#1 白昼の殺埴輪事件(解決編)
#1 白昼の殺埴輪事件(解決編)
さて、回答時間は十分かな?
では解決編に入ろう。
そんなに驚くんじゃないよ。
振動でひび割れるじゃないか。
いつの間にか夢から出てきたな。
でも…母ちゃん……。
コイツらと俺が兄弟じゃないって
どういう事!?
こんなにそっくりじゃないか!
ぴーぴーうるさい埴輪だねぇ。
アンタも刑事になったんだから
その位自分で解決してみなさいよ。
やーい、怒られてやんの!
うるせぇ!
あーあ、やっちゃった。
まったく、短気だねぇ。
アンタは昔からそうだったよねぇ。
黙ってろ!
今考えてるんだ!
まず、事実を整理だ。
はにぃとしゅがぁは兄弟だが、俺はそのふたりと兄弟じゃない。
だが、母ちゃんは三埴輪にとって母ちゃんだ。
性別は……全員が埴輪だから、
そこは関係ない。
とすると、次は外見だ。
何ジロジロ見てんだ!
俺はやってない!
まだわかんないのかい!
……。
!!
フッフッフッ……。
謎はすべ……
髪の毛は関係ないよ。
……すべ……。
……と、髪の毛の有無は関係ない。
なぜなら、母ちゃんが
母ちゃんでなくなってしまうからだ。
だが私は、先程のあの瞬間、
もう一つの真実を捉えた。
いいんだな?
真実を言ってしまって。
はよせーい!
引っ張り過ぎなんだよー!
もったいつける埴輪は嫌われるよ!
それは名前だ!
名前がなんだってんだい
我々の名前を整理してみよう。
とーすと
はにぃ
しゅがぁ
母ちゃん
ワカンネ。
今北産業。
説明キボンヌ。
揃いも揃って、
懐かしい言い回しを使いおってからに。
ならばこれに
少し脚注をつけてみよう。
はにぃ……蜂蜜
しゅがぁ…砂糖
とーすと…パン
母ちゃん…母ちゃん
はっ!
俺たち、甘味料だ!
そう。
名前の由来から
分類すると、
貴様らは
甘味料ということで
兄弟なのだ!
なのだ!
なのだ!
なのだ!
……と思った方は残念。
そこには矛盾がある。
……なのだ!
じゃあ僕は、君とも
この二埴輪とも兄弟なんだな?
……。
名前で決まったら世話ないわな。
似た感じの名前をつけられた
ヤツが出てきたら
どんどん兄弟増えるよね。
まったく、相変わらず頓珍漢だねぇ。
そんなんだから、
未だに彼埴輪もできないんだよ。
うっ……。
大体そんなんで、母ちゃんとの
関係性が保てるのかね?
そ……そこは母ちゃんだから……。
ふーん……。
まあ、その考え方は
悪くないんじゃないかね。
『母ちゃん=母ちゃん』
ってのも。
母ちゃんは母ちゃん……?
わかったぞ!
高周波出すな!
振動反対!
キサマら二埴輪は
母ちゃんの前の夫の連れ子なんだ!
そして、私は今の父ちゃんの連れ子なんだ!
なん
だっ
てー!
てー!
てー!
てー!
……が正解だと思ったか!?
残念ながらそこには致命的な矛盾がある。
それは何か?
では、それを見ていこう。
ああ、びっくりした。
母ちゃん、知らなかったよ。
……。
へぇー、母ちゃんも知らないのか。
……。
母ちゃんも知らなかったんじゃ、俺達が知らなくても仕方ないよな。
……こらまて。
なんだい。
なんで母ちゃんが知らないんだよ。
だって、知らないもんは知らないし。
だいたい、あんたらに父ちゃんいるなんて思いもよらなくてな。
そう言えば俺の父ちゃんって誰だ?
父ちゃんなんて誰も作ってないんじゃね?
そうだな。
母みたいなシンボルの埴輪はよく出土するけど、父って聞かないよな。どちらかと言うと狩人とか戦士とか。
……。
も……もう。
お手上げだ。
刑事気取りの埴輪のくせに
諦めるなんて情けないねぇ。
だ……だって……。
今さっきだって、ヒントだらけじゃないか。
そろそろワシの出番じゃな。
だれ?
