変わった女、だったよ。
傷の深さを恐れるより、その傷を気にしない俺の無頓着さに、怒るようなやつだった

 懐かしむように、男の話は続く。
 姿も形も声も、想像でしかない相手。
 男の放つ重い声に、女性の姿を重ねるのは難しい。
 なのに……どうしてか、その存在が放つ優しさや明るさは、直接でないのにとてもよくわかる。

(……隣に、よく似ている存在が、いるからかしら)

 その女性がもしここにいれば、彼女と同じように、興味深く話を聞きこんだのだろうか。
 そんなことを考えながら、私と彼女は耳を傾ける。
 男の語る女性を想いながら、二人の物語を受け止める。

スプーンの持ち方から、衣服の洗い方、壊したものの補修の仕方に、言葉の使い方

 一つ一つの言葉のたびに、男は両手を細かく動かす。

……あいつは、恐れることなく、俺にそれらを叩き込んできた

 どうやらそれらは、男に女性が教え込んだ、身体の動かし方だったようだ。

それは、ケッツァーさんの世界で、とても大切なことだったんですね

 男は、ゆっくりと頷いた。

 ――かすかに、胸が騒ぐ、かすれた記憶。
 ――私も、ずっと、ずっと、グリとの会話もたどたどしい頃に。
 ――そう、語られたことが、あったと想う。

(人の営み。身の回りと自分を整えて、新しい日々へ、進んでいく)

 進んでいくために。
 生きていくために、必要なこと。

 ――そう言いながら教えてくれた顔と言葉が、たくさん、胸の中に灯る。

 ……灯るたびに、胸が、忘れていた感傷で騒いでしまう。

(かつての世界の、進むために必要だったこと。……私にとって、この世界での、進むということ)

 進む、という言葉は、まったく同じなのに。
 ――そのために、選ぶべき方法は、どちらかの先を消してしまうもので。

(私は、泣きながら、教えてくれた形を……)

 そんな光の形達と、同じような瞳をしながら、彼女は口を開く。

やっぱりその方は、ケッツァーさんのこと、よく見られていたのですね

 その言葉に、男は素直に頷く。

俺がなにを持ち、なにを持たないのか。……あいつは、確かに、見抜いていたのだろうな

 女性が教えることは、男にとって知らないことばかりだった。
 力仕事などは戦場の応用でできたが、家での細かい作業などは、今まで教えられたことのないものだったという。

そうして、俺は……ようやく気づいたのだ。自分の知る知識が、戦のためにあるだけなのだと

 開いた両手を見つめながら、男は、自嘲するような笑いで語る。
 ――その手と身体が知っていたものは、世界の一部。戦いというための、方法のみだったと。
 立地と人の配置から見る、有利な場所の把握。
 あらゆる状況でも効率的な、身体の使い方。
 どこが命を保っているかを知り、そこを狙うことの徹底。
 敵の様子や立場を見抜く、異境での観察力。
 必要最低限だけ覚えた言葉は、作戦に必要な専門用語と罵倒。
 ――それらは、女性とともに過ごす時間と、あまりにも遠いもの。

 男は、その事実を噛みしめながら、女性から渡された道具をふるっていたという。

一つ、一つ、あの女は、俺に教えてくれたよ。眼の前の花が、なんという名前か。動物が、どんな習性で、なにを食べているのか。昼夜や季節の変化を、どう感じるかなど

 女性は、彼から離れなかった。
 彼がもし誤っても。

『仕方ないねぇ』

そう言いながら、同じ時を歩み続けたという。

もちろん、知っている知識も多かった。だが……語られる環境や人で、同じ言葉が、ああも変わるとは想わなかった

 そうした変化は、男にも影響を与えたようだ。

あれほど、血と肉の臭いしか感じなかったのに。……いろいろな匂いが、俺に伝わってきたのだよ。数えきれないほどの匂いが、世界に満ちているのだとな

……匂い。うらやましいですね

 ぽつりと、彼女は少しだけ寂しがるように、そう言った。

どんな匂いが、嬉しかったですか?

