実を言えば、その日は週に一度。
帰り道の途中で寄り道をしても許される日だったのだが。
なんとなく今日もまっすぐ家に帰ってしまった。
実を言えば、その日は週に一度。
帰り道の途中で寄り道をしても許される日だったのだが。
まあ、蓮蛇さん?と約束しちゃったし。
別に今日は別の学校の男子とカラオケに行くよ!と言われて逃げ出したとかじゃないし、と自分に言い聞かせる奏。
言い聞かせるものの実情としてはいきなり合コンみたいなシチュエーションになりそうだから蓮蛇との約束をいいことに逃げ出した、というのが本当だった。
やあ、こんにちは奏さん。
約束通り来てくれたね。
あ、こんにちは蓮蛇さん……じゃなくて様?
上機嫌でしゅるしゅると舌を出し入れする蓮蛇に挨拶され、奏も挨拶する。
しかしその声には僅かなためらいが含まれ。
気軽にさん付けで呼ぶべきか、神様の使いに対するらしく様付けをするべきか迷っているようだった。
奏さんにならさんづけでよばれて構わないよ。
私になら、ですか?
何か理由があるんでしょうか。
はてな、と首をかしげる奏に蓮蛇は静かに応える。
こんなことを突然言われると驚くと思うけれどね。
奏さんの前々世のおたか、前世のお登勢は私と添い遂げた仲なのだよ。
前……世……?
添い遂げ……ええええ!?
やっぱり驚いたね。
おたかも、お登勢もこんな小さな蛇の私に生涯良くしてくれたものだよ。
しみじみと語る蓮蛇に対して、奏は酷く慌てていた。
落ち着きなく手をパタパタしていたかと思えば、作業着の裾をつかんで伸ばしたり整えたり。
とにかく落ち着きがなかった。
ああ、あの!
うん?
どうしたんだい?
もしかして蓮蛇さんが私に声をかけた理由って嫁とりとかそういう……!
困ります!
私まだ学校もあるし、未成年だし、お寺の跡継ぎだって……!
焦りのあまりか、まくし立てる奏に対して蓮蛇は落ち着いたもの。
ゆっくりと、確かな口調で奏の心配を取り除こうとする。
大丈夫。
別に嫁とり云々という話じゃないんだよ。
私くらい長く生きていると縁のある人間というのは大切でね。
せっかく生まれたのと出会えたなら縁をつないで置こう、ってところだね。
え……じゃあ神様のお嫁さんになるから神隠しにあうとかいうことは……。
ぽかん、という顔で問う奏に、蛇であるから表情の解らない蓮蛇はあくまで落ち着いた声で応える。
奏さんがそうしたい、というならするけどね。
今のところはそういったことはないよ。
ただ、時々話し相手になってくれると嬉しいかな。
どうか、友達、になってくれないだろうか。
あ……えと、そのくらいだったら、喜んで!
や、やだなぁ!恥ずかしい!私ばっかり先走っちゃって!アハハ!
ひー!恥ずかしい!
いくらなんでもただの寺の娘が神様に嫁とりされるとか思考が飛躍しすぎたぁ!
まぁ、「今のところは」なんだけどねぇ。
覚悟しておくれよ奏。
私は、蛇だからねぇ……しつこいよ?
そして、この後恥ずかしがった奏がどうにもぎくしゃくしてその日はお開きになりましたとさ。
どっとはらい。