階段は一段一段の幅が大きく、
足の長い夜暮でも
急ぐには上り辛い。

夜暮

……にしてもこの建物、どうしてこんなに複雑な作りなんでしょうね。
学校って感じじゃないでしょ

五日町

詳細は公開されていないが、この施設は元々学校ではなかったようだ

夜暮

はあ……にしたって、こんなカラクリ屋敷みたいなところを、そのまま学校にしなくたって

五日町

「カラクリ屋敷」?

夜暮

カラクリは見つけてませんけど、隠し扉とか、いかにも何か仕掛けがありそうな造りじゃないですか

ここも案外、隠し通路の名残だったり……

っ!

……ん?


螺旋階段の照明は全て
上向きに設置されているため、
見上げると意外に暗く見える。






その分、
入ってきた入り口に
5階廊下からの光が差し込むのは、
夜暮にははっきりと見えていた。

夜暮

今、その光が一瞬途切れた

つまり、誰かが
5階階段前の廊下を横切ったのだろう。

数奇は同時に
別のことに気づいていたようだった。

数奇

今、かすかに音もしました

夜暮

誰かいるなら、すぐに道聞けそうですね。
僕見てきますよ

夜暮は急ぎ足で階段を上り、

素早く5階の様子を覗きこんだ。

……あ

……と、

その姿勢のまま
後ろ手に合図をする。

二人とも、ちょっと黙っててください

そして、少し髪を整えると

廊下の向こう、
職員室側から歩いてくる姿に向かって
笑顔で手を挙げた。

夜暮

やあ、サナちゃん、ツキちゃん

サナ

あ!

ツキ

ヨル君!

 少女たちはパタパタと駆け寄ってくる。

 手にはスマホだけを上品に持ち、
 もう片方の手を控えめに振る。

夜暮

ここにいたんだ。
電話する手間が省けて良かったよ

サナ

電話?
何か用だったの?

夜暮

用というか……

夜暮はエレベーターを振り返って指差した。

夜暮

エレベーターで来たから、道が分かんなくなっちゃってね

夜暮は、紙に印刷して、テープで留めただけの
 張り紙を見やる。

 当然ながら少し雑で、
 相変わらず、少し傾いている。

ツキ

……ふふっ

サナ

そっかぁ、また道に迷ってたんだ?

ツキ

ヨル君かわいいところあるね

夜暮

えー、そうかな?
かわいいより、カッコいいって言われたいなぁ

サナ

いや、かわいいよ

ツキ

かわいいかわいい

夜暮

そこまではっきり言われるとショックだなー

夜暮

それで、また道教えてくれる?

サナ

しょうがないなー

ツキ

ねえ、サナ、せっかくだから連れて行ってあげよう?

え……

サナ

そ、そうだね!
ヨル君、行こう。こっち

夜暮

サナは夜暮の手を引き、
ツキは夜暮に階段を指し示した。

サナ

あ、あのね、あそこの柱の階段は生徒が使っちゃいけないところで、普段は閉じられてるの

ツキ

それで、柱の反対側。
柱とかで死角になって廊下からは見えにくいんだけど、本当はこっちに先生用のエレベーターがあるの!

この図は不正確な縮尺や表記を含む可能性がある

サナ

生徒用が壊れてるときは、先生用を使っていいんだよ!

夜暮

これは気づかなかったなぁ

ツキ

ほんとはダメなんだけどね。
でも、黙認してくれてるの

ん? じゃあ――

ツキ

さ、行こう

夜暮

あ、うん

ま、いっか

夜暮

いやぁ、助かったよ

――あ、そうだ、僕これから1階に降りるんだけどさ

夜暮

このまま学校出てお茶しない? 奢るよ

サナ

あ、ほんとだ。気づいたらもう放課後近い!
ツキ、この後空いてる?

ツキ

んー……空いてるよ!
カフェなら、「スタイルバタフライ」とか行きたいなぁ

夜暮

スタバタか。良いね

五日町

……何分経った?

数奇

体感で5分4秒です

五日町

……あの様子では、暫く連絡も見込めなさそうだな

五日町

で、見つかったか?

数奇

……はい、残念ながら

数奇は、壁面に指先を当てた。

先ほど数奇が4階の床付近だと告げた段の付近。


爪を立てられた場所には、
非常に見えづらい割れ目のようなものが
縦一文字に走っていた。

数奇

おそらくここに、何らかの仕掛けで開く扉が隠されているのでしょう

‡4 β-エンドルフィンに溺れて ―ⅵ

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