 男は少し考え込んだ後、小さく微笑んで、彼女に答えた。

メシ、かな?

いいですねぇ♪ リンも、味わってみたいです

 ほがらかに笑いあう、男と彼女。
 ――さっきまでの冷たさとは、まるで違う、男の様子。

……他には、あるのかしら

 不満げな私の声に、男は、眼を閉じて語る。

様々な色が溢れ、変わりゆくのだと……わかった

(様々な、色)

 色。
 グリが教えてくれた、それぞれの形についている、区分けされた違い。
 赤、青、黄色。それ以上に、言葉に変えられないほどの、たくさんの色がある。
 白と黒も、その内の一つ。
 ――あれほど男は、黒という、闇だけを見てきたと言っていたのに。

今まで見えなかったものが、見えたような気がした。……いや。見えていたのに、閉ざしていたのかも、しれないがな

その方が、ケッツァーさんという方を、開いてくださったんですね

 開いた……という言葉に、男は何度かうなずいた後、呟いた。

彼女は……光、だったのかもしれんな。闇に沈んだ存在を、照らしだすためのな

 ――その言葉に、私の心のよどみが、重く深くなるように感じる。

(かつての世界には、やっぱり、この闇の世界とは違う……光が、ある)

 同時に、その光を隠してしまうほどの、見えている闇もある。

 ――わからない。どう想像すればいいのか、怖くて仕方がない。
 ――本当に、そんな不安定な世界を、みんな、進んでいるというの……?

その方は、とても強い光の方……なのですね

だから、俺は聞いたのだ

 男も、与えられた生活に満たされながら、不安を感じてもいた。
 なんの見返りもなしに、女は男へ、生活の一部を預けてきたのだ。
 ふとした時に、女性へ聞いたのだという。

なぜ俺に、優しくするのだ。いったい、なんのために。……そう、問いかけた

 言葉にして問いかけ、男は初めて、実感したことがあるという。

……そう、優しさ。彼女は俺に、優しさというものを、教えてくれたのだ。

 優しくされたという、事実。
 男はようやく、それを実感として、受け入れることができたという。

それで女性の方は、なんて言われたんですか?

『――あんたは、アタシが、なりそうなものだったからさ』

険しい眼つきをしながら、女は、遠い眼をしてそう答えた

なりそう、だったもの……?

 男の言葉に引っかかりを覚え、私は、想わず口を開いてしまう。
 言葉の続きを、求めてしまうように。

あいつは言った

『アタシも、かつては……戦場に、身を置いていた』

 それまで男は、女性のふるまいや身体つきから、自分と同種の存在だと推測していた。
 ただ、その過去を聞いたことはなかったため、始めてこの時に事実を知ったという。
 男は、女性の言葉を、代わりに語る。
 ――先ほどまで、自分の過去を語っていた時のような、険しい顔つきになりながら。

『生まれて、気づいた時には、もう戦が近くにあって』

『生きるのに必死で、誰も信じることができなくて、何度も身の危険を感じて』

『……力及ばず、この身体だから生かされた時もあるくらい、弱くて』

『それでも、この身に溺れるのは、許せなかった。だから、剣をとって、罵倒にも耐えた』

『周囲からの眼を、押しのけて。笑うやつらを、増えた力で刺せるようになって』

『……そんなのが、繰り返される、日々だったよ』

……時には硬く。時には、笑うように。あいつは、自分の過去を、俺に話した

 ――そうしなければ、語れない。
 そんな想いを、必死に耐えるような顔つきだったと、男は語る。

(……だから、同調するように、顔も変わるのね)

