目覚めた青年は
広い部屋に横たわっていた。

そこは美しい装飾で飾られた
豪華な部屋だった。


壁も天井も床も目が
痛くなるような真っ赤な部屋。
落ち着かない。

俺は死んだのか


青年を連れて来た
彼女の姿も見当たらない

海に沈んだと言うのに
着物も髪も湿り気がない。

待っていましたよ……………さん。

ウラシマさん

それが、俺なのか

ハイ、ウラシマさんはウラシマさんですよね

現れたのは彼女ではなかった。

世間的には美女と呼ばれそうな女。


目が痛くなりそうな
派手な色の着物を着ている。

オト姫

私の名前は、オト姫。この城の主ですわ

ウラシマ

俺は死んだのか?

 問いかける。

オト姫

ウラシマさんは死んでいるのですか?

ウラシマ

では、ここは何処だ?

オト姫

私の城ですわ。私の亀を助けてくれてありがとう

ありがとうございます

オト姫の背中から
ヒョイと現れたのは亀の女の子。

愛くるしい姿に
思わず笑みが浮かぶ。

青年はオト姫よりも、
この女の子の方が好みだった。

オト姫

お礼の宴会を始めますわ

オト姫が両手を広げた。

ウラシマ

ところで

オト姫

はい、何でしょうか? ウラシマさん

ウラシマ

俺は、ウラシマなのか?

オト姫

何を言うのですか? ウラシマさんは、ウラシマさんです

 ニコリと笑う。
 そんな笑顔で断言されては
何も言い返せない。

色とりどりの魚が
まで水中を泳ぐかの如く、
すいすいと宙を舞う。


テーブルの上には
豪華絢爛な料理が用意されている。

美しい音色が流れはじめ………

何処から現れたのか
美女たちが妖艶な舞をはじめた。


彼の両端に美女が座る。

なみなみと盃に酒を注ぎこんで
妖艶な笑みを浮かべる。

オト姫

さぁ

差し出された盃を、
手のひらで押し返した。

ウラシマ

いや、酒は遠慮しておくよ

この異様な状況を
彼は警戒していた。

用意されたものを
口にしてはいけない。

そんな予感がしたのだ。

ウラシマ

少し休ませてはくれないか

オト姫

あら? 宴は……まだ始まったばかりですよ

ウラシマ

まだ疲れているんだよ

立ち上がり、
宴会場を歩き出した。

ウラシマさん

ウラシマ

ウラシマさん

ウラシマ

君は……

テーブルの下から
女の子が顔を出している。

それは、助けた亀だった。

周囲を警戒しながら
静かに近づくと……
彼女は小声で話しはじめた。

すみません、オト姫様には逆らえなくて

ウラシマ

ここは、いったい……

とにかくウラシマさんは、何かを食べたらダメです。ここで食事をしてしまえば二度と元の世界には帰れません

ウラシマ

何だって

はい。ですから宴会が終わるまでは何も飲まず、食べずに耐えてください。宴会が終わればオト姫様が貴方を地上に返します。その時まで、貴方が何かを口にしていれば……

ウラシマ

帰れない……か…………わかった…………

私のせいで、すみません……

ウラシマ

なぜ、謝る?

私を助けなければ、ここに来ることはなかったのですよ

 亀は視線を落とす。

ウラシマ

…………一緒に逃げよう

え?

青年は
亀を引っ張り出した。

突然の行動だったので
誰も止められなかった。

そして、そのまま
オト姫の前に立った。

ウラシマ

オト姫様!

 壇上のオト姫を見据える。

オト姫

おや? どうしたのかしら

お酒を煽るオト姫の口端が
不気味な笑みを浮かべる。

ウラシマ

帰らせて頂きます!

オト姫

何?

え?

ウラシマ

それでは! さらば!

うわうわうわ

 そして、
彼女の手を取ると、
彼は宴会会場を突っ走った。

オト姫

ま…………待ちなさいっ

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