どこか古そうな見た目にたがわず、
壁面には、
風化したようにざらざらとした凹凸がある。
どこか古そうな見た目にたがわず、
壁面には、
風化したようにざらざらとした凹凸がある。
自然にそうなったとしか思えないような
自然な感触だが、
そのせいで
扉の境目である割れ目には
触れても気づきにくいようになっていた。
「からくり屋敷」……か
……
一瞬、あたりは静まり返る。
おそらく、この螺旋階段は、各階へ通じるのだろう
ただし、その「出入口」は、遠隔操作によって、完全に遮断することができる
一階に階段が見当たらなかったのも、初めて5階を訪れた際階段に気づかなかったのもそのためだろう
本来、エレベーター付近には隣接するように階段を設置することが定められているはずだからな
そして、これを用いれば――
完全に人間を閉じ込めることも可能なら、段数を理解していない人間を、目的とは別の階に誘導することも可能になるだろうな
『別の階に誘導』……
先ほど夜暮が出た「出入り口」。
本当に、最初に降りた出入り口と同じか?
!
確証はない。
だが……
あの貼り紙が、ずっと気にかかっていた
紙がテープで留められているだけであることは、即席の処置と思えば許容できる
だが、あの傾きや、テープの留め方さえも不十分なのは不備だ……
あれは、隅まで整えられたこの校舎内では、どうしても違和感となる。無意識に、そのことを意識してしまう
階段を出れば、すぐにエレベーターは視界に入る。
もしそこに、同じような傾き、貼り方の貼り紙があれば……
たとえ意識せずとも、同じ場所だと無意識に信じ込むことになる
その「階」に、もし全く異なる場所に誘導できる細工のあるエレベーターでもあれば、さらに最悪だな
周囲を見通せず、方向の頻繁に変わる螺旋階段は、方向や高さといった感覚を分かりにくくさせます
多少段数が違っていても……
『目的の階以外に通じていても』
ごまかすことができる
まさか、それを確かめるために、夜暮さんを先に?
……
……大丈夫でしょうか
さあな
スタバタ♪
ともかく、問題なのは、もしこの仮説が正しいとすれば、「扉」の開閉がほぼ無音で行われていることです
そうでなければ、扉の切り替えに気づいてしまいますから
この外見からは想像しにくいことですが、衝撃を吸収する特別な素材が使われているのでしょう
音は、聞こえたのか?
……
っ!
……ん?
今、光が途切れましたね
今、かすかに音も――
……
思い返してみれば、かすかに聞こえた……かもしれません。
会話や足音の反響が大きかったため、聞き取りにくいものでしたが……
成程。
ソレも計算のうち、ということだろう
この階段が、そもそも人を惑わすために作られているものだと?
……この建物について少し調べておいた
芍薬ヶ峰学園は新宗教系学校……つまり、宗教団体の運営する私立学校。校舎は、学校法人の所有物であった建物を改築したものだ
……
その、かつての建物は……
?!
暗い空間に、急に強光が差し込んだ。
驚く五日町の腕を、誰かが強く掴む。
誰かが。
風がどこかから……
しかし彼女には、
その人物の顔を、
確認することができない。
暗闇に慣れた目は、
かすかな光も十分に感知できるよう
光に対し鋭敏になっている。
これを暗順応という。
その目に、急に差し込む光は
過剰な刺激となる。
結果、
暗闇で急に光を浴びると、
目はその過剰な光を処理しきれず
視界はホワイトアウトする。
五日町さんっ!
透っ……!!
掴みかかる手を振り払いながら、
五日町は
守るべき相手へ、空いている手を伸ばす。
数奇透の声の方へ。
その指先が何かに確かに触れて、
ごめんなさい、五日町さん
明順応……光に目が慣れるまで、通常約1分。
まだ五日町の目は、完全には
慣れていなかった。
その目が、傾く視界の中で、
数奇の体の一部を捉える。
自分を強く突き飛ばす、手を。
とおる――――
螺旋階段をふりあおぐ五日町の前で、
石壁が
音もなく
落ちてくる。
しばしすれば、
そこには螺旋階段などなかったかのように
カモフラージュされた石柱が
立っているだけだった。
……
五日町の腕を引いた人物は、
覆面をしていた。
五日町から素早く離れるやいなや、
身をひるがえして逃げ出す。
身長約170、体型は健康的、歩幅が大きい。おそらく男で、プロではないな。何か手にしているが……
特徴を捉えるものの、
五日町は追いはしない。
目が慣れるまでしばらく掛かった。確かに廊下ほどではないとはいえ、多少の照明は施されていたはずだった
螺旋階段内の照明を少しずつ弱められていた可能性がある
そして、おそらく懐中電灯か何かで照らされたために視界が奪われたのだろう
計画的だ。
そしておそらく、正解だ
……数奇透を分断する方法としてはな
……
……