~ルーキー支援制度~

初戦から二日間の探索に、

熟練の冒険者が同行する。





それが一つ。





もう一つは

一人300ガロンの

金銭的援助が与えられる。












熟練者の同行については、

迷宮での死亡率で最も高い

初戦の死亡率を下げる為だ。



それに訓練場での座学(出席自由)とは違い、

現場で経験者から学び取れるものは

ルーキーにとって大きな糧となる。



それを二日間。

決して長くはないが

あるとないとでは雲泥の差がある。








もう一つの金銭的援助。

これが実に自由すぎる故に

失敗するルーキーが後を絶たない。



武器・防具・道具・薬・食費・宿代

探索に必須のコストは、

300ガロンという金額では

到底全てまかなう事は不可能。



最低限必要なものに必要なだけ使う。

生き残る確率を少しでも上げる為に

金銭感覚は重要な要素の一つでもある。

ジュピター

か~、こりゃダメだ。
ハルはそうゆうの
絶対苦手だろ。

ダナン

あったらあっただけ
使っちまいそうだもんな。

ハル

そ~なんすよぉ。
ガロンを長く持った
経験がないっす。

ジュピター

散財するハルが
容易に想像出来るな。

ハル

気が付いたら
スッカラカンなんすよね。

ダナン

典型的な素寒貧(スカンピン)
発言だな。

ハル

っすよねぇー。

タラト

ハルはスカンピン。
ハゲはバカ。

ハル

プハッ!

ユフィ

ふぅ~、メナの苦労が
少し理解出来たわ。

リュウ

まぁ、逆に清々しいだろ。
ここまでくりゃ。

アデル

ハルが元気にしているのは
いいじゃないですか。
メナもきっと喜びます。

リュウ

そうだな。

 ニグがルーキー支援制度の説明する中、脱線して騒ぎまくるハル達。ニグが次の説明のタイミングを計っている時に、入口から若い男女の声がした。

やっぱりもう始まってるぞ。

そろっと入ったら
わかんないわよ。

 ハルとジュピターは、聞き覚えのある声に反応する。爆笑していたまま、視線を入口に向けた。

フィンクス

あ。

ハル

んあ。

シャイン

ん?

ジュピター

あいつらって……

フィンクス

いよっ、
久々だな。
ハルとジュピターも
今日出るのか?

ハル

おおーーー!
フィンクス!!
久々っす。
そうっすよ。

ジュピター

『も』って事は、
お前達もか?

フィンクス

奇遇だな。

 ハルとジュピターがチキンカクテルレースの時に一緒になったフィンクスだ。どうやら今日訓練場を出るようで、後ろにはシャインと知らない女子が二人いる。

 シャインはそそくさと着席して、まるで遅刻してなかった様な素知らぬ顔をしている。面識のない二人の女子もシャインに続いて着席した。

結晶師ニグ

説明を続けさせて下さい。

フィンクス

おっと忘れてた。
あら? おとがめなし?

結晶師ニグ

あなた方の素行に関して
口出しすると
いくら時間があっても
足りません。

フィンクス

わりぃわりぃ。
ちゃんと聞くからさ。

 爽やかに白い歯を見せるフィンクスは、リュウの後ろの席に移動して、「よろしくな」と口にして静かに座った。

結晶師ニグ

それでは
メンバーも揃ったので
初期パーティを
発表します。

 初期パーティ。その言葉に少なからず反応するのは普通の事。講堂に集まる今日訓練場を出る12人は、少しざわついた。

結晶師ニグ

御存知の通り、冒険者は通常、
自分達の意志で仲間を作り
1チーム6名で構成された
パーティを組みます。

結晶師ニグ

ですがルーキー支援制度が
創設されて以来、
最初二日間だけは
訓練場が適切と思われる
メンバーでパーティを
組んで頂いています。
これは強制です。

 ニグの説明は淡々と進められ、一気にパーティ編成は読み上げられた。

 ――以下、各パーティメンバー。順不同。

ダナン=クローバー
ベルゼビュート・ユフィール
アデリシア=ブライトマン
ハル=ビエント
ジュピター=スカーレット
ロココ=ベークリュー




シャセツ=シュバード
リュウ=ベインスターツオルタネイト
シャイン=ウェザード
タラト
シェルナ=ガブリエル
リオ・フィンクス

ハル

一気に名前呼ばれると
全然理解出来ないっす。

ジュピター

一緒だったな、ハル。
オイラ達と一緒なのは
旦那と、え~っと……

ユフィ

――私とアデル。
それにあの遅刻してきた
四人のうちの一人ね。

ダナン

何て名前だっけか?

