そこは宴会場だった。

どうやら、
寝てしまったらしい。

亀が心配そうに
顔を覗き込んでくる。

ウラシマ

……夢か。恐ろしい悪夢を見た気がする

ずいぶん、うなされていましたよ

ウラシマ

だけど、俺は今まで何をしていたんだ

宴会を始めようとしたら寝てしまったのですよ

ウラシマさんが起きたのね!

よかったー

さぁさ、食事をどうぞ

ウラシマ

ありがとう

ウラシマ

んー 美味しいね

フフフ

もっと食べてください

ウラシマ

ああ

………

ウラシマ

美味しい、美味しい

………

ウラシマ

どうしたの?

なんでも、ありません

ウラシマ

おいで、一緒に食べよう

…………はい!

彼は彼女を膝の上にのせて、
一緒に出されてくる料理を
食べることにした。


どれも、美味しい。
とても美味しい。

さぁ、宴会を盛り上げるよー

オト姫

ウラシマさん、隣にどうぞ

ウラシマ

ああ

オト姫に呼ばれて、
その隣に座る。

オト姫

良い夢を見られましたか?

ウラシマ

どうだろうな

オト姫

でも楽しそうな夢でしたね

オト姫のテーブルは
特に豪華絢爛だった。


どれも、見たことのない料理で。

ウラシマ

……

オト姫

ああウラシマさん、美味しいわ

オト姫

とても、美味しい

彼は我が目を疑った。








オト姫のテーブルの


上にのせられていたのは

ウラシマ

………

【彼】だった。

ウラシマ

そうだった、オト姫の目的は
若い男のエキスを得ること。



そのターゲットに
選ばれたのが自分だった。


どうして、
忘れてしまったのだろう。



食べてはいけない料理を
口にしてしまった。


どうして、
食べてしまったのだろう。

オト姫

若い男の肉は美味しいわ

オト姫は美味しそうに
【彼】を食べている。

身体の奥に激痛が走った。

ウラシマ

ぐぁ

オト姫に食べられている
【彼】の身体が崩れていく。







オト姫の隣に座っていた
「彼」の身体が靄になり消えていく。

オト姫の隣に座っていた
「彼」の意識は

オト姫に食べられている
【彼】の中に変わる。
 

「彼」は
今、
オト姫のテーブルの上

ウラシマ

くそ………

オト姫

さて、エキスを失ったウラシマさんは用済みです。

オト姫

さようなら

オ……オトひ……メ………ユルサナイ…………ユルサ……

オト姫は骨になった彼の身体を、
無慈悲に投げ捨てた。



全てが遠ざかる。
 

箱を開いても、
地上に帰ることなんて出来なかった。



竜宮城より、
更に闇の底に沈んでいく。

…………

オト姫様に黙って来てしまいました。バレたら確実に殺されますね……

どうせ死ぬのならアナタの側が良いです

…………

私、アナタのことが好きです、大好きです

ごめんなさい、私も逝きます。生まれ変わることが出来れば、今度はアナタの側にいたいです。愛してます

生れ代わりなんて言わないで。
死後の世界じゃ駄目かな?

迎えに来たよ

どこからが夢で、
どこからが現実なのか。

彼には分からない。

夢だろうと、
現実だろうと構わない。

自分が霊魂だろうと、
何だろうと関係ない。


こうして、
彼女と幸せであればそれで十分だ。


彼女は微笑むと大きく頷いた。

めでたし、めでたし。

これで、良いのか?

闇の向こうで
誰かが叫んでいた。

その声は自分のもののようにも思えた。

彼の目の前には、
二人の遺体があった。

骨と化した彼に
寄り添うように息絶えた少女。

これで、良いのか?

良くない……死後の世界なんて有り得ない、夢物語だ

 彼は首を横に振る。

ならば、チャンスを与えよう

チャンス?

この結末と同じ結末には辿り着けないが、もう一度、やり直すかね?

……いいだろう

オト姫に食べられて俺が死に、遺体が海底に捨てられる。それを彼女が追い駆けて、自害する結末なんて

要らない!!

小さい箱を開けたウラシマがオト姫に食べられて死亡、遺体が海底に捨てられ、

それを彼女が追い駆けて、自害する……この結末はお前には訪れないよ

さぁ、この結末から、目を背けるんだ

つづく

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