華やかなる王都
ここは王都セントファーン
街道を歩く男あり。
――
ブラックガードのリチャードである。今日はオフの日なのか、単身だ。
よーリチャード。調子はどうだー?
町ゆく人に声をかけられる。依頼請負人という職業柄、都民への知名度はそれなりに高い。
もっとも、よい評判ばかりでもないが。
貴様はリチャード!! あのときの恨みを晴らしてやる。犬の餌にしてやるぜ……!
襲い来る男!
ひらりとかわし、続いて延髄に鮮やかな手刀。もんどり打って倒れる。
気絶
そこへわらわらと集まる都民たち。なんと! 倒れた無法者の衣類をあさり、金目のものを拝借している!
遅れて登場する治安組織のものども。気絶した男を留置所へと運ぶ。
くそー来る日も来る日も後始末。やってられねえっすよ……!
また文句かぁ~? 文句が金くれるかぁ~? さっさと運ぶぞオラァ えっほえっほ
――……
あっ!?
そのとき……! なんと男は息を吹き返した! すきを突き、治安組織のものの手から逃れる!
やっべー! 上にバレたら減給されちまう! とっ捕まえるぞ!
間抜けぃ! てめえらのようなノロマに捕まるかよ!
逃げられてしまう!
そこに!
そこに集まるは都民たち。
な、なんだお前たち。道を塞ぐな邪魔だ! 怪我してぇのか!
や、やめろ! うお、うおーーーーー!
都民は嬉々とした顔で無法者を取り囲む! 荒くれものと言えど、すでに消耗しきった状態。これだけの都民を相手に手も足も出ない!
ピクピク
都民の群れがいなくなると、そこにはほぼ裸の状態になった男が倒れていた。なんと! さらに剥ぎ取られてしまったのだ!
まるで無法地帯! だがこれも王都の日常茶飯事。逞しく生きる都民の営みである。
ああ、麗しきかな王都セントファーン!
一方のリチャード。
そろそろ昼か。腹が減ったな。
ふらりと建物の一角を目指す。
あいよ! 日替わりプレートお待ち!
いよっ 待ってました! 腹減ってたんだぁ~食うぞー!
昼時の大衆食堂。今日も大入りで大変慌ただしい。手頃な値段で提供してくれるので、庶民に人気の店だ。
リチャードも馴染みの客である。こういう着飾らない店が好みなのだ。給仕を呼び止め、注文を一つ。
わくわく定食一つ。
途端。
わ、わくわく……!
わくわく!? 兄ちゃん本気か……!?
ざわめきと動揺が広がる店内。一体どんな定食だというのか……!
ちくしょう、いいさ、あたしも女だ。覚悟決めるよ。厨房ー! わくわく定食入りましたァー!
かしこまったァ!
厨房から響く声。……程なくして。
わくわく定食、お待ち!
小麦を練り、野菜や肉と一緒に焼き上げた大衆料理。ダシの効かせ方で、店ごとに味の特徴が出る。どこの家庭でも作られる、メジャーな料理だ。
……しかし!
積み重ねられる練料理……!
はっ 今日はこのくらいで勘弁してやるぜ!
積み上げられる、積み上げられる……!
何段になるかはその日のコックの気分次第。客は、ドキドキワクワクしながらそれを待たなくてはならない。故の、わくわく定食なのだ!
いただきます。
むしゃ むしゃ
おいおい、あの兄ちゃん平然と平らげてるぜ……
むしゃ むしゃ
いい食べっぷりだ! 気に入ったよあたしはぁ。厨房ーー!
みなまで言うなーー!
おかわり(頼んでない)自由……!
鬼かあんたらー!
むしゃ むしゃ
そんな中でも、涼しい顔で平らげるリチャード。荒くれ事をなりわいをする身。エネルギーの吸収度合い、代謝もまた人並みではないのだ。
ごちそうさまでした。
負けた……
俺はまだまだヒヨコだったようだぜ……
今日も、一つの戦いを制したのだ。昇天しかける店の者をおいて、店を後にするリチャード。
さて、午後は何をするかな……
再び雑踏に消えるリチャード。まだ日は高い。彼の一日は続く……!
華やかなる王都 終わり