いつもの縁側で、乾拭きをしながらため息をつく奏。
その姿を蓮蛇が見ていた。
はぁ……。
いつもの縁側で、乾拭きをしながらため息をつく奏。
その姿を蓮蛇が見ていた。
どうしたんだい?
良かったら聞かせてくれないか。
あ、蓮蛇さん。
実は……うーん。
言ってもいいのかな。
蓮蛇の問いに、少し惑う様子を見せる奏。
蓮蛇は尻尾をチロチロと振りながら鎌首をもたげる。
ふむ。
何か秘密かな。
あ、いや。
秘密っていうか……。
神様、なんですよね?
神の使い、ではあるから一応蛇神の端っこの方にはいるけれど。
神様そのものか、というと悩ましい所だね。
それが何か関係あるのかい?
え、あ、あははは。
神様相手だと何か軽い気持ちで言った事に罰が当たらないかなーなんて、気をまわしちゃったり。
ふふ。
そんな心配することはないよ。
まあ話せないなら無理に、とはいわないからね。
別の話をしようか。
別の話……?
いいんですか?
話すのを躊躇う話を無理に聞き出そうとするほど野暮ではないよ。
そうだなぁ……君の前世のお登勢の時代には学校、なんてなかったんだけどね。
学校って楽しいものかい?
蓮蛇が話の水を変えると、奏はわっと話し始めた。
んー。
何でもかんでも楽しいかっていうとそんなことはないんですけどー。
大変なこと、つまらないこと、楽しいこと、いろいろあるのが学校ですね。
ほうほう。
色々あるんだね。
なんでもそうなんですよね。
勉強だって大変なことばっかりじゃなくて、課題をやってて楽しい教科もあれば、向かい合うだけで放り出して寝たくなっちゃう教科なんかもあったりしてー。
ふむふむ。
じゃあやっていて楽しい勉強はなんだい?
問われて、奏は即答する。
国語!
成績は、あんまよくない、けど。
顔を輝かせた後、恥じらうように眉を八の字にたわめて笑った奏にたいして、蓮蛇は鎌首を揺らす。
できなくても好き、というのは大変なことだよ。
偉いね、奏は。
そ、そんなことないですよー。
友達には「熱心なのに不思議とできないんだよねー」ってからかわれてばっかりで。
「出来る」から好きなのは容易い。
人から「出来が悪い」と言われても好きだと言い続ける、思い続けるのは大変な想いの力が必要なことだよ。
だから、奏は偉い。
……ありがとうございます。
私、そんな風に言ってもらえたの初めて。
たまたまだよ。
たまたま私が初めてだった。
こういう見方の人は世界にたくさんいるよ。
……はい!
えと、あの、掃除。
続きしちゃいますね。
テレを隠すように掃除に戻る奏。
蓮蛇はそれを見守る。
さて……私にはまだ話せないことの内容は気になるけど。
今は置いておこう。
でも、いつか聞かせてね、奏。