まず、我らは埴輪である。
うん。
故に、埴輪は子供を産まない。
えぇ!?
性別はみんな、埴輪。
人間《かみ》さまみたいに
まぐわうこともなければ
その必要もない。
え、待って!
だって、コイツら、
母ちゃんに兄弟なんでしょ?
ああ、母ちゃんだよ!
まあ兄弟だけど……。
最近知ったばっかだしなぁ。
それはだな……。
そういう名目で人間《かみ》さまに作られただけだ。
何じゃそりゃ!?
我々埴輪はあくまで人間《かみ》さまを
象ったシンボル。
人間《かみ》さまの生活様式を
表すだけの存在でしかない。
えー……。
でもそれだって、
後世の人間《かみ》さまが
出土したヤツラを見て
勝手にそう思っただけじゃ……。
やかましい。
いちいちメタっぽいことを
言うんじゃないよ。
このモブめ。
やーい、怒られてやんの!
モブー!モブー!
……というわけで。
簡潔に言うと……。
その名前・関係は
作品名、または
作品のモチーフだから
で、ある。
えー……。
それって、読者が
めっちゃ怒るパターンじゃない?
やかましい!
このモブ!
まあ、とりあえず、
そんなことはどうでもよくて
俺はコイツが逮捕できればいいや。
埴輪違いだー!
そうだそうだー!
アンタ、今夜の晩飯抜きね!
YEAH!
やあ!
お、中央埴輪庁から通知が来たぞ。
立件できないYO!
立件できないよ。
なんでや!?
やったぁ!
兄ちゃん!母ちゃん!
俺無罪だよ―!
よく……よく頑張ったな。
アタシゃ最初からアンタを信じてたよ。
アンタは出土するような子じゃないって。
解せぬ!
立件できない理由は
何だ!
埴輪じゃYO!なかったYO!
埴輪じゃなかったよ。
え?
割れたのはDOKIDOKIだよ!
割れたのは土器だよ。
土……器…?
なので、
殺埴輪の実行犯として、
立件できません。
……YO。
ば……バカな……。
だから、最初からやってないって言ってるのに。
いや、ならば器物破損で立件だ!
別件逮捕反対!
俺は関係ない!
アタシゃそろそろゴハン作りたいんだ!
逃してたまるか!
では、君を逮捕する。
とーすと君。
え!?
これはどういう事……。
器物破損罪の容疑で逮捕する。
いや、俺は現場に行ってない……。
現場はここだ。
あ……。
ほら、短気は損気。
だいたい、現場へ行ってないって
どういう事だよ?
現場検証してなかったのか?
アンタは昔からそういう子だったよね…。
それでは、これより
彼の取り調べをするので
みなさんお帰りください。
はーい。
ったく、とんだ茶番だぜ。
いっけない。
八百屋が閉まっちゃう!
そ…そんな……。
こうして、白昼の殺埴輪事件は
被疑者・被害者共に不在で
幕を閉じた。
こののち、とーすとは取調室内での
数々の器物破損が発覚し、
求刑364年の懲役を
言い渡されることになった。
一方、はにぃ&しゅがぁ兄弟はと言うと……。
……へへへ。
お、はにぃ。
それなんだ?
あ、いや。なんでもない。
取調室に落ちていたのを
拾ってきたとかじゃないぜ!
ふーん。
そうか。
とまあ、
なにやら妙なものを
手に入れたようだ。
良からぬことが
おこらなければいいが……。
ともかく、今回の件をもって
埴輪的案件がどのようなものかは
肌で感じていただけたかと思う。
果たして、次なる謎はいかに!?
つづく!
今更読みましたー。
母ちゃんと言えば、夫が妻を呼ぶ呼称でもあるから、トーストはハニィの父…?しかしハニィとトーストは誕生日が同じ、つまり年の差はない…
みたいなこと考えてたんですが、すっかりだまされました。母ちゃん(概念)だったとは。