あの、あなたは?

話は後だ。

助けを呼びに行こうと、

外へ飛び出した美咲の前に現れた男は、

怯える美咲を制して険しい表情で家の中へ入り、

リビングへと向かった。

リビングに入る瞬間。

…………。

男は左手から眩い光を放つと、

その手には光の弓が出現した。

中へと突入した男は、

素早くその弓を構えて侵入者を狙う。

…………。

同化がかなり進んでいる。
母親の方はもう助けられないか。

母はすでに意識がないようで、

身体の八割はもう見えず、

残り二割は影のように透けていた。

…………。

そして、

先に攻撃を受けた父の身体が影のように消滅する。

…………。

その父と母の光景を男の背後から目にした美咲は、

膝から崩れ落ちた。

お父さん、お母さん…………。

くっ。

男は背後にいる美咲を一瞬見た。

そして、苦悶の表情で声をかける。

良く聞くんだ!!
残念だが、お母さんはもう助からない。
このまま放って置くと、お母さんは人間ではなくなってしまう。
辛いだろうが、これからすることに耐えてくれ。

弓に光る矢をかけて、

身体を全て飲み込まれそうな母を狙い放った。

光る矢は、存在が薄れていく母に突き刺さった。

オノレコウジュツシカァッ!!

…………。

謎の存在は、

断末魔と共に母から剥がれ消滅した。

…………。

…………。

その後、

母は目を覚まして、

声も出せずに泣いている美咲へと微笑んだ。

お母さん!!

…………。

感情が溢れた美咲は、

男の脇を駆け抜けて、

消え逝く母親の前へと座った。

…………。

…………。

そして、

互いに伸ばした手が微かに触れると、

母は光となって消えた。

父と母が目の前で消滅し、

リビングのソファーへ座ってから三十分程経った。

…………。

…………。

ソファーで俯く美咲の様子を見ていた男は、

ただ何も言わずに側に立っていた。

…………。

美咲が顔を僅かに上げると、

ソファーの向かい側にあるベランダから、

月明かりが差し込み頬を照らす。

目の下から顎の方にかけて、

涙が流れていったのがよく分かる程に、

暗いリビングとは対照的で明るい。

差し込む光を見て、

美咲はようやく口を開いた。

あの怪物は、何だったんですか?

美咲の側にいた男は、

ベランダの方へと歩いていき、

外を眺めながら答える。

あれは影人間。
通称シャドーと呼ばれる別次元の存在。

シャドー……。

そう。
こっちの世界へやってきた奴らは、人間を見境なく襲う。

…………。

美咲が再び言葉を失ったので、

男も話すのを止めた。

美咲は無言のまま、

棚に置いてあった写真立てを眺める。

そこには、

家族三人の思い出の場面が切りとられていて、

どの写真も笑っていた。

…………。

色々と思い出してしまい、

また涙が溢れてくる。

目を逸らして再び俯くと、

少し掠れた声で話し出した。

…………な風に、幸せを奪われちゃうんですね。

…………。

外を眺めながら立っていた男は、

その声に振り返る。

私が家族で幸せに過ごしていた時も、知らない誰かがこんな目に……。

…………。

男は、

震える美咲に近づいて目の前で屈むと、

左手の平を上に向け、

ぼんやりと小さい光を出した。

触ってごらん。

…………。

優しく声をかけると、

美咲はしばらくそれを眺めてから、

右手でその光に触れた。

……あったかい。

さらに左手でも光に触れる。

…………。

…………。

…………。

その光に触れていると、

なぜか父と母の笑顔が見える気がした。

そこから、

美咲の中では一つのことが思い浮かぶ。

私もなれますか?
あなたのように。

今度は俯いていないこともあり、

言葉はよく聞き取れた。

それは、また危険な目に合うってことなんだよ。
それでも…………。

それでも、誰かが傷つかないなら。

誰かの幸せを奪う存在から、私が皆を守りたい!!

第3章--認証試練編--(76話)-第二試練⑥-

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