~ルーキー支援制度~
~ルーキー支援制度~
初戦から二日間の探索に、
熟練の冒険者が同行する。
それが一つ。
もう一つは
一人300ガロンの
金銭的援助が与えられる。
熟練者の同行については、
迷宮での死亡率で最も高い
初戦の死亡率を下げる為だ。
それに訓練場での座学(出席自由)とは違い、
現場で経験者から学び取れるものは
ルーキーにとって大きな糧となる。
それを二日間。
決して長くはないが
あるとないとでは雲泥の差がある。
もう一つの金銭的援助。
これが実に自由すぎる故に
失敗するルーキーが後を絶たない。
武器・防具・道具・薬・食費・宿代
探索に必須のコストは、
300ガロンという金額では
到底全てまかなう事は不可能。
最低限必要なものに必要なだけ使う。
生き残る確率を少しでも上げる為に
金銭感覚は重要な要素の一つでもある。
か~、こりゃダメだ。
ハルはそうゆうの
絶対苦手だろ。
あったらあっただけ
使っちまいそうだもんな。
そ~なんすよぉ。
ガロンを長く持った
経験がないっす。
散財するハルが
容易に想像出来るな。
気が付いたら
スッカラカンなんすよね。
典型的な素寒貧(スカンピン)
発言だな。
っすよねぇー。
ハルはスカンピン。
ハゲはバカ。
プハッ!
ふぅ~、メナの苦労が
少し理解出来たわ。
まぁ、逆に清々しいだろ。
ここまでくりゃ。
ハルが元気にしているのは
いいじゃないですか。
メナもきっと喜びます。
そうだな。
ニグがルーキー支援制度の説明する中、脱線して騒ぎまくるハル達。ニグが次の説明のタイミングを計っている時に、入口から若い男女の声がした。
やっぱりもう始まってるぞ。
そろっと入ったら
わかんないわよ。
ハルとジュピターは、聞き覚えのある声に反応する。爆笑していたまま、視線を入口に向けた。
あ。
んあ。
ん?
あいつらって……
いよっ、
久々だな。
ハルとジュピターも
今日出るのか?
おおーーー!
フィンクス!!
久々っす。
そうっすよ。
『も』って事は、
お前達もか?
奇遇だな。
ハルとジュピターがチキンカクテルレースの時に一緒になったフィンクスだ。どうやら今日訓練場を出るようで、後ろにはシャインと知らない女子が二人いる。
シャインはそそくさと着席して、まるで遅刻してなかった様な素知らぬ顔をしている。面識のない二人の女子もシャインに続いて着席した。
説明を続けさせて下さい。
おっと忘れてた。
あら? おとがめなし?
あなた方の素行に関して
口出しすると
いくら時間があっても
足りません。
わりぃわりぃ。
ちゃんと聞くからさ。
爽やかに白い歯を見せるフィンクスは、リュウの後ろの席に移動して、「よろしくな」と口にして静かに座った。
それでは
メンバーも揃ったので
初期パーティを
発表します。
初期パーティ。その言葉に少なからず反応するのは普通の事。講堂に集まる今日訓練場を出る12人は、少しざわついた。
御存知の通り、冒険者は通常、
自分達の意志で仲間を作り
1チーム6名で構成された
パーティを組みます。
ですがルーキー支援制度が
創設されて以来、
最初二日間だけは
訓練場が適切と思われる
メンバーでパーティを
組んで頂いています。
これは強制です。
ニグの説明は淡々と進められ、一気にパーティ編成は読み上げられた。
――以下、各パーティメンバー。順不同。
ダナン=クローバー
ベルゼビュート・ユフィール
アデリシア=ブライトマン
ハル=ビエント
ジュピター=スカーレット
ロココ=ベークリュー
シャセツ=シュバード
リュウ=ベインスターツオルタネイト
シャイン=ウェザード
タラト
シェルナ=ガブリエル
リオ・フィンクス
一気に名前呼ばれると
全然理解出来ないっす。
一緒だったな、ハル。
オイラ達と一緒なのは
旦那と、え~っと……
――私とアデル。
それにあの遅刻してきた
四人のうちの一人ね。
何て名前だっけか?
確か、ロココさんです。
ロココ=ベークリューさん。
アデルが名前を口に出す。ニグがそれぞれのメンバーで集まるよう促しているので、講堂内には自然に二つの固まりが出来る。
リュウがシャセツは群れない事を把握しているので、シャセツを中心に顔合わせするよう他のメンバーを呼んでいる。
そしてポツリ一人残ったメンバーが居た。間違いなくこの小柄な子がハルと同じパーティメンバーなのだろう。
……。
あの子がそうか?
結構可愛い子だな。
おーい、
こっち来るっすよぉ。
自分はハル。
もじゃもじゃなのがジュピターで
毛がないのが旦那、
じゃなくってダナンっす。
まだロココが遠くに居るのに、自己紹介を始めるハル。ロココはそんなハルに面食らっているようで、もじもじとしてこちらに身体を向けるも一歩足が出ない様子だ。
…………
初めましてロココさん。
私はアデリシア=ブライトマン。
皆からはアデルと呼ばれてます。
皆さん良い人ばかりですよ。
あ、挨拶が遅れました。
僕はロココです。
よ、よろしくお願いします!
アデルが自然に近付き挨拶をすると、ロココは緊張気味ながらも挨拶を返した。
自分のこと、
僕って言う女の子は
それだけで可愛いよな。
僕はたまらんな、僕は。
ダナンとジュピターが頬を紅潮させ、ハル達と共にロココの元にやってくる。ワイワイとそれぞれが名乗りだす中、ロココがモジモジとして何かを言いたそうだ。
…………
言いたい事があれば
遠慮なく言って。
ロココちゃんの頼みなら
何だって聞くぜ。
ぼぼ、僕は男です。
女の子じゃありません!
え!?
え!?
なんだとー!
誰もが女の子だと思っていたロココは男だった。
そんな講堂の風景を見ていたリーベが口を開く。
ベークリューさんは
見た目は頼りなく見えますが
優秀な成績を残されています。
特に結晶を扱う能力は
ここにいる誰よりも
優秀と言えるでしょう。
澄み渡るようなリーベの声を受け、ロココをもう一度まじまじと見るダナンとジュピター。急に扱い易く感じたような表情を見せる。すぐに賑わいの真ん中に放り込まれたロココは、緊張が随分と和らいだようだ。
…………。
貴方達には
これから数え切れぬ困難が
待ち受けているでしょう。
少し間を空けたリーベは、講堂内の12人に向けて話し始める。騒いでいる者達も、不思議とリーベの言葉には耳を傾けた。
その困難に立ち向かうには
己の技や体力、知力・判断力、
時には運も味方に
付けねばいけません。
しかし忘れてはいけません。
何よりも大切な事は
仲間との絆。
絆の光こそが重要なのです。
私は、その光がこれからも
輝き続ける事を祈っています。
リーベの言葉は、それぞれの胸の内に深く刻まれた。
ハルは言葉に出来ない気持ちが込み上げてきた。
メナの事を思い出し涙が溢れてきそうだったが、明日からの探索に向け――前に進んでいくために、その気持ちは胸の内の大切な場所に留められた。
~航章~に続く――