――ハル達が訓練場を出た頃、訓練場裏庭。
――ハル達が訓練場を出た頃、訓練場裏庭。
あれから何年経ったんや?
ボサボサの髪を風になびかせた初老の男が、問いかけた。
ワシが年を数えるなんて生き方、
しよると思っとる?
まぁせやな。
場長と対等に話すその初老の男は、首を傾け耳に指を突っ込み、むず痒い箇所をほじくっている。
陽光が射す裏庭は日向ぼっこするには調度良い暖かさで、離れた場所から訓練生達の気勢ある声が聞こえてきている。
しっかしエライ立派に
なってからに……。
ワシは毎日鍛えとるからの。
ジジイの事ちゃうわ!
ほぅかほぅか。
てっきりワシの事か思ぉてのぉ。
なんや楽しそうに。
威勢の良いガキでも
おんのかいな?
それが今日いのうなって
しもたんじゃ。
ワシ、張り合いのうなるけぇ。
ジジイにそこまで
言わせるガキは久々やん。
どないな奴や?
所かまわず牙剥き出しに
襲ってきよる奴とか
すばしっこく動いて
鎌投げよる奴とかかの。
ほんま元気にきよるよ。
ただの殺人鬼やん!
よういわんわ。
……でもまぁどうせ
返り討ちに
したんやろうけど。
正当防衛って言うんじゃ。
で、可愛い孫に
その度怒られるわけやな。
無邪気に声を上げる男達は、誰に憚ることなく屈託ない笑顔を撒き散らしている。
そこに現れたのは、ハル達訓練生を見送ったリーベだった。
私がその人を叱るのは
他の者に迷惑を
掛けるからです。
ローブを羽織らずにいるリーベは、暖かな陽光を全身に受けている。いつもローブで影になる目元は、美しく光を反射している。
おお、終わったんかいな。
その有望なガキんちょ達の
世話も大変やな。
貴方達の方が
よっぽど子供で、
世話が焼けます。
一本取られたのぉ。
『六刃(リクジン)のルグラ』も
リーベの前では子供扱いじゃ。
ジジイも一緒に言われとるやろ。
ってか、恥ずっ。
そんな通り名、
今誰も知らんで。
『鍵』の存在……。
リーベの口から出た『鍵』という言葉に反応して、初老の男・ルグラはリーベに意識を向けた。
時を併せるように
優秀な者が集まっています。
直ぐにでも結晶師に
なれる素質を持つ者、
導師の道を目指す者。
あの人のお孫さんも居ます。
『鍵』はどないしてん?
え? あの人の孫?
貴方もよく知るお方です。
そして……
今日ここを出た者の中に、
『鍵』を持つ者が居ます。
ええっ!? 嘘やろ!?
そんな事あるん?
『旗』に呼応するかのように
現れた『鍵』……。
我々にはそれが偶然かどうか
理解に及びません。
『旗』と『鍵』のぉ。
後は『刃』。
そっちの方はどうなんじゃ?
まだ時間掛かるようやけど、
そのガキどもが
一人前になるぐらいには
いけるやろ。
相変わらず大雑把な
奴じゃのう。
神妙な空気の中、場長がルグラのいい加減な言葉を笑い飛ばす。豪快なその声は、近くにあった木で休んでいた鳥達を飛び立たせた。
その鳥達が群れをつくり遠くに飛んでいくのが見える。リーベはそれをひとしきり眺めた後、ゆっくりと口を開いた。
偶然、運命……。
どう呼ぶかは分かりませんが、
我々が感知出来ぬ
深く大きな因果を
感じずにはいられません。
確実に言えるのは、
今迄築き上げてきたものが
遂に動き出すという事。
その中心に身を置く
彼等の前途を祈りましょう。
鳥の群れは、太陽に向かい小さくなっていく。リーベはそれを、ここから飛び立っていくハル達の姿と重ね合わせた。