Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
レダ暦32年
冷たい夜
~The Cold Night~
2
あれ以来、リウトは頻繁に城へ遊びに来るようになった。
メール屋さんの仕事があってもなくても、ユニやクローブに会いに来た。
隣国ラルタークの脅威がなくなってからは、城仕えの者も以前とは比べ物にならないほど自由に外へ出て行けるようになった。
また逆に、外の者も簡単な審査だけで城へ入れるようになった。
レダ国は平和だった。
リウトは門兵と顔見知りになっていたから、彼が来るとすぐに伝えられて、クローブがやってくる。
外来用の大広間。
町の人と城内の人がごちゃ混ぜになっているそこで、リウトとクローブは話し込んでいた。
何気ない世間話がひどく楽しい。
すると、リウトが急にそわそわしだした。
ね、今日、ユニは暇?
さぁ。言えば暇もらえるんじゃないか?
今平和だし
じゃあ呼んできてよ!
ユニと外行きたいんだー
デート?
うん!
茶化すようにクローブが聞けば、リウトは満面の笑みで頷いた。
だから、からかいがいがないと、クローブは拗ねる。
知ってたけどさ
何?
お前って本当に素直だよな
後でユニの方をからかってやろうと思いながら、クローブはユニを探しに向かった。
どこへ行くの?
前を歩く背中に聞いてみる。
リウトの身長がまた伸びた
ぼんやり思った。
呼び出され連れ出されたはいいものの、呼び出した張本人は
さ、行こう!
といきなり歩き出してしまったため、ユニはついていくしかなかった。
リウトは振り向いて、にっこりと笑った。
メール屋さんしてたら、きれいな場所見つけたんだ!
ユニもきっと気に入るよ!
リウトがそう言うから黙って付いていくと、北西の町外れに、大きな植物園があった。
メインストリートからは大分外れた場所にあるが、かなり客足はあるようだ。
今も、老若男女さまざまな人が園を出入りしている。
こんな場所知らなかった
ユニが少し驚いて立ち尽くしていると、リウトが2人分の入園料を払い、「行こう」と行ってしまった。
ユニは慌ててついていく。
いつの間にこんな強引になったんだろう
不思議に思って思わずリウトの袖を掴むと、彼は振り向いてにっこりと笑った。
疑いのないその笑顔。
ただそれだけで全て許せてしまう。
この笑顔にいつも騙されてしまう。
色とりどりの花が咲き乱れていた。
少し離れたところでは、別の種類の花たちが咲き誇っている。
さらに進んだ奥のほうには、花時計があった。
空は青くて、飛び虫が花の間を飛び交っている。
風が少し吹いて、色とりどりの花たちはみんな同じようにゆらゆらと揺れた。
太陽の光を浴びて真っ直ぐに伸びている。
ただただキレイな光景。
城にこもっていたら絶対に見ることが出来なかった。
リウトはいつもユニに新しい何かを見せてくれる。
ユニが感動していると、リウトは嬉しそうに笑った。
やっぱ、ユニにはオンミツよりもお花のほうが似合っているよ
……………………
え?
あっちにまだたくさんお花あるよ!
ユニはためらった。
この手を取れば、自分の立場や仕事を忘れてしまいそうだった。
手、繋いでいこ!
しかし、無邪気なリウトの笑顔には敵わなかった。
お嬢さん?
いつの間にか近づいてきたコールに呼びかけられ、ユニは我に返った。
静まり返る部屋。
誰の呼吸も聞こえない。
冷たい空間。
あなたの名前、まだ聞いていなかったね
コールの長い指が、いつからか流れていたユニの涙をすくった。