Wild Worldシリーズ

レダ暦31年
砂の町のメール屋さん

14

  

  

  

ご苦労だったな

 謁見の間。

やや緊張して起立する少年に労いの言葉をかけるレダ王。

その表情は、以前見た時よりもずっと穏やかだった。



 まっすぐに自分を見つめるリウトに、レダ王はにっこりと笑って訊ねた。

アルトは元気だったかの?

リウト

はい! とてもいい人でした!

そうか
私は直接会ったことはないんだがの
そうか、ヤツはいい人か

レダ王は嬉しそうに笑う。

 しかしその言葉に、リウトは少し不思議に思った。

リウト

アルトも会ったことはないと言っていたな
どうして手紙だけでやり取りが続いているんだろう?

リウト

会ったことないのに手紙を書いているんですか?

質問は少し不躾になってしまっただろうか。

 気付いたリウトが顔をしかめるが、レダ王はにっこりと笑って答えてくれた。

そうだな。一方的なやりとりじゃ
返事が来たこともない。だけど、どうしても書きたいんじゃ
今はアルトしか彼らとのつながりがないからの

リウト

……彼ら?

リウトは首を傾げる。

アルトの両親じゃ
星の研究をしていた
その血をしっかりとアルトが受け継いでくれたようだ
アルトが星の研究をしていると聞いたときは心底嬉しかったの

リウト

………………

昔を懐かしむようなレダ王の口調。

 リウトがどう言えばいいか思案していると、すぐにレダ王が気付いた。

おっと。一人で話してしまったな
アルトが元気なら、私はそれでいい

それ以上望むものは何もない

リウト

会いたいとは思わないんですか?

リウト

僕だったら、会いたくなる

 こんなんで満足は出来ない。

 会って、話をしたくなる。

 元気でいることを望む人ならなおさら。




 リウトは何気なく聞いただけだが、その言葉に隣にいたダイオスは苦笑し、後ろに控えていたユニはリウトの背中を睨みつけた。


 レダ王はふたりに視線で余計なことは言わないように合図を送ると、リウトの疑問に快く答えてくれた。

会いたいさ
だが、私はもうこの歳だし、立場上国を放り出して一個人に会いに行けば大問題になる
今年はどうしようかと困っていたら、ちょうどいいところに君が現れたんじゃ

私の頼みを聞いてくれてありがとう
君に会えたこと、すごく嬉しいぞ

穏やかに、丁寧にレダ王は言う。

リウト

そんなことを聞きたかったんじゃない

 そうは思ったが、レダ王の笑顔にそれ以上言えなかった。
 

 レダ王の感謝の言葉が、とても丁寧で、心がこもっていたから、色々な気持ちが混ざり合って、リウトは言葉を失くして立ち尽くした。


 幼い頃、クローブが”レダ王みたいな人になりたい!”と町を飛び出した気持ちが少しだけ分かる気がした。

 当時は、おばさんを残して出て行くなんてひどい奴だ、と止めようとしたが、クローブはそれを押し切って出て行った。



 でも、今ならその背を押せる。

レダ王は偉大な王様だ……

何を照れているんじゃ
国王の感謝の言葉なんて滅多に聞けるもんじゃない
しっかりと顔をあげぃ

 しゅんとしてうつむくリウトを照れているんだと勘違いしたダイオスが、リウトの頭をくしゃくしゃと強く撫でた。

 それが強すぎて、思わずリウトはよろめいてしまった。

リウト

ちょっとダイオス!

わはは! すごい頭じゃ!

 じゃれつくふたり。

 彼らを見て、

ユニ

王の前なのに

ユニは軽くため息をついた。


レダ王はほほえましそうに彼らを見ている。

リウトへのご褒美はちゃんと用意してあるぞ

リウト

え? ご褒美?

 驚いてレダ王を見る。

 好意なのは分かるが、これ以上何かしてもらうわけにはいかない。


 自分の立場はしっかりとわきまえている。


 リウトが口を開こうとすると、ちょうどそのタイミングで後ろの扉が開いた。

 そこから現れるのは、兵士。

 兵士にしては華奢な体つきだが、鍛え抜かれた筋肉が重装の下に隠されている。

クローブ

失礼します
王がお呼びとの言付けを受けました

 扉を一歩進んでから、片手を胸の前に持っていき、丁寧に礼の形を取る。

 声は若さで張っていて、澄んで通る。



 以前に会ったときよりも大分背は伸び、顔つきも少しだけ大人びた。



 自分の知らないところで成長をしていたとしても、その顔を忘れるはずはない。

リウト

クローブっ!?

リウトの驚いた声に、クローブは顔を上げると、彼もまたリウトを見て驚きの表情を隠そうとはしなかった。

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