何が困るの?



その声は
望んでいた少女のものでは
ないけれど

しかし
聞き覚えのある声

あんたか

期待に添えなくて申し訳ない、と言えばいいのかしら

……いや



時計塔に足を踏み入れた時点で
もう1度
会えるかもしれないという
予測はあった。

だから
期待外れだとは言えない。




そう、心の中で結論づける。









そうしなければ

私が導く世界は、あなたにとっての「ニセモノ」だから

そ……んなことは言っ

『紫季だったらよかったのに』



違う、とは言い切れない。
そう思っていたのも確かなのだから。

自分のことで精一杯なのに、他人の頼みまで聞けない

お前が出て来たせいで、どれが真実かわからなくなってしまった

でしょう?

……自分のことで手一杯なのは確かだ



元々、連続殺人事件が解決できれば
それでよかった。

事件を解決したらちゃんとそっちの依頼も聞くからさ。とりあえず先に、

それでは遅いのです

タイムリミットはあとわずか

……あんたもそれを言うのか

抽象的すぎてわからないんだよ。
推測に手間取って手遅れになったのでは元も子もないだろう

はっきりと誰をどう助けろと言ってもらえないか?

どうすれば最善になるのか、それは私にもわからないのです

は?



どういうことだ。

それじゃあせめて、あんたは誰だ。
撫子か? 瞳子か? 侯爵の娘か? 人形技師の妻か? それとも人形か? 

それはいずれわかること

それより。
あなたは、これが欲しいのでしょう?



そう言って
彼女が
袂(たもと)から取り出したのは


鍵。













扉を開けるための。






















そう、ではあるが、あんたからは受け取りたくなかったな



ただの推測かもしれない。
ゲン担ぎかもしれない。


それでも

この先の世界が本物じゃないと確定したようなもんだしな

そうかしら

あなたの疑問を解決するものがあるかもしれない

ないかもしれない

それは、あなたしだい

……



この堂々巡りは
俺のせいだと言うのか?

真実はそこにあったのか?
見えていなかっただけなのか?

わかったよ。能書きはもうたくさんだ



どうなるのかは、知らない。

でも
立ち止まっている時間はない。








俺は



























鍵を、開けた。
















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