あまりに突然の展開に気が動転するメナは、カウントが進むにつれて真っ青になった。そしていざという時に、身体が動かなくなる事を思い知った。
ハルの状況はもっと厳しいと言える。師匠のエノクが唐突に真剣勝負を挑んできたのだ。しかもメナを人質に取られて、逆らえぬ状況。真剣勝負をしても勝てる見込みは薄い。なにより何故、真剣での勝負を望まれているのか理解できないでいた。
4、3、2、
あまりに突然の展開に気が動転するメナは、カウントが進むにつれて真っ青になった。そしていざという時に、身体が動かなくなる事を思い知った。
ハルの状況はもっと厳しいと言える。師匠のエノクが唐突に真剣勝負を挑んできたのだ。しかもメナを人質に取られて、逆らえぬ状況。真剣勝負をしても勝てる見込みは薄い。なにより何故、真剣での勝負を望まれているのか理解できないでいた。
ハル!?
ハルは静かに抜刀した。
メナにとっては驚きでしかなかった。訓練の一環かのように、戸惑いも問答もそして葛藤もなく『鬼義理』を抜いたように見えた。刃を突き付けられていることよりも、むしろ静かに対応するハルが不思議に思えてならなかった。
ご察しの通り、
これは訓練ではありません。
……分かってるっす。
駄目っ!
二人共やめて!!
メナの理解の及ばない所で二人が相対する。理解しようとすればするほど、これは訓練の一環のように思えてくる。
最短距離で間を詰めたエノクの『桐綱』が、『鬼義理』と交差する。火花を散らした『桐綱』は、ハルが受けなければ命に届くものだった。この数日、短い間だが剣術を習ってきたメナにもそれが分かった。
っく!!
エノク!
何で!?
何でなんすか!?
あなたの才能に私が
嫉妬しているからです。
ぅぐっ!!
才能だなんて
自分はエノクの足元にも
及んでないっすよ。
シーベルトでも
お伝えしましたが
あなたからは私達凡人が
どれだけ苦労しても持てない
天賦の才を感じるのです。
何言ってんすか。
そんなの……
あなたは実のところ
正伝剣術など
必要としていない。
そんなこ、ぁぐっ!
私が、誰もがっ!
想像すらしなかった
刀固有の剣術を求めている!
刀、固有の……
……!!
奔放で……
独創的で……
通常成し得ない事を
平然とやってしまう。
……!?
今の斬り捌きもそうです。
私が教えた正伝剣術の
隙を突いた斬撃。
それを身体に宿った感覚で
見切り咄嗟に捌いたもの。
身体に宿った……
……感覚……
気付いていなかったとしても
我々凡人との差は歴然!
そんなあなたが私の教えを、
進化を遂げてきた正伝剣術を
飛び越えて行くようで
我慢ならなかった。
それも相まって、
自分が欲する才能を持つ
あなたに妬ましさを
抱いてしまったのです。
それだけっすか。
それだけで
メナに
刃を向けたんっすか?
お恥ずかしい限りですが
その通りです。
ハル、私のことはいいの。
それよりももう
二人ともやめて。
ハル、私はあなたという
まばゆい光に照らされ
自分の未熟さを思い知りました。
それを克服するには
剣を交えるしかなかった。
!!
剣を脇から後ろに構えるエノク。
正伝剣術の代表的な構え――『翼盾の構え』だ。動きが読みにくい構えで、対人戦では特に有効とされているものだ。
今、私のしている事は
どうあっても償えぬもの。
それに、もう引き下がれません。
私の経験が勝つか、
ハルの才能が勝つか……
「ハル……、次で最後。
お別れです」