工場の奏でる賑やかな交響曲。
工場の奏でる賑やかな交響曲。
見学に来た子供たちが耳を覆いたくなるような騒音も、ここに勤める者にとっては耳慣れた子守歌のようなものだ。
だが、それも今日で終わる。時代の流れに取り残された者たちの最後は、静寂をもって終幕となる。
その総指揮者たる老人は、今感慨深げに楽器たちの労をねぎらっていた。
フム……。
作動油はしっかりさされている。整備は万全。異音などするはずもない。
歩きなれた通路をしっかりとした足取りで、老人はまっすぐに進む。
目的地は、工場の中心部。そこで待つ者に会うために。
扉が開くと、そこで待っていた者の一人が老人に話しかけた。
オカエリナサイ、博士。
ただいまチャーリー。
何か変わったことはないか?
変ワリアリマセン。ワレラガ姫サマニモ変化ナシデス。
そうか……。
……。
……。
……。
……ダミー人形たちの出荷を急がせよう奴らがいつ、ここをかぎつけてくるかもしれんしな。
ワカリマシタ。
な、なんじゃ、なにが起きた!?
警告! 警告! 工場内ニ侵入者ヲ確認!!迎撃態勢ニ入リマス!!
複数ノ動体ヲ確認。動体予測完了。 攻撃開始。――外レ。第一次防衛ライン突破。敵ノデータヲ送ル。
同期完了。誤差修正完了。攻撃開始。 ――外レ。第二次防衛ライン突破。 敵ノデータヲ送ル。
同期完了。誤差修正完了。攻撃開始。 ――外レ。第三次防衛ライン突破。 敵ノデータヲ送ル。
同期完了。誤差修正完了。攻撃開始。 ――外レ。最終防衛ライン突破。 敵ノデータヲ送ル。
最終防衛ラインガ突破サレマシタ!
モウスグココヘヤッテキマス!
博士、撤退シテクダサイ!!
何というスピードだ、速すぎる!
左様。いかなる守りも我らシンブラック財団特殊部隊にはないも同然でござる。
だ、誰だお前は! どこから現れた!?
これは失礼。拙者パープルと申す。 任務中ですのでコードネームなのは ご勘弁を。我々がここに来た理由は察しはついていると思いますが、結賀博士?
くっ……。まさかあれを完成させて
いようとはな……。
博士を連行するのだ。丁重にな。
はっ。してこの人形の数々は
いかがいたしましょうか?
この工場にあるものはすべて運び出し、検査課に回せ。ネジ一本も残すな。
工場の防衛システム制圧完了。
対人ドローンも沈黙しました。
……。
出荷前の製品のすべてを押収。
工場のデータとともに引き上げます
……。
工場の周囲に異常なし。
いつでも出発できます。
よし、見張りを残し撤収!