ゆーまの話が終わると、車内は静まり返った。

突拍子もなさ過ぎてにわかに信じられなかったが、記憶がないことに説明をつけるには十分な気もした。

ただ、いくつか聞いてみたいことがあった。

イナバイナハ

うーんと、質問したいんだけど、いい?

ゆーま

うん、いいよ。

イナバイナハ

あなたは目覚めたとき、どうして
あたしを自分だと思ったの?

それは最初に感じた疑問だった。

もしあたしが死んだとしたら、消えてしまうか、もしくは天国や地獄のような場所に行くのかと思っていたのだ。

ところがあたしは今こうしてここにいる。そして自分を名乗るもう一人の自分がいま語りかけているのだ。

ゆーま

うーん、それはボクにも説明できないんだけど、ボクには誰かに殺された記憶があって、気がついたらあの場所にいた、ということだけかな。

斎藤安子

稲葉、お前しか知りえない情報を
UMA-3000が知っていたら、
その証明になるんじゃないか?

黙っていたあん兄が助言してくれる。

確かにその通り。……なんだけど、その流れで行くと次に来るのは……。

ゆーま

ああ、いいねそれ。じゃあじゃあ、
今あたしが好きな人は――。

イナバイナハ

ちょおっとまったー!! 
ストップ、すとーっぶ!!

斎藤安子

……ちっ。

イナバイナハ

「ちっ」て言った? 今「ちっ」て
言ったねあん兄!?

斎藤安子

しかし秘密を知られるのを止めるって ことは、お前UMA-3000のいうことを  信じてるってことじゃないのか?

イナバイナハ

う……ん。こういう時こうするっていうのに、結構思い当たるフシあるし……。

ゆーま

あ、じゃあ後でこっそり教えてあげるね

斎藤安子

ああ、よろしく頼む。

イナバイナハ

違うでしょ、今のはあたしに言ったの!

イナバイナハ

あとはまあ……最初に「助けて」って言ったけど、あれはどういう意味?

ゆーま

ああ、あれはキミとお話するために
博士にもらったこのプログラムを
渡そうとしたら――。

イナバイナハ

プログラムって、このゲームのこと?

ゆーま

そう。ゲームは偽装で中身はボク専用のコミュニティツールなの。博士は今も 監禁されてて、受け取るには不正アクセスしなきゃだから。それがばれそうになってあわてて。……ごめんね。

斎藤安子

そういえば、何でも言うこと
聞くとかいってたな。

イナバイナハ

あん兄……。

斎藤安子

……ふっ、冗談だ。

そうこうしているうちに、あん兄の車は学校の講堂前についた。

時間は……まだ余裕がある。あん兄の車の運転のおかげだ。

イナバイナハ

あん兄のおかげで、予定より
早く着いちゃった。ありがと。

斎藤安子

そりゃよかったな。しかし
いつみても馬鹿でかい校舎だな。

イナバイナハ

ね。もう少し生徒の待遇よくしてくれ ないかなー。学費まるまる免除とか。

優秀な人材を育成し排出すると評判の我が大学は、シンブラックをはじめとする多くの企業や団体から出資を受けている。

反面、あたしのような無理して入った落ちこぼれには風当たりが強いのが現状である。

もちろん授業は受け放題だし学食は安いしで十分元は取るつもりでいるのだが。

斎藤安子

じゃあ、俺は帰る。しっかり
勉強しろよ勤労学生。

イナバイナハ

そっちこそ、お仕事頑張ってね。

斎藤安子

俺は帰って寝る。昨日は通しだったからな。……そうだ、稲葉の連絡先を教えてくれるか。たぶん今後銀河さんと連絡を取り合う必要があると思う。

イナバイナハ

う、うん。わかった。

あたしはあん兄と、スマホで連絡先の交換をし合った。

この時あたしは、自分が誰かに見られているなど、ついぞ思ってもいなかったのだ。

斎藤蓮

あれは……あん兄の車か?

四天王

……。

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