 私達へと語る男の顔つきも、厳しいものでも笑うようなものでも、ない。
 できるだけ冷静に、女性の言葉を再現するかのように、細やかな変化を見せた。

そこまで言って、あいつは

……ナイフを手に持ちながら、刃先を見つめ、研ぎ澄ますように呟いた

『だから、ずっと。そんな世界で、同じに生きてるのに、重ならないなら』

『――全部、塗りつぶせばいい。感じないままに』

 その言葉は、女性のものか、男のものか。

……つらい、お言葉ですね

……っ

 私は、途中まで出かけた言葉を飲み込み、息だけを吐いた。
 ……まるで、この闇の世界を求めるような、そんな願いに想えて。

(この世界も、望まれることが、あるのだとしたら)

 ――闇を払おうと進む、私達の光は。
 ――誰かにとっての闇でも、あるのだろうか。

 それが、わからなかったから、なにも言うことができなかった。
 再現された女性の想いに、周囲の重さが、闇と共に深まったように感じる。
 だから……次に発せられた言葉を、想像するのが、少し遅れた。

『――そう、想っていたんだけどねぇ』

雰囲気を一変させて、女は軽く笑いながら、息をついた

 仕事を終えたナイフを手早く片付け、謝るような笑みを浮かべながら、女性は男に向きなおったという。
 男の声も、女性の言葉を再現するためか、だいぶ柔らかいものに変わっていた。

『そんな、ナイフみたいなアタシを、ぎゅっとつかんだ大馬鹿がいたのさ。……なまくらになるのに、時間はかからなかったけどねぇ』

なまくら?

切れ味が鈍る、という意味だ

 男の返答に、私は皮肉を返す。

さっきのあなたより、今のあなた、ということね

ふっ、違いない

???

 私と男の会話にも、彼女は理解できていないようだ。
 ……わざわざ、説明する気にもなれないけれど。

あっ! なまくらって、優しく暖かくなるってことなんですね♪ でも、どうしてですか?

 訂正するのも面倒な言葉に、男は答える。

あいつは、出会ったのだ。自分を優しく包む、彼女にとっての光をな

光……。大切な、光の方……

『しかし、よくもまぁ、あの人はアタシについてきてくれたもんだ。実際、剣を向けたこともあるのにねぇ』

夫のことを語るあいつは、俺と話す時とは違う顔を、浮かべていた

 ――男が語る、断片的な、女性の夫。
 それは、女性が出会った、大切な家族。
 戦の中で、女性はある男性と背中を並べ、息を合わせ、共に生きることを誓ったという。
 いつ死ぬかもわからない時間の中で、二人の想いは重なっていき。
 いつしか二人は、男性が住んでいたかつての場所に移り住み、戦からは距離をとったのだという。
 そうして、しばらく経ち、二人は子を成した。
 ――二つの力を合わせ、新たな一つの命を、形にしたのだという。

幸せだったと、女は言っていた。こんなに幸せで、いいのかと

……幸せ。そう想えるように、変わられたのですね

(変わる。変化……)

 かつての世界の、時間。
 それは、あらゆるものを、変えさせずにはいられなかったという。
 良いものも、悪いものも、大切なものも、悲しいものも。
 等しく、変わりゆく前には、全て逆らうことができなかったという。

 ――この闇の世界では、私の進む今までには、存在しないもの。

(――この世界の変化は、なに?)

 手元の光で、闇を払い、前へ進む。
 けれど、ただこの闇にくるまれていれば、そんな変化は起こらない。
 想い出すことも、形を得ることも、幸せだって想うことも、なにもかもわかってしまうことも、もうそれはなくて――。

(……私も進んだ先には、その変化というものが、待っているというの?)

 でも、今のこの出会いも、今までとの違いだというのなら。
 ……それを拒んでいたのは、やっぱり、進むことだけを選んだせいなのだろうか。

『そんな時間は、でも、ずっとじゃなかった』

ずっと、じゃない……?

 男の言葉を、彼女は驚くように聞き返した。

……平穏も争いも、望んだからと言って、住めるものではないということだ

 夫と子を成した女性は、不安になるほど、日々の幸せをかみしめたという。
 だが、そこから不幸が始まってしまったのだと、男は語る。
 自分のことでないのに、どこか苦しむような、口元をひきしめた表情で。

戦は、続いていた。俺が、討ち倒し続けたように、必要な兵の数が足りなくなるほどに

兵が、足りなくなる……?

