ウラシマ

………

走りながら適当な部屋に入り、
息を整える。

ウラシマさん、何を考えているのですか?

 亀が顔を真っ赤にして、
でも声を潜めながら怒っていた。

ウラシマ

何も考えていない

何も考えていないって、オト姫さまは凄く怒っていましたよ

ウラシマ

オト姫はどうして俺を連れて来たんだ?

オト姫様は人間の男のエキスが好物なのです。私たち亀が苛められるのはオト姫様の命令。私たちを助けた若い男をここに招くためのことだったのです。

ウラシマ

そうして竜宮の城に招いた男からエキスを奪っていたのか

ごめんなさい

ウラシマ

謝るなって。君を助けたいって思ったのは俺の勝手な気持ちだ。

私を助ける?

ウラシマ

俺は昔から苛められている亀は放っておけない性分でな……オト姫の命令に嫌々従っている君を放ってはおけなかっただけだ

ウラシマさんは、バカですね。でも、嬉しいです

走って、走って、走りぬく。

城の中は入り組んでいて、
何処を走っているのかわからない。

ウラシマ

妙だな

ウラシマ

連中は追ってこないのか

ここは迷宮ですから。逃げ切れないと思っているのですよ

今までもわざと逃がして楽しんでいました。だからウラシマさんも気をつけ……

ウラシマ

……っ

ウラシマさま

美女が現れる。


警戒もせずに、
殺意も見せずに
美女がゆっくりと近づいた。

ウラシマ

何のようだ

お腹、空いてませんか?

ウラシマ

そんなことは……

 ぐぅぅっという音が鳴る。

……………

 ずっと何も食べていない。
 空腹は限界だった。




 美女の手には料理の皿。
 湯気と共に食欲をそそる香りが漂ってくる。

ウラシマ

…………

 ご

 く

 り

 生唾を飲み込む。



 だけど、
ここで何かを
口にしてはいけない。

ウラシマさん

 心配そうに見上げる亀に
彼は微笑んで見せる。

ウラシマ

これくらい、問題ない

そうですか、私たちが頂きましょう

 美女は目の前で
美味しそうに料理を完食。



 そして、姿を消した。

ウラシマ

行こう

はい

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