アデル

確か、ロココさんです。
ロココ=ベークリューさん。

 アデルが名前を口に出す。ニグがそれぞれのメンバーで集まるよう促しているので、講堂内には自然に二つの固まりが出来る。

 リュウがシャセツは群れない事を把握しているので、シャセツを中心に顔合わせするよう他のメンバーを呼んでいる。

 そしてポツリ一人残ったメンバーが居た。間違いなくこの小柄な子がハルと同じパーティメンバーなのだろう。

ロココ

……。

ダナン

あの子がそうか?
結構可愛い子だな。

ハル

おーい、
こっち来るっすよぉ。
自分はハル。
もじゃもじゃなのがジュピターで
毛がないのが旦那、
じゃなくってダナンっす。

 まだロココが遠くに居るのに、自己紹介を始めるハル。ロココはそんなハルに面食らっているようで、もじもじとしてこちらに身体を向けるも一歩足が出ない様子だ。

ロココ

…………

アデル

初めましてロココさん。
私はアデリシア=ブライトマン。
皆からはアデルと呼ばれてます。
皆さん良い人ばかりですよ。

ロココ

あ、挨拶が遅れました。
僕はロココです。
よ、よろしくお願いします!

 アデルが自然に近付き挨拶をすると、ロココは緊張気味ながらも挨拶を返した。

ジュピター

自分のこと、
僕って言う女の子は
それだけで可愛いよな。

ダナン

僕はたまらんな、僕は。

 ダナンとジュピターが頬を紅潮させ、ハル達と共にロココの元にやってくる。ワイワイとそれぞれが名乗りだす中、ロココがモジモジとして何かを言いたそうだ。

ロココ

…………

ユフィ

言いたい事があれば
遠慮なく言って。

ダナン

ロココちゃんの頼みなら
何だって聞くぜ。

ロココ

ぼぼ、僕は男です。
女の子じゃありません!

ジュピター

え!?

アデル

え!?

ダナン

なんだとー!

 誰もが女の子だと思っていたロココは男だった。

 そんな講堂の風景を見ていたリーベが口を開く。

リーベ

ベークリューさんは
見た目は頼りなく見えますが
優秀な成績を残されています。
特に結晶を扱う能力は
ここにいる誰よりも
優秀と言えるでしょう。

 澄み渡るようなリーベの声を受け、ロココをもう一度まじまじと見るダナンとジュピター。急に扱い易く感じたような表情を見せる。すぐに賑わいの真ん中に放り込まれたロココは、緊張が随分と和らいだようだ。

リーベ

…………。
貴方達には
これから数え切れぬ困難が
待ち受けているでしょう。

 少し間を空けたリーベは、講堂内の12人に向けて話し始める。騒いでいる者達も、不思議とリーベの言葉には耳を傾けた。

リーベ

その困難に立ち向かうには
己の技や体力、知力・判断力、
時には運も味方に
付けねばいけません。

リーベ

しかし忘れてはいけません。
何よりも大切な事は
仲間との絆。
絆の光こそが重要なのです。

リーベ

私は、その光がこれからも
輝き続ける事を祈っています。

 リーベの言葉は、それぞれの胸の内に深く刻まれた。








 ハルは言葉に出来ない気持ちが込み上げてきた。



 メナの事を思い出し涙が溢れてきそうだったが、明日からの探索に向け――前に進んでいくために、その気持ちは胸の内の大切な場所に留められた。

~航章~に続く――

 ~錬章~     59、光

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