戦も国も、支えるには人が必要だ

言うなれば……その光

 男は、私と彼女の光を指さしながら、言う。

光が灯るために、燃料が必要なように。……戦にもまた、兵士という存在が、必要だったのだ

燃料……

 ぽつりと呟く彼女の言葉を無視し、男は話を続ける。

度重なる戦で、兵士はいなくなり。あいつの夫は、徴兵された

ちょうへい?

兵士として戦へ参加させられる、ということだ

 かつて傭兵であったという事実を気づかれたのも、逃げられない理由となったという。

 女性は、一人で家と土地を守ろうとした。
 それを支えるように、子供も幼いながらに協力した。

……それが、たたったのかもしれぬな

 ――その子は、流行病で亡くなった。
 ――夫が兵士として旅立ってから、わずかな間だったという。

病って、あの、身体が弱くなったりするのですよね? お薬とかが、必要とも聞いたことがあります

薬や医師は、容易に呼べるものではない。そんな余裕はなかったし……治らぬ病も、多い

……

 無言になった彼女をちらりと見て、男は話を再会する。
 息子に去られ、独り身で奮闘する女性への不幸は、これだけでは収まらなかった。

いつか帰ってくる夫を待つ彼女に届くのは、戦が悪化するとの知らせだけ。……そんな時だった、という

 あっさりと女性に告げられた、国からの報告。

この時だけ、あいつは、顔を背けた

 普段、女性は男に、明るくふるまっていた。
 時折見せる暗い陰は、すぐに打ち消して、なんでもないように見せていた。
 だがこの時ばかりは、隠せない憂鬱さを表した。
 顔を背けながら、腹からこぼすような薄い笑い声と共に、彼女は言ったのだという。

『そんなタイミングで、あの人の訃報の知らせが来たら……まぁ、目の前が、真っ暗になったよねぇ』

 震える声を、忘れられない。
 男は、冷静に彼女の言葉を語りながら、そう言い添えた。

ふほう……?

 彼女が、不思議そうに尋ねる。
 男は最小限の言葉で、その問いに答える。

女の夫が、亡くなったという知らせだ

……そんな

覚悟はしていた、と言っていた。戦地に赴いてから、かなりの時間が経っていたというからな

 ――それでも、暗い気持ちを抑えることは、できなかったねぇ。
 少しだけ落ち着きを取り戻した女性は、そう語ったという。

『夫も息子もなくし、ただ、生きているだけになった。じゃあ、新しいことを、ってもんでもないだろ』

『だから……世界が、憎くもなる。幸せなものも、苦しいものも、優しいものも、ひどいものも、全部。この世界そのものが……存在するもの、みんな、嫌になる』

『自分が生きてることも含めて、嫌に、なっちまってたんだろうね』

 そう、その想いは、まるで。

(――全てを暗く見つめる、男に、女性)

 この闇の世界のように、全ての存在を暗く想う、孤独な存在。
 ならば女性は、また、かつてのような想いに戻ったのだろうか。

世界、そのものが……お嫌、なのですか

 ぽつりと呟き、少し間をおいて。
 彼女が、悩むような言葉で、男へと話しかける。

かつての、ちゃんと光がある世界なのに。光は、みなさんを、照らし続けてくださるのではないのですか……?

――この闇とは、違うが

 男は、事実を告げるように、怒りもやわらかみもなく言った。

光なき者達は、当たり前に溢れていたよ。俺やあいつが、特別だったわけではない。……こんな、一面の闇でなくても、どこかには必ず存在しているものだ

……この闇で、なくても、ですか

 俯いた彼女の胸のなかに、今、あるのは……なんだろう。
 苦しみだろうか。悲しみだろうか。

(……戸惑い、だろうか)

 ――私も、奇妙な気分だった。

(形を、グリによって、取り戻した者達)

