度重なる攻撃を与えても、まだ討伐に至らない。ハルとダナンが吹き飛ばされた後、アンデッドアクスに近付く影があった。
度重なる攻撃を与えても、まだ討伐に至らない。ハルとダナンが吹き飛ばされた後、アンデッドアクスに近付く影があった。
ロココ!
刻弾をっ!
アデルの応急処置を受け終わったユフィだった。ロココに刻弾の指示を発しながら、ユフィはアンデッドアクスの腹部にダガーを突き立てた。簡単に根本まで刺さるダガーから、肉を切り割く感触がユフィの手に伝わってくる。
手応えがなさすぎる。
ダナンとハルは壁に打ち付けられ、ユフィの攻撃も大して手応えがない。それも予想した上で、ユフィはロココに刻弾での攻撃を指示したのだ。
ぼ、僕がやっつけなきゃ。
魔気は一発近い分なら
溜まっている。
集中するんだ。
なんとか立ち上がろうとするハルの視界に、集中するロココが映る。心なしか足元が震えているように見えた。左脇腹に痛みが走ったが、アンデッドアクスに一人対峙しているユフィを助ける為に立ち上がる。
ああ!!
ユフィさん!
ロココの刻弾を待つユフィは回避に専念していたが、壁際に追い詰められた。
ハル!
脚だ!
脚を狙え!
六本の腕を持つ魔物・ウェルキアの苛烈な攻撃を捌き、躱していたジュピターの剣は、ウェルキアの右手首から先を一つ切り落とした。
そうっす。
身体の末端からって……
ハルがそう思う間に、ウェルキアのもう一本の右腕が宙に舞う。その武器を持つ腕が地に落ちる前に、残った最後の右手の肘から先が連続で刈り取られた。
終わりだ!
ジュピターの剣が深々とウェルキアの顔面を切り割いた。連続で襲い掛かってくる六本の腕を排除し、そこから息も突かせぬ連撃。ウェルキアは足をもつれさせた後、ドォゥと力なく床に転がり動かなくなった。
自主練で語っていたジュピターの言葉。
『実力が拮抗している相手には、一撃必殺は至難の技。身体の末端から戦力を削ぐべき』
身体の小さなジュピターに当てはまる言葉だと思っていたハル。だが、この状況を打開出来る考え方とやっと気付いた。
いくっす!!
アンデッドアクスの右側から走り込むハルの雄叫びが迷宮に響く。それに反応するかのように、アンデッドアクスは左手の振り上げたバトルアクスを荒々しくハルに奮う。
ハルに注意が向き、その一瞬を見逃さなかったユフィが、アンデッドアクスの左膝に深く切り込んでいた。と同時に、ハルがバトルアクスをかいくぐり、鬼義理で右膝を斬る。渾身の一撃は右膝を切断した。
やったっす。
って、え!?
右膝から下を失ったアンデッドアクスは、右膝の切断面を地面につけながらも、バトルアクスを手放し、ハルに掴み掛かっていた。元々右腕がないアンデッドアクスだが、左腕の力だけでも凄まじく、ハルの右肩部分に覚えのない圧力が掛かってきた。痛みと鼻を突く腐臭がハルを襲い、足掻く気持ちすら奪われるようだった。
ロココ!
ロココに再度、刻弾を指示しながら、ユフィはアンデッドアクスの左上腕にダガーを突き立てた。
ユフィのダガーは効いてそうにないし、ダナンも壁際で気を失っている。ジュピターも消耗している挙句に、少し距離がある場所にいる。そしてハルは掴まれて動けず苦悶の表情を刻み、今にも潰れそうな声を漏らしている。
ロココはその状況を把握して、責任の重さと魔物への恐怖で全身に寒いものを感じていた。訓練場では優秀な成績を修め、才能も認めらえていた。刻弾の扱いも誰よりも上手く上達も早かった。
だが、肝心のこの時。今。何も出来ないでいる自分に気付いた。情けない事に、近くに居たコフィンに懇願するような視線を送っていた。
…………
誰がどれだけ苦しんでいようが
死に直面し、それを迎え入れる
状況しかなかったとしても
助けません。
我々には助ける力はありますが
助けません。
それを御理解頂いた上で、
ご同行する事になります。
階段室で、一人一人に視線を送っていたコフィンを、ロココは鮮明に思い出していた。その後は、頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。