うのだ。


 荷物に寄りかかり暖を取っていると、肌の手入れを終えたフラウがぴったりと寄り添ってくる。

フラウ

変なことしないでよね

ラムダ

頼まれてもしない

 荷物は最小限にするのが旅をする者の常識なので、毛布も何も持っていない。

 こんなに寒い場所だと、一人でいるより二人寄り添っていたほうが断然暖かいのだ。 


 二人ともそれを知っていたから、黙ってパノラマの星空を眺める。


 手が届きそうなほど、大きな星達。

 思わず手を伸ばすと、フラウがクスっと笑った。

 パチ……と火がはぜる。

 凍えてしまわないように、しっかりとフラウを抱きしめると睨まれた。


 しかし、何か言われる前にラムダが眠りについてしまったため、毒気を抜かれたフラウもしばらくして眠りについた。
















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