帰宅してから部屋で過ごしていた美咲は、
春休み明けに提出する進路希望について、
机に向かいながら考えていた。
帰宅してから部屋で過ごしていた美咲は、
春休み明けに提出する進路希望について、
机に向かいながら考えていた。
やっぱり、人の為になるような仕事につきたいもんなぁ。
人の為というワードから、
医者や看護師などの医療系が真っ先に浮かぶ。
でも、イメージとは違うなぁ。
お母さんみたいに、辛い時に優しく助けてあげられるような人が近いんだけど……。
母のことを考えると次々に連想されていく。
そして、最終的に。
お母さん、お母さん……。
その前に結婚……。
結婚の二文字から顔が熱くなる。
私がなりたいのって、お嫁さん?
両手を頬に当てて下を向くと、
自らに問うてしまった。
そんな風に過ごしていると一階から物音がした。
音を聞いて我に帰り、
部屋の扉を開ける。
お父さんとお母さんが帰って来たのかな?
廊下へと顔を覗かせ、
部屋の電気を消し、
一階へと降りていく。
階段を下まで降り切ると、
リビングの扉をが見えたが奥は暗い。
明かりが点いていれば、すぐに分かるはず。
さらに、
帰宅時に点けた廊下の明かりが消えていた。
誰もいない。
それに、廊下の電気が消えてる……。
点けたのは気のせいだったと思い、
階段の一段目に足をかけた。
…………。
背中越しに嫌な予感がしたので、
廊下へと軽く振り返ると、
先程は閉まっていたはずのリビングへの扉が、
奥へと半開きになっている。
え?
さっきは閉まってたよね?
少し怖いが扉を閉めようと、
階段を登るのを止めてそちらに向かった。
ゆっくりと廊下を歩きながら扉に近付き、
ドアノブに触れようと手を伸ばす。
その瞬間。
暗いリビングの中で人影が動くのが見えた。
ドアノブに触れそうだった手を素早く引き戻すと、
一歩だけ後退る。
まさか、泥棒!!
両親が帰宅したと思っていたが、
さらに数歩下がっていき、
近くにある玄関の床を見た。
そこには美咲が履いていた靴しかなく、
両親の物は見当たらない。
嘘……。
本当に泥棒?
侵入者に気付かれてはいけないと、
片手で口元を覆った。
警察を呼ぼうと思うが、
スマホは二階の部屋に置いてきてしまった。
それに、
家の電話はリビングにある。
どうしよう。
取りに行かずに逃げた方が……。
どう判断するのが正しいのか、
すぐには判断できずに、
その場に立ち尽くしてしまう。
急いで何かしなければと思うが、
少しずつ恐怖心が込み上げてくる。
ダメ、怖い。
まずは逃げよう。
家から逃げて助けを呼んだ方が良いと思い、
こっそり靴を履いて、
もう一度リビングの方を見た。
ニンゲン。
…………。
突如として背後に立っていた謎の存在に掴まれ、
美咲は声も出せぬまま、
リビングへと引きずられていく。
その際に履いたばかりの靴が廊下に脱げ落ちる。
謎の存在は美咲を見下ろしながら、
ブツブツと呟いていた。
姿は人のようにも見えるが、
体は影のようで一部透けていた。
ドウカモトノニンゲンノニクタイハモロカッタ。
コノカラダノママデハシヌダケ。
ダガミツケタ。
ワカイニンゲン。
…………。
床に放り投げられた美咲は、
味わったことのない恐怖から全身が震えていた。
謎の存在が話す言葉も断片的で理解できない。
ドウカヲハジメルカ。
その存在は美咲に覆いかぶさろうと、
両手を美咲に向けた。