マギアフィラフト
~航章~
――訓練場敷地内、遺跡入口。
この遺跡入口が、
地下迷宮に続く
階段がある場所ね。
通称・階段室。
仲間との待ち合わせに使う事が
多いみたいだな。
で、そのベテランさんを
ここで待てばいいわけだな。
どんな人でしょうか。
ドキドキしますね。
…………
きっと無茶苦茶強い
人っすよぉ。
楽しみっす。
ハル達六人は、ルーキー支援制度で同伴するベテラン冒険者を待っていた。
そしてここは訓練場敷地内にある遺跡入口で、ここから地下迷宮に向かう階段がある。
遺跡の奥に延びる通路には、屈強そうな衛兵が二名立っている。奥にある扉は立ち入り禁止なので、冒険者が近づかぬように守っているのだ。フルプレートの立ち姿はピクリともせず、頑として道を通さぬ覚悟が現れている。
実は鎧だけで
人間が入ってないかも
しれないっすよ。
大人しくしてなさい!
スキップで衛兵に近付こうとするハルを、ユフィが止める。捕まえてきた猫のように襟首を後ろから掴んで、皆が集まる場所に戻した。
で、ロココさんも
サポート役なんですよね?
は、はいぃ。
魔気を感知して
敵の動きを知ったり、
治療での援護、
迷宮で見付けた
道具の判別も出来ます。
アデルちゃんも
医療技術高いし
サポートはバッチシだな。
その分、戦力にならないので
前に居るダナンさん達に
負担を掛けてしまいます。
ぎゃっはっは。
気にする事ないぜ、
アデルちゃん。
おめぇらも気合入れろよ!
ぃってぇー!!
ップくくくく、
ジュピター無茶苦茶
痛がってるっす。
背中を叩かれたジュピターは、悶え苦しみ身をよじっている。それをハルが指をさして爆笑している。
ク、ォオ……ォ……
ったく、大袈裟な奴だぜ。
階段室には冒険者が次々と集まってきている。
武具や道具のチェックをする者、壁に背をあずけ仲間を待つ者、合流した仲間と報酬の分け前を話す者。様々な冒険者達がここを通って、地下迷宮に挑んでいくのだ。
その中に、顔に大きな古傷を負った女冒険者がいる。その大きな古傷を見ると、過酷な地下迷宮の戦いを想像させられる。ユフィはその戦いに身を投じようとしている現状を、はっきりと認識させられていた。
しっかし遅ぇなー。
ベテランっつっても
時間ぐらい守れよ。
その古傷の女冒険者は、ダナンに一直線に近付いてきて、おもむろに腹を蹴り上げた。
アリス=レイバークラウド。
お前ら坊主共の
付き添いをしてやる者だ。
って、てめぇ
いきなり何しやがる!
挨拶だ。
初対面だから
手を抜いてやったぞ。
ありがとう。
って、
なるわけないだろーが!
ダナンが声を荒げる中、もう一人こちらに近付いてくる。黒髪の長髪で温和そうな面持ちの男性だ。
お待たせしました。
コフィン=ナヅタヅと申します。
よろしくお願いします。
遅れてくるとは失礼な奴だ。
ほらこのタコ坊主が
怒っているだろ。
ちゃんと謝っておけ。
遅れたのは
誰かさんが朝から
カジノに入り浸って
いたからです。
そーなんだよ、コフィン。
カジノでスッカラカンに
なった腹いせに、
このタコ坊主の腹を
蹴り上げたんだが、
中々どうしての頑丈さ。
どう考えてもそれは
アリスに怒っていると
思いますよ。
そうなのか?
当たり前だろーが!
いでぇぇぇええ!!
何でまた蹴るんだよー!!
ちきしょー。
やられる前にやれだ。
鉄則だろう。
自信満々に語るアリスは、腹を押さえ苦しみに堪えるダナンを笑顔で眺めている。コフィンは申し訳なさそうにしているが動揺している様子はない。
アリスさん、
私はユフィ。
ベルゼビュート・ユフィール。
アリスでいいぞ。
堅苦しいのは苦手だ。
勿論、私もコフィンで
構いません。
皆さんよろしくお願いします。
自分はハルっす。
アリス、コフィン
よろしくっす。
早速、親しく呼び始めるハル。
初対面の年上相手にも臆するところがない。それを見て、ロココは驚きと戸惑いを同時に感じていた。
ひとしきり全員が挨拶を終えた後、コフィンから話があった。
さて……、
早速ですが大切な事を
お話しておきます。
ゴクリ……
ルーキー支援制度……。
よく勘違いされる事が
多いのですが、
我々は剣を取って
戦いに加勢したりはしません。
えっ!?
どういう事っすか?
コフィンの話に、ハル達は目を丸くした。コフィンとアリスは、そんな反応を想定内と言った顔をしている。少しざわついたハル達は、次のコフィンの言葉に注目するしかなかった。