イナバイナハ

……。

斎藤安子

……。

無言の車内に、アプリゲームの音だけが響き渡る。

UMA-3000があれほどお願いしてインストールしたデータは、ただのゲームのようだった。

手の込んだイタズラだったのだろうか。ゲームの売り込みにしては斬新といえなくもないのだろうか。

そんな空気が漂い始めた直後――。

ゆーま

ふう、やっとまけた。ただいまー。

なんの着信も予兆もなく、UMA-3000の顔が画面いっぱいに映し出される。

イナバイナハ

わわっ、びっくりした、驚かさないで!

いきなりの登場に、あたしは再びスマホを取り落としそうになる。

貧乏学生にはつらい出費だったのだ。まだまだ壊すわけにはいかない。

ゆーま

あはっ、ごめんね。でもちゃんと
インストールしてくれたんだね、
ありがとう。

悪びれもせずにこやかに言う彼女に、あたしは違和感を覚える。

イナバイナハ

えっと、あなたあたしとどこかで会った?

初対面にしてはすごく親しげだし、あたし自身もそれに違和感を覚えないことに、違和感を感じていたのだ。

ゆーま

えっ、もしかして、覚えてないの?

ゆーま

そっか。いろいろ大変だったもんね、 お互い。

ひとり納得する彼女に、納得が行かないあたしはただ戸惑うばかりだ。

こんな個性的なお友達がいたら、覚えていないはずがない。もしそんな状況があるとすれば、それは。

イナバイナハ

もしかして昨日の昼に何があったのか、あなたは知っているの? その時にあたしと会ってるとか?

ゆーま

うん。でもその前に教えて。そこの
おじさんは、信用できる人なの?

斎藤安子

おじ……。

イナバイナハ

あ、あはは。おじさんじゃないでしょ、おにーさんでしょ、ゆーまちゃん?

斎藤安子

おじさん……。

ゆーま

あ、うん。ゆーま、ね。いろいろ考えてたんだけど、その名前いいかも。

イナバイナハ

そっちですか、お嬢さん。まだ名前なかったのね。というか、あん兄そういうの気にしない人かと思ってたんだけど、結構気にするのね。幼女じゃん、子供じゃん、おまけにドロイドじゃん。悪気なんてないんだから気にしちゃダメ。

あたしのフォローの甲斐あってか、あん兄の心が広かったのか。二人は無事車を降ろされることはなかった。

そしてゆーまは語りはじめる。あの日にあった出来事を。

ゆーま

――。

イナバイナハ

――。

四天王

――。

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