誘拐騒動 その6

ククリ

どうなってんの! 儀式なんてウソだったんでしょ!

リチャード

俺にどなられてもな……! 文句なら屋敷の主人に言え!

スネイク

やべえ、焦げる! おいおい、おい! あいつ、神なんだろ? 俺たちで勝てるのか!?

禍々しき威容。とても人の手に負えまい……!

ヒヒッヒ! 当然だー! 神なのだぞ! わしは神を召喚したのだ、ひれ伏せ!

う……う……

邪悪な魔術師のそばには倒れた少女。幸い、息はまだある……!

アルマド

神ですって? 随分と大きく出ましたね……

リチャード

アルマド?

アルマド

こんなものは、神ではありません。いや、召喚とすら、呼べないでしょう。

リチャード

どういうことだ? 現に喚び出されているじゃないか。

熱気! とてもイカサマや幻術とも思えぬ。

アルマド

魔術の錬成の成れの果てです。この世の精気が出来損ないのように固まり、あたかも形を形成したかのように見えてしまう。

アルマド

……実力のない魔術師が、やりがちな失敗です。

スネイク

よくわかんねえが強そうじゃねえか!

スネイク

アッチチ!

ククリ

魔術下手くそのほうが呼べちゃうってこと? なにそれ、そんなの努力する気なくなるわ……

アルマド

ええ、そう。だけど、実際世の中そうなってないのは――

スネイク

??

うわっはっはっは!ゆけ! 狼藉者共を蹴散らせ!

えっ……?

ククリ

!?

謎の不定形体は、突然屋敷の主人に突然噛み付く! ……それをすんでのところで防ぐ、リチャード。剣が押し返される!

リチャード

ぐぐっぐぐぐぁ……!

ひ、ひえっ

リチャード

とぅあ!

渾身の力を込め剣を振り払い、怪物を吹き飛ばす。

アルマド

そう、未熟な魔術師が強力な魔物を生み出すなんて話は聞きません。それは――

リチャード

偶然生み出したやつが、食われてしまうからってわけか!

ひっひえーー!

ククリ

邪魔! あっち行ってろ!

力なく這いつくばる屋敷の主人を蹴り飛ばす。

ククリ

こんなヤツでも助けないわけにはいかないわ。特に、目の前で食べられるなんて目にあってたら、ね!

スネイク

倒せるのか? 倒せんのかよ……!?

リチャード

どうだ、アルマド。お前の意見を聞きたい。

アルマド

……正直、一人なら厳しい相手。……二人ならどちらかを犠牲にする必要があるでしょう。

リチャード

なんだ。それなら楽勝だ。

リチャード

俺たちは、四人だ! 一人も犠牲を出すことなく、叩き伏せろ!

ククリ

……! 任せて!

吹き飛ばしたはずの怪物は、いつの間にか勢いを取り戻し恐ろしい勢いで襲いかかる!

スネイク

それに負けぬスピードで飛び出す先発スネイク。

彼我はゼロ距離。剣閃、激しい金属音が鳴り響…………響かない!

そのまま怪物をそばをすり抜けるスネイク。そして逆方向から……飛びかかる影!

リチャード

腕が……伸び切っているな!

上段の袈裟斬り! 怪物の体に深く潜り込むかのように見えた剣は、しかし、

ものすごい音を立てて止められる。

リチャード

甘かった。相手は怪物なのだ。常識は通用しない。スネイクのフェイントで、腕は伸び切り明後日の方向。しかしリチャードの剣を止めたのは……第三の腕。

スネイク

うわあ化物!

ククリ

今更!  ……ハッ!

気迫を込めた矢。
見事。怪物の中央に突き刺さる。……だが、効果が感じられない! 何事もないかのように振る舞う怪物。そのとき、

怪物の体内で弾ける氷柱。魔術……!?

アルマド

座標指定。遅延発動。組み合わせればこんな芸当も可能です。

アルマド

細かい魔術はわたしにはできそうもありませんからね。ククリがいてくれて、助かりますよ。

ククリ

あら、持ち上げちゃって。何も出てこないわよ♪

ククリの矢にアルマドの魔術を乗せたのだ。卓越したチームワークのなせる技。

スネイク

やべえ、暴れだしたぞ! 無茶苦茶攻撃してきやがる!

リチャード

落ち着け。暴れているのは……焦っているからだ。畳み掛けろ!

触手のように暴れまわる多数の腕をかいくぐり、適切にダメージを与える。合間に魔術の込められた矢。氷柱が砕けるに合わせ、おお、見よ……怪物の体も大きくえぐれる!

リチャード

これで……終わりだ――ッ

空気すらも斬り裂き摩擦で焦げ付くような、一閃。

!!!!!!!!!!

怪物は一度、大きく体を震わすと。

力を失ったように崩れ落ち。そして……徐々に体を失い、あとにはただ赤黒い影が残るのみとなった。

リチャード

いい敵だった。

ククリ

そう? 変わった感性ねえ。わたしは御免被りたいわ。

ジェニー!

倒れた少女に駆け寄る少年。

ククリ

あっまだ危険かもしれないのに……!

う……う……

ユーキ……?

よかった……本当によかった……怪我はない?

暖かいよ……ユーキ……

ククリ

やれやれ。せっかくお熱い敵を倒したと思ったのに、またお熱くなってきちゃったわね。

スネイク

ククリ、そー言うの野暮って言うんだぜ。

ククリ

グッ……! 諭されちまった よりによってスネイクに!

――その後――

アルマド

屋敷の主人は城の方に引き渡しましたし、一件落着ってところですかね。

リチャード

そうだな。娘は無事助け出した。あとはどうなろうが、俺たちの関与するところじゃないさ。

お母様。

…………

……

こちら、ユーキ。わたしの大切な……方。この度わたしの窮地を救っていただきました。

…………

(ひ~~~)

わたくしの記憶違いでなければ。ジェニー、あなたを救ったのは依頼請負人の方々なはず。わたくし自身が依頼をした、ね。

で、ですがそれは――!

どうお考えですか。

ぼ、僕は……たしかに何もできなかった……でも! 本当に、ジェニーを助けたくて! 僕は!

そのような理想で語られても困ります。具体的にできること、できたことでお話なさい。

うぐぐ……!

強くおなりなさい。わたくし、家柄など気にしませんが、我が娘にふさわしくない方を認めるわけにはいきません。

そんな……!

わたくしも私兵を抱えております。ちょうど、欠員がいましてね。健康な男子を一人探している、と言ったらどうします?

え?

あなたにその気があるのなら、ですがね。

突然の提案。戸惑う少年少女。その意味が、徐々に浸透し目を見開き

は、はい! 僕に務まるなら! やらせてください! ぜひ!

お母様――――ッ

わたくしも別に鬼ではございません。

言っておきますが、我が兵の訓練は大変厳しいものですよ。

やり遂げます! 僕、僕、きっと……!

二転三転した誘拐騒動も、これにて終了。

彼女の騎士様が誕生するのは、もう少し先の話。

誘拐騒動 終わり

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