神 斬
髪 切 り屋

参の巻 金剛

4、六大(ろくだい)二

朱右は、圧倒される、なぜなら、こんな山深くの地に
巨大な楼門が建っているからだ。

輪橋をこえて、その奥に、その大きな楼門は建っていた。

朱右

すごく、大きな、楼門ですね

遍照金剛

ははっ、びっくりなさってますね、意外に大きいでしょう。

朱右

はい、山の中に、こんな大きな神社があるとは、思ってもいませんでしたもので・・・

遍照金剛

朱右殿、驚くのは、まだ早いかもしれませんよ、では、楼門の下へ行きましょうか

楼門の下には、お賽銭箱がある、朱右は、お賽銭を投げ込み、礼をして、柏手をうち、深々と礼をした。

朱右

まだ、何か、驚くような事があるのですかね

朱右は遍照に聞いてみる。

遍照金剛

では、私の後についてきてください。

遍照はそう答え、楼門の端を通り歩き出した。
二匹の白と黒の犬が遍照のあとに行儀よく
並んで歩いていく。
朱右もその後を歩いてついていく。

楼門を回り込んだ所から、都比売(みやこひめ)神社の本殿が見える。
四棟からなる大きなお社が見える。

朱右

ここのお社、本殿が四つもあるんですね

社の大きさに、さらに驚く朱右であった

その表情を見ながら、遍照は、話だした。

遍照金剛

朱右殿、良いところにお気づきになりましたね。
この都比売(みやこひめ)神社の四棟からなる、本殿は、春日造りともうしまして。
すべての棟に、御一人づつ、神様をお祀りしております。
さらに、都比売(みやこひめ)神社の本殿は
日の出国で一番大きな春日造りの建築でもあります

朱右

へー、道理で、こんなに大きなお社なんですね。

遍照金剛

むかって右の奥から
 第一殿、都比売大神(みやこひめおおかみ)
 第二殿、光野御子大神(こうやみこのおおかみ)
 第三殿、大食津比売大神(おおげつひめのおおかみ)
 第四殿、一杵島比売大神(いちきしまひめのおおかみ)を
 お祀りしております。

朱右

お坊さんなのに、神様の事も詳しいのですね。遍照さんって。すごく物知りなんですね。

朱右は関心しながら言った。

朱右

しかし、二殿に祀られている神様のお名前が、光野御子大神(こうやみこのおおかみ)って
光野山(こうややま)と名前が同じで、面白いですね。

遍照金剛

朱右殿、またまた、良いところにお気づきになられましたね。

遍照金剛

この、光野御子大神(こうやみこのおおかみ)は
 別名 狩場明神(かりばみょうじん)と呼ばれてましてね
 光野を開いた、空海をここ、都比売(みやこひめ)神社に導き、
 空海が、光野山、金剛武寺(こんごうぶじ)を開いた際に地主神たる
 都比売大神(みやこひめおおかみ)から神領を譲られ、光野山を開山したという
 伝説が、今に語り継がれております

朱右

そんな伝説があるのですか?金剛武寺(こんごうぶじ)はお寺なのに神領に建てられたんですか?
うーん、私の知らない事が、まだまだ歴史にはあるのですね

朱右

神領にお寺が建ってて、お寺の境内に、神社があったり不思議ですねぇ
 お寺である慈尊寺の境内に稲荷神社があったのが、とにかく不思議だったんですけど、白狐さんに聞いても、これから会う人に聞けって、お茶をにごされた答えだけだったので
どうも、いまだにひっかかってるんですよねぇ

遍照金剛

稲荷神にそう言われたのですか、まったく、こまった神様ですね
という事は、私が、朱右殿に、その答えを、御教えしなければならない訳ですね。

朱右

よろしければ、ご教授いただけないでしょうか、歴史の謎を知るのが大好きなものでして


空海は小さな声でいった

遍照金剛

ある意味、あなたが、その根源を造られたのですが

朱右

何か、おっしゃいましたか?

遍照金剛

いいえ、お気になさらずに

遍照金剛

朱右殿は、神社には、何が、祀られているのかご存じですか?

朱右

それは、神様ですよね

遍照金剛

では、お寺には、何が、祀られているのかご存じですか?

朱右

それは、仏様ですよね、間違ってないでしょうか?

遍照金剛

そうですね、では、神社とお寺の違いはお分かりになりますか

朱右

神様を、お祀りになっている所が神社で
仏様を、お祀りになっている所がお寺
こんな感じの説明でよいでしょうか?

遍照金剛

では、朱右殿、つい近い、最近の時代まで、その二つの建物が同じところにあった、例はご存知ですか?

