時計塔まで来て、晴紘は足を止めた。

つい先ほど来たばかりだが
女はいない。


やはり先ほどとは
違う世界なのだろうか。




ここは

紫季が「過去を見せる」と言って
連れて来た場所。

撫子に似た女がいた場所。


全ての始まりはここからだった。



最後も




……ここで終わるのだろうか

最後。最後なのか?



紫季と時計塔の女は
タイムリミットだと言った。


しかし
わからないことはまだ多い。

わからないまま
幕引きになってしまうのだろうか。







それで






自分をこうして
何度も過去に飛ばした意味は
あったのだろうか。





それとも、まだ続きがあるのか……?




























そんな時

鳴り響く歯車を背に
人影が見えた。



声をかけようとして止まる。

人影は、ふたり。



だが
探していたふたりではない。














 
しかし


全く知らない顔だと
言うわけでもなかった。




























侯爵邸の庭で見たふたり。

撫子と



西園寺侯爵だ。





































……なんで、




何故彼らが時計塔にいるのだろう。


いや、撫子だけならわかる。

どうやって入り込んだかは不明だが
彼女とは
何度もこの場所で出会った。


あの女が「撫子」だという
確証は何処にもないが。









しかし侯爵は。










ここは立ち入り禁止だったはずだ

何故、家の者でもない彼らが……

招き入れられたようには見えない。

それならば
せめて居間に通すだろう。

歯車が回り続けているような
危険な場所で待たせるはずがない。

























撫子が導いたのだろうか。

時計塔にいたあの女なら
手段は不明だが
此処に入り込むことはできる。

と言うことは、あれはやはり撫子なのか?

今までも……全部撫子だったのか?



紫紺の振袖も紅い簪も
見慣れてしまった。

見ただけで
撫子と連想できてしまうほどに。








言い換えれば

振袖と簪が同じなら
撫子と誤認するほどに。

……俺は



本当の「撫子」を知らない。









【漆ノ弐】生贄を捧ぐ・壱

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