 笑い、喜び、安心し。
 泣き、わめき、絶望し。
 この闇に取り込まれるか、グリに取り込まれるか、それしかないと知った者達は。
 かつての世界が、良いばかりでないと。
 苦しいものでもあると、語っていたのに。

(それでも、この闇から、脱出しようとする。かつての生を、懐かしみ、取り戻そうとする)

 そうでない者達も、いたけれど。
 そうである者達も、嫌になるくらい、見てきた。
 ――なぜ、形を求めるのだろう。
 自分がいた世界を、複雑な想いで、求めるのだろう。
 幸せであっても、そうでなくても。
 形を続けたいと願うのは、なぜなのだろう。

その、女性の方は。そんなに、お辛くて……その

女は、自嘲するように言ったよ

 かつて抱えていた闇を、男へと告げた女性。
 そんな想いを抱えながら、どうやって、過ごし続けていたのだろう。
 私が気になったその答えを、女性は、男へと残していた。

『アタシは、ただ、生き続けていた。あんなに暗くて、苦しくて、灰みたいだったのに……身体は、生きる動きを、し続けてた』

(……ただ、動くためだけに、動いている。目標も、ないままに)

 ――どうして、だろう。
 目標は、あるはずなのに。
 私とグリの、進み続けてきた、今までと重なってしまうのは。

『……すぐ、だからな』

すぐ?

 私の小さな呟きに、グリは感じるように言葉を返した。
 いつものような、からかう響きの少ない、はっきりとした言葉で。

『燃料がなくなるのは。動いて、なにかを作って、腹にためて、また消えて。――そりゃあ、この世界と、変わらないもんだ』

 グリの呟きは、唐突で。

なにが言いたいの、グリ

 小声で問いかけると、グリは、珍しく困ったような声で答えてきた。

『想い出しちまった、のさぁ。必死に動いて、代わりにメシをとりこんで、寂しくなったら誰かと会って。……そうやって、日々の時間を、精一杯過ごしてきたなぁって』

 ――グリに、かつての世界で自分がどんな存在だったかの記憶は、ないと言っていた。

記憶が、戻ったの

『いやぁ、違うよぉ。ただ……想い、がね。ふつふつって感じで、灯りだしたって感じかねぇ』

(……進み続けるのは、両方、同じことだと言いたいのかしら)

 求めるものの、形は違う。
 触れられるものも、恐ろしいものも、得られるものも。
 形はみな、違っている。
 この闇が、全てを覆ってしまったから。

(今まで出会った形は、みな、そう語っていた)

 ……けれど、それは、かつての世界でも同じだったのだろうか。
 ここもまた、かつての世界と違うように見えた、同じ世界にすぎないのだろうか。
 そう、想わされている。
 想いこんでいる、だけなのだろうか。

ケッツァーさんと、出会われるまで

うん?

その方は、ずっと、歩かれていたのですね

歩いていた……?

 彼女の言葉に、男は疑問を浮かべる。
 少し悩んだ後、俺と会うためではないだろうが、と否定してから、言葉を続けた。

だがあいつは、確かに、何かを求めていたのかもしれない

 そうして男は、女性が語ったという言葉を、私達に伝える。

『――アタシは、今までと同じ行動を、続けていた。苗を植え、家を直し、料理を作り、たまに街へ行って。そんな、今までと同じ日々を』

 ……そしてその言葉から、わかったことがある。
 男と女性が過ごした、戦場と呼ばれる場所。
 互いに傷つけあい、闇のような気分を感じさせる……おそらく、この闇にとてもよく似たところ。
 その話の流れから、女性は、その戦場に戻ったのかと考えもした。
 でも、そうではないのだと、今の言葉は感じさせた。

(なぜ……同じ日々を、進み続けることが、できるの?)

 問いかけるよりも前に、女性自身もそれをわかっていたのか。

『なんで? って、自分でも不思議さ。見える世界が真っ黒な中、ずっと、そう問いかけていたよ』

(真っ暗な視界なのに、先もわからないのに、生き続ける)

 ――では、そこで在り続けるのは、なぜなのだろうか。

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