マギアフィラフト
~航章~

 ――訓練場敷地内、遺跡入口。

ユフィ

この遺跡入口が、
地下迷宮に続く
階段がある場所ね。

ジュピター

通称・階段室。
仲間との待ち合わせに使う事が
多いみたいだな。

ダナン

で、そのベテランさんを
ここで待てばいいわけだな。

アデル

どんな人でしょうか。
ドキドキしますね。

ロココ

…………

ハル

きっと無茶苦茶強い
人っすよぉ。
楽しみっす。

 ハル達六人は、ルーキー支援制度で同伴するベテラン冒険者を待っていた。



 そしてここは訓練場敷地内にある遺跡入口で、ここから地下迷宮に向かう階段がある。

 遺跡の奥に延びる通路には、屈強そうな衛兵が二名立っている。奥にある扉は立ち入り禁止なので、冒険者が近づかぬように守っているのだ。フルプレートの立ち姿はピクリともせず、頑として道を通さぬ覚悟が現れている。

ハル

実は鎧だけで
人間が入ってないかも
しれないっすよ。

ユフィ

大人しくしてなさい!

 スキップで衛兵に近付こうとするハルを、ユフィが止める。捕まえてきた猫のように襟首を後ろから掴んで、皆が集まる場所に戻した。

アデル

で、ロココさんも
サポート役なんですよね?

ロココ

は、はいぃ。
魔気を感知して
敵の動きを知ったり、
治療での援護、
迷宮で見付けた
道具の判別も出来ます。

ダナン

アデルちゃんも
医療技術高いし
サポートはバッチシだな。

アデル

その分、戦力にならないので
前に居るダナンさん達に
負担を掛けてしまいます。

ダナン

ぎゃっはっは。
気にする事ないぜ、
アデルちゃん。
おめぇらも気合入れろよ!

ジュピター

ぃってぇー!!

ハル

ップくくくく、
ジュピター無茶苦茶
痛がってるっす。

 背中を叩かれたジュピターは、悶え苦しみ身をよじっている。それをハルが指をさして爆笑している。

ジュピター

ク、ォオ……ォ……

ダナン

ったく、大袈裟な奴だぜ。

 階段室には冒険者が次々と集まってきている。

 武具や道具のチェックをする者、壁に背をあずけ仲間を待つ者、合流した仲間と報酬の分け前を話す者。様々な冒険者達がここを通って、地下迷宮に挑んでいくのだ。


 その中に、顔に大きな古傷を負った女冒険者がいる。その大きな古傷を見ると、過酷な地下迷宮の戦いを想像させられる。ユフィはその戦いに身を投じようとしている現状を、はっきりと認識させられていた。

ダナン

しっかし遅ぇなー。
ベテランっつっても
時間ぐらい守れよ。

 その古傷の女冒険者は、ダナンに一直線に近付いてきて、おもむろに腹を蹴り上げた。

アリス

アリス=レイバークラウド。
お前ら坊主共の
付き添いをしてやる者だ。

ダナン

って、てめぇ
いきなり何しやがる!

アリス

挨拶だ。
初対面だから
手を抜いてやったぞ。

ダナン

ありがとう。

ダナン

って、
なるわけないだろーが!

 ダナンが声を荒げる中、もう一人こちらに近付いてくる。黒髪の長髪で温和そうな面持ちの男性だ。

コフィン

お待たせしました。
コフィン=ナヅタヅと申します。
よろしくお願いします。

アリス

遅れてくるとは失礼な奴だ。
ほらこのタコ坊主が
怒っているだろ。
ちゃんと謝っておけ。

コフィン

遅れたのは
誰かさんが朝から
カジノに入り浸って
いたからです。

アリス

そーなんだよ、コフィン。
カジノでスッカラカンに
なった腹いせに、
このタコ坊主の腹を
蹴り上げたんだが、
中々どうしての頑丈さ。

コフィン

どう考えてもそれは
アリスに怒っていると
思いますよ。

アリス

そうなのか?

ダナン

当たり前だろーが!

ダナン

いでぇぇぇええ!!
何でまた蹴るんだよー!!
ちきしょー。

アリス

やられる前にやれだ。
鉄則だろう。

 自信満々に語るアリスは、腹を押さえ苦しみに堪えるダナンを笑顔で眺めている。コフィンは申し訳なさそうにしているが動揺している様子はない。

ユフィ

アリスさん、
私はユフィ。
ベルゼビュート・ユフィール。

アリス

アリスでいいぞ。
堅苦しいのは苦手だ。

コフィン

勿論、私もコフィンで
構いません。
皆さんよろしくお願いします。

ハル

自分はハルっす。
アリス、コフィン
よろしくっす。

 早速、親しく呼び始めるハル。

 初対面の年上相手にも臆するところがない。それを見て、ロココは驚きと戸惑いを同時に感じていた。







 ひとしきり全員が挨拶を終えた後、コフィンから話があった。

コフィン

さて……、
早速ですが大切な事を
お話しておきます。

ロココ

ゴクリ……

コフィン

ルーキー支援制度……。
よく勘違いされる事が
多いのですが、
我々は剣を取って
戦いに加勢したりはしません。

アデル

えっ!?

ハル

どういう事っすか?

 コフィンの話に、ハル達は目を丸くした。コフィンとアリスは、そんな反応を想定内と言った顔をしている。少しざわついたハル達は、次のコフィンの言葉に注目するしかなかった。

 ~航章~     60、遺跡入口

facebook twitter
pagetop