前回のセリフと同じ事を言ったニグを、ジュピター達がいじる。お気付きの方もおられると思うが、前回の次回予告でグニ扱いされてるのも頷ける。
ふ……。
お分り頂けたでしょう。
さぁ、奴を出しなさい。
勝負です。
何で前回と
同じこと言うんだ?
出番がここぐらいしかないから
張り切ってんのよ。
意外に目立ちたがりだな。
…………
前回のセリフと同じ事を言ったニグを、ジュピター達がいじる。お気付きの方もおられると思うが、前回の次回予告でグニ扱いされてるのも頷ける。
ようこそ
地の獄の底の底に。
私は地獄四天王を
統べる者、
ヘルクィーン!
宵闇の狭間で
迷える暇人共よぉっ
私が直々に
遊んであげるわ!
厨房から現れたのは、さっきからこちらの様子をチロチロ盗み見していた女子だった。バレてないつもりだったのだろうが、逆に目立ってしょうがなかった人物だ。
なんだ今の
ゴミみたいな演出は。
ゴミとは何よ!
一生懸命考えたんだから。
このビーフジャーキー!!
ビ、ビーフジャーキーって。
意味分かんねぇし
オイラいじるならこの頭だろ。
意味ないけど
なんとなく
ジャーキー扱い
したかったのよ。
ビーフジャーキーw
爆笑っすw
意味分かんないけど
ビーフジャーキーって
キマってんじゃん。
美味そうだし
意味分からんとこがいいな。
ネーミングセンスに恐れおののく一同は、真打の登場に膝が震えた。
で、次の相手はアンタなのか?
愚問すぎて
瞼がひっくり返るわ!
地獄四天王とは
格が違うわよ。
ほーほっほっほっほ。
甲高く笑うヘルクィーン。冷徹で極悪な性格に、一同は恐怖し、蛇に睨まれた蛙状態に陥ってしまった。
ちなみに地獄四天王はアホらしくなってきたようで、それぞれ厨房の持ち場と酒場のテーブルに戻った。
勝負は一回。
通常ルールで行うわ。
ただしっ!
当たり前のように説明を始めるヘルクィーン。
グラスは3万ガロンする
この超高級グラスを
使用すること!
3万ガロン!?
馬鹿みたいな
値段じゃん?
むっふっふ~。
だから面白いのよ。
絶対に落としたら
駄目ってところが。
ガロンは賭けないけど
万が一にも落としたら
とんでもない金額の弁償か。
このチキンカクテルレースは
ガロンなんかではなく
自分の誇りを賭けた戦いっす。
勿論受けて立つっす。
素晴らしい!
ハルさんこそ
チキンカクテルレースの
明日を担う存在。
誇り高いその心意気に
誰もが敬意を払うでしょう。
誇りって……
突き抜けて馬鹿じゃん。
1ガロンの得にもならないのに。
さぁっすがぁ!
伊達に地獄四天王を
倒してないわね。
私もクィーンとしての
誇りを賭けるわ。
勝負よ!
ついに、ついに、
ここまで来た。
一度もその戦いぶりを
見せたことがないと
言われるクィーンの戦い。
おそらく今のハルさんでも
食らいつくのが精いっぱ――
おい、ちょっと待てよ。
……初めて?
初めてなのか?
ニグは昔
地獄四天王だったんだろ?
その時から見た事ないのか?
ようやくその件を
聞いてくれましたね。
スルーされたのかと――
いや、
その件はスルーでいいわ。
ひどっ。
オイラならへこむわ。
…………。
つ、つまり、ぐす……
シャイン泣かすなって。
まるで子供相手みたいだな。
つまりっ!
戦ってその姿を見た者は
生きて帰ってこれない!
そういうことなのです!
ニグは涙目を見開き、訴えかける。レース場は緊迫感に包まれ、沈黙が場を支配した。後は二人の実力者が誇りを賭けて雌雄を決するのを待つばかりとなったのだ。
私から行かせて
もらうわ!
ふりゃあぁぁ!!
ん?
え?
はぁ?
グラスはテーブルの真ん中を過ぎた少し先で止まった。テーブル全体の6割くらいの場所だ。
え~っとぉ~……。
は、は、あは、あはは。
生まれて初めての
レースだからこんなものね。
突然のカミングアウトに場が凍り付く。どうやらヘルクィーンは初心者らしい。「生きて帰れない」とかほざいていたニグに冷たい視線が注がれる。場がしらけ始めた時、ハルが悠然と前に進んだ。
自分の番っすね。
ハル、もういいだろ。
この娘はどうやら
素人みたいだぞ。
誇りを賭けて戦う……。
ヘルクィーンは
そう言ったっす。
例え素人だったとしても
全力で勝負するのが
自分は大切だと思うっす。
ハルは静かで真剣だった。誇り……。その何にも替えがたい自信の底辺を支えるものの前に、真剣に向き合っていたのだ。
一つ3万ガロンするという高級グラスを手に取るハル。全員がその誇りを見届けようと(シャインはどうでもいいと思ってる)見守っている。
緊張するなぁ。
だって3万だぞ、3万。
飯代なら朝昼晩の三食で
100日は払えるぞ。
え!?
3万ガロンって
そんなに高いんすか?
聞いたままだよ。
言い換えると
100日飯食えないって
言っても過言ではないな。
そのグラス割っただけで。
誇りとか青臭い言葉を掲げてテンションを上げていたので、なんとなく聞き流していた金額。それを具体的なイメージをつけて再確認し、ハルの表情が20年履き続けたボロ靴のように崩れていく。
何よ、
早く投げちゃいなさいよ。
適当に投げちゃえば
終わりでしょ。
そうそう。
余裕だって。
あの位置だったら
負けようがないからな。
負けようがないって
それで負けたら……
それに100日……。
六割以上の寄りで勝ちか。
余裕だな。
はわわわ。
飯抜き怖いっすぅ~。
全員、ハルの挙動を見守る。この勝負の行く末は歴史の分岐点。この勝負の行く末で、宇宙の歴史が変わるといってもいい。
お…………、
降りるっす。
お、り?
はぁ!?
何でだ?
楽勝だろ。
まさか……
完全に金額に
びびってるじゃん。
な……
何を言ってるんだー!
誇りを
賭けてるんだろーがぁ!
金なんかに恐れて
どうするんだ!
誇りはどこへ行ったー!
じ、実は……
ずっと
聞けなかったんすけど……
誇りってなんすか?
万に一つも負けない状況で、恐れおののき勝負を捨てたハル。何よりも誇りを大切にしていたと盛り上がっていたところで……
「誇りってなんすか?」
その頼りない言葉は、ニグの勝利への執念を骨抜きにした。
はは、これって
勝ちよね……。
おーいミリーナ。
いい加減注文取って
きてくれよー。
地獄四天王だった厨房の料理人。そのセリフに現実に引き戻された一同。
チキンカクテルレース。昼夜を分かたず冒険者を熱くさせるレースは、いつでも酒場の片隅で挑戦者の誇りを試している。