朱右

いえ、よくわからないですが

遍照金剛

神宮寺と説明すれば、すこしは、ご理解いただけるかと思いますが

遍照金剛

神宮寺とは、簡単に説明するなれば、神と仏が習合した時代に、その両方をあがめ奉っていたわけでございます

遍照金剛

それが、つい、百年ほど前に、時の帝(みかど)が、神社、すなわち、この国の古来からの神を祀る社(やしろ)と、インドラからやってきた神、すなわち仏様を祀る寺とに分離し、、神社かお寺なのかを明確にしなさいという、勅(みことのり)を発した、次第、これを神仏分離令と申します。

遍照金剛

この勅(みことのり)を受け、神社と仏閣、建てられていた建物を元に、はっきり線引きいたしたのですが、場所によっては、お寺の境内に神社が残ったり、神社の門前がお寺だったりと、様々な形となって全国に残っていると言う訳ですな

遍照金剛

すべての、神社、仏閣が、神宮寺であった訳ではないのですが、もともと神仏習合した形で
 お祀りしていた神社を見分ける、ちょっとしたコツがあるのですが、お聞きになられますか?

朱右

もちろんです、お教えいただけるのなら是非

朱右の瞳は子供のように輝いていた

遍照金剛

朱右殿、少し歩いて、鳥居の所まで、戻りましょうか


犬のコンとゴウも、主人の後をついて歩いて行った、朱右も、その後をついて、歩く

空海には、つい、先ほどの稲荷の神が言った、一言が、頭の中にあった

白狐

まー、我の気まぐれというかの、しかし、その男は、遍照殿、そなたとも、少なからずは、縁、深き者、じゃろうて

空海は考えていた

遍照金剛

しかし、この御仁、法起坊(ほうきぼう)によく似ておられる

鳥居の場所にもどってきたのだが、遍照が行き過ぎそうになったので
朱右は、思わず声をかけた。

朱右

遍照さん、鳥居、行き過ぎてますよ

遍照金剛

あっ、すみません、では、鳥居に礼をして

遍照に続いて、朱右も鳥居に礼をした。

遍照金剛

では、神仏習合した形で、お祀りしていた神社を見分けるコツの話でしたな

遍照は、話題を元にもどした。

遍照金剛

朱右殿、この鳥居を見てもらえますか

朱右は鳥居を見ている

遍照金剛

何か、お気づきになられましたかな?

朱右

うーん、いまいちよくわかりませんが

遍照金剛

では、鳥居を横のほうから、見てみてください

朱右

あっ、えっと、鳥居の柱をほかの、柱で支えてるんですかね

遍照金剛

そうですね、本体の鳥居の柱を支える形で稚児柱(ちごばしら)があり、その笠木の上に屋根がある鳥居、これを、両部鳥居と申します

遍照金剛

名称にある両部とは密教の金胎両部(金剛・胎蔵)をいい、神仏習合を示す名残なのであります

遍照金剛

ゆえに、この両部鳥居がある、神社は、昔は神仏習合のお社であったという、訳ですね
 ここ都比売(みやこひめ)神社も、、その一つであります。

遍照金剛

あと、鳥居の高い位置に掲出される額(がく)これを扁額(へんがく)と申しますが
 この扁額に書かれている文字に○○権現と書かれている神社も、昔は、神仏習合のお社であった
 以上が、神仏習合の神社を見分ける、ちょっとしたコツでございます

朱右

遍照さん、すごく、すごく、勉強になりました。ありがとうごさいます

遍照金剛

いえいえ、大した事を、お話したわけではございませんよ
 しかしながら、稲荷神から、お願いされた、課題をこれから、朱右殿と拙僧でこなしていかねばなりませんので、急いで光野山の境内地まで、向かわねばなりません。

朱右

ありがとうございます、遍照さん、では、急いで車で、光野山に向かいましょう、ここまで、歩いてきたので、もう、へとへとなんですよ

朱右の顔は安心しきった表情であったというが

遍照金剛

朱右殿、ここまで、歩いてきたというのに、どなたの車で、光野山に、向かわれるのですか
 拙僧は、歩いて、山上から、ここまでやってきたのですが?

朱右

えっ、車で、お越しではないのですか?

遍照金剛

もちろん、今、言いましたが、拙僧は、歩いて御山を下ってきましたので

遍照金剛

では、コン、ゴウ、そして、朱右殿、まいりますよ


そう言うと、空海は、あっという間に都比売(みやこひめ)神社の一の鳥居の下で
礼を、するやいなや、二匹の犬と歩きだしましたとさ。

めでたし、めでたし

遍照金剛

まずは、六本杉まで、戻りますよ

朱右

待って下さいよ、遍照さぁ~ん

 神 斬
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参の巻     金剛 4.六大 三に続く

神斬髪切り屋 参の巻 金剛  4 六大 二

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