空子

あ、留奈ちゃん、ひかりちゃん!


夜のレッスンを終え、シャワー室に向かっていると、春宮が留奈とひかりを呼び止めた。

空子

これからみんなでごはんに行きませんか?

たまにはユニットをまたいで交流を深めたいなって、空子と話して


隣には瀬月。
その申し出に脊髄反射で答えたのはひかりだった。

ひかり

いいねいいね! 行こうよ!

留奈

まあ、悪くはないわね

あと、つかさが来られそうだから声をかけようと思うんだけどーー

留奈

泉水?

留奈

そ、それはやめておかないかしら?

ひかり

えー! なんで?

留奈

い、泉水はきっと忙しいわ

留奈

あの子のパパ、地元じゃ有名な名士よ? 彼女もいろいろあるに違いないわ

ひかり

こんな遅い時間にー?

留奈

そ、そうよ。この留奈が言うから間違いないわ

空子

確かに留奈ちゃんが言うならそうかもです

空子

留奈ちゃんとつかさちゃんは境遇が似てますもんね?

ぬぅ・・・・・・そ、そうなのよ。

でも泉水の方は正真正銘のナチュラルボーンお嬢様。
一緒に行動なんてしたらすぐに留奈の化けの皮がはがれ・・・・・・いや何言ってるの!?

留奈だって誰もがかしずくお嬢様だけれど、とにかく泉水と比べられるわけにはいかないわ!

留奈

そ、そうね。留奈たちには庶民の知り得ない苦労があるのよ

ひかり

でも留奈ちゃんはくるんだ?

留奈

わっ、悪いかしら!? たまたま暇なだけよ!

空子

はっ!? ということはどうしましょう!?

ど、どうしたの空子?

空子

お店どうしましょう・・・・・・

空子

留奈ちゃんの高貴な舌に合うようなお店なんて、私知りませんっ!

あ・・・・・・確かにそうだね

ひかり

あー。留奈ちゃんフォアグラとかトリュフとか毎日食べてそうだもんね

空子

うんうん! あわびとか伊勢エビとか!

留奈

え?

違うの?

留奈

ち、違わないけど!?

留奈

と、トリュフなんて毎朝ごはんにのせてお茶漬けでいただいてるわ?

空子

わあ、すごいです! さすが留奈ちゃん! 高貴です!

それって高貴なの?

ぬぬぅ・・・・・・本当はただの玉子かけごはんが好きなんて言えないわ・・・・・・!

そもそも留奈は高級食材が大の苦手なのよ・・・・・・。

フォアグラなんて固形の油だし、あわびなんて比較的食べやすいゴムじゃない!

それより留奈はコンビニのプリンとかからあげとかそういう庶民的なものが好きなのよ!

ひかり

でも困ったねー? ファミレスとかマッドネスバーガーでいいかなと思ったのに

留奈

マッドネスバーガーですって・・・・・・!?

マッドネスバーガーと言ったらキング・オブ・ジャンクフードショップ!

留奈はあの、いかにも不健康そうな大盛りポテトと”食べる暴力”の異名を持つトリプルマッドネスバーガーがずっと食べたかったのよ!

これは逆にチャンスよ・・・・・・。

留奈は一人でお店に入れないタイプだから、みんなと一緒のこのタイミングじゃなきゃハンバーガーなんて食べられない!

ひかり

あ、やっぱり留奈ちゃんはマッドネスバーガーじゃダメだよね?

留奈

え?

いけない、ひかりだけじゃなく春宮も瀬月も庶民のハンバーガーなんて留奈の口に合わないと思ってる。

違うのよ! 留奈はそれがいいの! 

それが留奈のお口にジャストフィットなのよ!

うん、留奈は、あんまり不健康なものは食べなさそう

留奈

で、でも、たまにはいいかもね?

え?

留奈

ほ、ほら、不健康なものほどおいしいじゃない? おいしいは正義じゃない?

留奈

つまり不健康は正義じゃない?

ひかり

留奈ちゃん、急に何言いだしたの?

空子

不健康は正義なんですか? 奥が深いです!

空子。それたぶん違う

・・・・・・っ、なかなかうまくいかないわ・・・・・・!

自ら作り上げた高貴キャラがこうも自分の足を引っ張るなんて・・・・・・!

プロデューサー

お、みんないるね

そこへ現れたのはプロデューサー。

この流れを変える救世主になるかもと期待をかけたわ。

・・・・・・だというのに。

プロデューサー

実は取引先さんからいただき物があるんだ。食べない?

ひかり

えー! なになに!?

プロデューサー

キャビアなんだけど

なぜ!?

なぜそんなものを気楽に贈るの!? 頭おかしいんじゃないの!?

無難にお菓子とかゼリーとかにしときなさいよ!

ひかり

でも私魚卵って苦手なんだ・・・・・・

ちょっとしょっぱくて私も苦手かな・・・・・・

空子

私は食べたことないですけど、庶民の子なので、ゆ、勇気がいります・・・・・・

プロデューサー

じゃあ留奈に食べてもらおうか?

留奈

なんでそうなるのよ!?

留奈だってイヤよ! 変に生臭いし、しょっぱいし!

キャビアなんてあれ言うほどおいしくないのよ!

プロデューサー

ど、どうしたんだ留奈? もしかして嫌いかな?

留奈

き、嫌いなわけないじゃない・・・・・・。だ、大好物よ・・・・・・

プロデューサー

そうか、よかった!


留奈のばかぁぁああああ!

プロデューサー

じゃあ、はい。どうぞ?

プロデューサーはカップデザート用のスプーンでキャビアを口元に運んでくる。

や、優しいじゃない・・・・・・。そんな風ににこにこして・・・・・・。

そんな顔されたら・・・・・・断れないじゃない・・・・・・っ!

留奈

・・・・・・はむっ・・・・・・

留奈

・・・・・・んっ・・・・・・っ・・・・・・コッ・・・・・・!

・・・・・・留奈、いまコッって言わなかった・・・・・・?

留奈

ま、まあまあ・・・・・・ね・・・・・・!


なんとか飲み込めた・・・・・・! 死ぬかと思ったわ・・・・・・!

プロデューサー

よかった。じゃあ冷蔵庫に入れておくから好きな時に食べてね

留奈

え、ええ・・・・・・ありがとう・・・・・・

どれだけ鈍感なのよプロデューサー!

泣きそうな留奈の顔を見なさいよ!? なんならもう泣いてるわよ!

もう、最低・・・・・・。

一時は期待をかけたのに、状況を悪くしただけじゃない・・・・・・。

プロデューサー

それよりみんなどこか食べに行かない?

空子

あ、ちょうどさっきみんなとそんな話をしていたんです!

プロデューサー

そうなんだ。じゃあちょうどいいね。ごちそうするよ

プロデューサー

あ、でもごめん、給料日前だからマッドネスバーガーでもいいかな?

留奈

え?


プロデューサーぁぁぁあああっ・・・・・・!

ひかり

留奈ちゃんが今日イチでいい笑顔してる!?


やっぱり留奈のプロデューサーね! 信じてたわ!

留奈

し、しかたないわね! 不本意だけど留奈もつきあってあげようかしら!? 不本意だけど!?

どう見ても不本意に見えないよ留奈・・・・・・?

そんなのもうどうだっていいわ。






そして、はじめて食べたトリプルマッドネスバーガーの味は格別で。

留奈はこっそりプロデューサーにまた連れてきてと頼んでおいた。

火ノ前留奈:ハンバーガー食べたい

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