Wild Wolrdシリーズ

セアト暦40年
英雄の輝石

3 レダを探す少女

  

  

  

 ラムダは直接向かうルートを選んだ。


 特に意味は無く直感で選んだだけだが、店員は大きな地図をタダでくれた。

本当に迷いますから。生きて戻ることを願いますよ

 若い店員はやさしい目をして言ってくれた。

 多くの屈強な旅人を見てきた中で、ラムダのような華奢なタイプが心配だったようだ。




 会話を聞いていたらしい他の旅人達も、ナイフやロープの使い方をラムダに教えてくれた。

ラムダは彼らに感謝しつつ、旅に必要だと思うことは全て飲み込んでいった。

物覚えのいいラムダは教えがいがあり、旅人達は知識自慢のように我先争って教えてくれた。


 気のいい旅人達に見送られて店を出ると、まだ高い位置にある眩しい太陽の光がラムダを照らした。

 思わず目を細める。

 やさしい空。






 薄暗かった店内から一歩外へ出ただけで、世界が変わったような気がした。





 長旅に備えようと、ラムダはその足で雑貨屋へ向かった。

 場所は聞いてある。

 ここスプウィングでは、旅人に必要だと思われる物はほとんど街の入り口にそろっているようだ。





 少し歩いていくと、ログハウスのような造りの可愛らしい建物が道沿いにひっそりと佇んでいた。

 ドアノブにウェルカムボードが下げられている。

 レトロなお花の彫刻なんかが飾られているのが見えた。


 緊張しながら扉を開く。


 中は思ったよりも広く、たくさんの種類のいろいろな物が整然と山積みになっていた。

 棚の一番上のものはラムダでは届かない。

 そんな人たちのためか、踏み台も置かれていた。

フラウ

だから見なかった? って聞いてるの!

 奥から、女の子の澄んだ甲高い声がする。

 
 思わずそちらを見やると、カウンター越しに小奇麗な少女と、店主らしい白髪片メガネの中年男が言い争っていた。

 店主と目が合った。

何度も同じ事を言わせるな。知らんと言っているだろう

フラウ

あなたが知らないはずがないのよ!

ラムダ

めんどくさいところに出くわした

 内心そんなことを思いつつ、ラムダは店内を物色する。

 店主と目が合っている以上逃げられなかった。



 砂漠に行くにはとにかく水。

 しかし一口に水と言っても何種類もあり、棚を見上げてラムダは迷っていた。

 水に含まれる成分と言われても訳が分からず、だからといっても砂漠に安い水で大丈夫なのだろうか。

フラウ

スプウィングでレダを見たって人いるんだから!
そしてあなたがレダと話していたっていう目撃証言もあるのよ!

 水に手を伸ばしかけたラムダが一瞬止まった。

ラムダ

……レダ?

 あれだけ大声を出しておきながら、ラムダの呟きを聞き逃さなかったらしい少女が、ラムダに振り向いた。

フラウ

あなた、レダを知っているの?

 少女の栗色の髪はよく梳かれていた。

 はっきりとした顔立ちの少女は美人で、きっちり着こなした服から華族の匂いがした。

 彼女は初対面の旅人に臆することはなく、ラムダに近づいてくる。


 
 レダのことはよく覚えている。

 憧れの英雄フェシスと共に旅をしていた金髪の少年。

 ごくごく短い間だが、一緒に行動をした。

 そして友情の証にオカリナを貰った。

ラムダ

知ってるっていうか、10年以上前に会ったことあるけど……

フラウ

どこで会ったの!?

ラムダ

リバーストーン
だけど、10年以上も前だし……

 ラムダの言葉に、少女は俯き考え込んだ。

ラムダ

レダか。懐かしいな
今、元気かな

 まだフェシスと一緒に旅をしているのだろうか。

 どこかで彼に会えたらいいなと思う。

 しかし、成長して大人になった自分を見てほしい。

 会ってほしい。

 だから、今はまだ会いたくない。

 自分の旅を始めていく。



 無知で無力な自分だけど、いつか追いつきたい。

 自分のずっとずっと先にいる、大きな人。

フラウ

決めたわ!

 突然顔を上げたかと思うと、少女はとんでもないことを口にした。

フラウ

あたし、あなたについていく!

ラムダ

は!?

は!?

 ラムダと店主の声が重なった。

 そして顔を見合わせる。

フラウ

あなた、旅人でしょう? ならいいじゃない

 あっけらかんと少女は言う。さも当然のように。


 ラムダは困っていった。

ラムダ

俺、レダに会うのが目的じゃないんだけど

フラウ

なら、今からレダに会うのを目的にしなさい

ラムダ

はぁぁ?

 少女の傲慢さにラムダは呆れた。

 

 しかし少女の目が本気だと知ると、何とかあきらめさせることはできないかと言葉を探った。

 きっと危険だろう旅に、か弱そうな少女を連れて歩くわけにはいかない。

ラムダ

俺、今から砂の町に行くんだ
レダがいるかどうか分からないし、第一危険だ

フラウ

あら、奇遇ね
あたしも今から砂の町に行くところなの

少女は笑った。
















   

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