違う。顔だけじゃ駄目だ


もしこれまでの事件が
全て撫子のためにあるのなら

















残りは顔じゃない。

頭だ。





















西園寺撫子は深窓の令嬢。

多少足が速かったとしても
木下女史とは比べるまでもない。

それなのに
犯人は木下女史を狙った。






それは
ただのオリジナルの復元、ではなく
より良いものを望んでいる証。





ならば。




本が読める、という程度の
必要性しかなかったとしても

妥協するはずがない。










紫季は長年、灯里の助手をしていた。
遅れ気味の古びた時計程度なら
直すことができる。


お茶がただのお湯だったり
毎日のおかずが
ほぼ魚の開きだったりするが

一応は料理もできる。


言葉に鈍りもない。



犯人が灯里ではなく
別にいるのなら
彼女は十分に標的となる。



























でも。

本当にそうか?
紫季以上はいないのか?

























でも森園灯里本人には会えるんでしょ?

あいつをはべらせるなんて、とてもとても




嫌な想像が浮かんだ。


……



もし
この一連の犯人が灯里ではないのなら、
彼自身も標的に
成り得るのではないのだろうか。




灯里の母、森園瞳子は
撫子に酷似しているという。


そして
西園寺邸で「撫子」と呼ばれていた娘と
時計塔にいた女もよく似ている。



その時計塔の女は――

灯里、じゃないよな?



灯里に、似ている。


























いや、まさか

たとえ首から上だけだとしても
灯里を撫子に仕立てるのは
紫季以上に無理がある。






そう、思うのだけれど。

犯人は、
己の目的を達成させるためだけに
何の罪もない娘たちを
何人も切り刻むやつだ。

常識は通じない。






















灯里! 紫季!!



晴紘は家に駆け込んだ。

そのまま廊下を突っ切り、
片端から部屋を開けて回る。

食堂に

居間に

工房に



だが求める姿はどこにもない。



どこだ!?



返事は返って来ない。




一緒にいるのだろうか。
納品でもなんでもいいから
留守にしていてくれれば、と願う。


しかし希望的観測ほど
当たらないものもない。






































きっと彼らは
この家のどこかにいる。











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