――夕刻、中央棟修練所。
――夕刻、中央棟修練所。
メナ~、エノク~、
遅れてごめんっす。
今日も刻弾の居残り?
そうなんすよ。
あれは出せる気しないっすね。
ハル、焦りは禁物です。
ですが遅刻も事実。
さぁ、早く始めましょう。
講義の日から、刻弾の具現化に時間を使うことが多くなっていた。今日までに、リュウは元よりユフィとシャセツ、それにジュピターも具現化に成功していた。ハルは初日から何も進展していない状態だ。
それでは『陽光の構え』から
防御して、『城門の構え』に。
そこから捌いて巻き上げ
相手の体勢を崩しましょう。
ここ数日で剣術の指南も進んでいる。メナも基本は一通り覚え、今は基本の応用編と言ったところだ。
きゃっ!
ふんばるのではなくて
受け流すのです。
力で負ける相手の攻撃を
受けてはいけません。
丁寧な説明を続けるエノク。メナは賢く物覚えも良いが、何せ基礎体力が低く、冒険者として前線に立つのは早すぎる感じが拭えない。
講義に呼ばれなかった理由は、結晶が身体に馴染んでいないという理由だった。だが戦闘力という生き残る為に重要な要素においても、他のメンバーに劣っているのは事実だ。
もらったっす!
全力で打ち込んでばかりでは
メリハリがありません。
距離を測る剣、体勢を崩す剣、
誘う剣、ポジションを奪う剣、
など攻撃するにも様々な
方法があるのを
考える必要があります。
ハルは体力はあるしメナよりも刀を使ってきた時間は長いが、考えが真っ直ぐすぎて不安要素がまだまだ多い。
うげぇっ!
ぺっぺっ。
まだまだエノクには
勝てないっすぅ~。
ハルったら当たり前じゃない。
エノクさんに勝つなんて
気が早すぎるよ。
エノクに捌かれ地面に這いつくばるハルは、口に入ってしまった土を拭きながら立ち上がる。メナは見の程を知らぬハルの発言に笑顔をもらした。
…………
どうかしましたか?
エノクの真剣な眼差しが、沈黙と共にハルをとらえる。夕陽は地に沈みかけて明かるさを失ってきていた。その暗さは、エノクの沈黙の眼差しと同調しているようで、メナは不安そうな色を見せた。
…………
エノク、
どしたっすか?
ハルの問いに反応するように、エノクは練習用の木剣を脇に放り捨てた。
え!?
メナが一歩後ろに下がった。
エノクが鞘から刀を抜いたのを見たからだ。
ハル……、
私と真剣に勝負を……。
状況から察するに、エノクは木剣ではない真剣勝負を望んでいる。エノクの眼差しはハルに愛刀『鬼切(オニギリ)』を抜けと訴えかけている。
い、いきなり
どうしちゃったんすか?
真剣勝負なんて
出来っこないっすよ!
ハルの祖父・ゴッツ爺が打った業物。『桐綱(キリツナ)』が翻り、メナの首元寸前に迫っていた。
沈みかけた夕日の光を鈍く反射させた『桐綱』は、ゾッとするような冷たい感覚を与えてくる。
カウントダウンを始めるエノク。その意味は誰にでも理解可能なものだった。