Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
レダ暦31年
砂の町のメール屋さん
15
どれくらいぶりにこの地に足を踏み入れるだろう。
正直、もう帰ってこれないと思っていた。
様々な偶然と、親友の想いがあって、この故郷へと帰ってこれた。
感謝しなければならない。
自分を想ってくれる、大切な人々に。
砂の町特有の、容赦のない日差しがなつかしいかった。
変わらないな、ここは
片手で日除けをして、そっと呟く。
そして自然と口元がほころんだ。
変わらないことが嬉しい。
フェシスの道も
みんな変わらない
黄色い視界の中を、ゆっくりと、確かめるように歩いていく。
この場所に自分がいること。
この場所に自分がいてもいいこと。
自分の居場所がここにあること。
確かめるように踏みしめていく。
城を出てからは、重装から軽めの服装に着替えていた。
懐かしい服を着こなせるか不安だったが、着てみればその感覚は体が覚えていて、自分にしっくりくる。
薄布を何重にも重ね合わせた、民族衣装にも似た格好。
おー、織物屋のおっちゃん!!
元気だったか!?
知っている顔を見つけ、片手を挙げて声をかける。
声をかけられた彼は、一瞬きょとんとしたあと、驚いて大声を出した。
そして笑顔になった。
その声はクローブか!
お前たくましくなったなー!
おっちゃんは変わんないな!
あたぼうよ!
クローブ、お前帰ってきたのか?
城の兵は辞めたのか
いや、休暇がもらえたんだ
あらやだ、クローブじゃない?
通りがかった中年女性が、目ざとくクローブを発見した。
その声を聞いた別の女性も反応する。
え? クローブ!?
お久しぶりです
奥様方
久しぶり! かっこよくなったわねー!!
クローブがそこにいるだけで、周りに人が集まってくる。
あっという間に人だかりになった。
その中心で、クローブは笑顔を絶やさずみんなに愛想を振りまいていた。
リウトのおかげだよ、ありがとう
本当に嬉しそうにおばさんは言う。
だから、嬉しくなってリウトも笑顔になった。
砂の町までクローブと一緒に来て、彼がひとりで町を見たいといったから、リウトは一人先に家に来ていた。
おばさんが喜んでくれてよかった
リウトの帰りも遅いから、心配してたんだよ
今、城で変な噂もあるみたいだし
え? 噂って……
よくわからないけど、お城であまりよくないことが起こっているみたいなのよ
おばさんは少し不安顔だ。
そして砂の町に情報が入らないのではなく自分が噂に疎いことを知ったリウトは、少しショックを受けた。
でも、これからよくなっていくといいよね!
クローブも帰ってこれたし、きっとよくなっていくよ!
半分はおばさんを励ませるため、半分は自分を奮い立たせるためにリウトは言う。
そうであってほしい。
少なくともそう思い込んでいなければ生きていけない。
今日までに出会ってきた人たち、これから出会う人たちが、みんな笑顔でいてほしい。
誰かの笑顔を見るために、自分は生きている。
リウトはそんな気がしていた。
まぁ、リウト!
あんたなんていい子なんだい!!
リウトとおばさんは手を取り合って、明るい未来に思いを馳せた。
二人はキラキラとした瞳で見つめ合っている。
これからの未来。
きっとよくなっていく。
戦争もなくなる。
みんな安心して暮らせる。
これからもがんばって行こうね!
みんなでがんばろうよ!!
僕もがんばるっ!
もちろんさ!
リウト、あんたを私の息子だと言ってもいいかい!?
リウトのような子を育てられて、おばさん、すごく誇りに思うんだ!
もちろんだよ!
僕もおばさんに育ててもらえてよかった!!
リウトっ!
おばさんっ!!
感極まって、ふたりは抱き合った。
人は、とても温かい。
……あのー……
リウトたちが2人の世界に入っていると、遠慮がちに声がかかった。
リウトとおばさんが手を繋いだままそちらを振り向くと、人だかりから開放されていつの間にかやってきたクローブが、入り口の扉にもたれていた。
呆れたような表情で、少し歳を取った母親の顔を見る。
母さん、俺の親友に手を出すのやめてくれない?
んまぁ! 失礼な子だね!
帰ってきたと思ったらそんなことを言って!!
あんたじゃないから手を出さないわよ!!
息子をどんな目で見ているんだ!
俺が親友に手を出すはずがないだろ!
仲がいいのか悪いのか、顔を見たとたん、顔を突き合わせて口ゲンカ。
本当は久しぶりの再会に二人して照れているだけなのだが、話がずれてきて、リウトが困ってしまった。
本気のケンカではなく、仲良いケンカなのは分かるが、ちょっと悲しい。
もっと素直に喜べばいいのに
そんなリウトに気付いたクローブは、言い合いを止めて、自分の背が伸びたせいで少し小さく見えるリウトの肩に腕を回した。
そして母親に向き直る。
まぁ、とりあえず、ただいま
クローブのはにかんだ笑顔に、リウトは声を出して笑った。