自分らしくあることの難しさは、そうあろうとした者にしか分からない。


そうあろうとした瞬間にそれは自分らしさではなく、なりたいと思う自分は今の自分とかけ離れているのだから。


結果として、自分らしくありたい、と願った者の末路はただ一つに帰結する。


それは、自身の原点に立ち戻るというもの。


私にとっての原点、それはよくも悪くも相手の期待に応えることだ。


ヒーローは目指さなくても、その点だけは変わらなかった。


高校生になった私は相手が望む私を演じるようになった。


おしゃれに気を使う私。流行に乗る私。

高校生らしくコイバナをする私。

かと思えば勉強もできる私。


一番を目指さなくなった代わりに、私は無難よりも少し上を目指すようになった。


良くも悪くも目立つ人ではなく、いつでも少し目立つ自分を目指すようになった。


可でもなく、優でもなく、良を目指すようになった。


そんな私を客観視したときに、ちょうどいい言葉があるなあ、と思ったのはいつだったか――



『腐ったリンゴは中身を見ないと分からない』



外見を気にするようになった私は、その中身がだんだんと腐っていくのを感じながら、それでも自分らしくあろうとし続けた。


――『誰か』に嫌われたくなかったから。

……これ、好きだったんだけどな

『そばにイルカ』の髪飾りをつけられないと思ったあの日もそうだ。


流行に乗る自分で居るために、私は自分の好みを否定した。

自分の考えを切り捨てた。

『誰か』に嫌われたくなかったから。



今なら分かる。


私は変わっていなかったんだ。


私らしくあることも、ヒーローを目指すことも何も変わっちゃいなかった。


むしろ、悪化したと言ってもいい。


私らしくあることは、ヒーローを目指すことよりも、はるかに楽で妥協的な選択だったのだから。


何はともあれ、私は人に好かれるために自分を腐らせ続けた。


考えることのすべてを人に好かれることだけに向け、自分自身の今とかこれからのことについて考えることを一切しなかった。


目的と手段が逆転なんて次元じゃなく、手段が目的になっていた。


姉が言ったのはつまり、そういうことだ。


『果たしてお前に『ココロ』はあるのか?』


『お前、実は何も考えていないだろう』


流石は私の姉だ。誰よりも私のことをよく見ている。


多分、この件については私よりも私のことを知っているだろう。


だけど、私だって、姉が知っている私だけでは無いんだ。

――私だって、思うことはあるんだ

そばにイルカの髪飾りの件もそう。

私の生き方についてもそう。

そして、姉の生き方についてもそう。


私にだって、好きなことはあるし、嫌いなこともある。

流せることもあれば、許せないことだって当然ある。


普段何も考えてないからといって。

過去に何も考えていなかったからといって。


今この瞬間に何も考えていないとは限らないし、
今朝だってきっと、何も考えていなかったわけではないんだ。


ただ、感情が遠くなってしまっただけなんだ。

私自身にもつかめないくらいに遠くに行ってしまっているだけなんだ。


――これが、腐ってしまった私の、どうしようもないところなんだ。

ここまでが今までの私。
そして、ここからが、今の私だ。

過去を振りかえり、私は今一度姉と向かい合った。


今の私が許せないこと、姉が死のうとしていることを止めるために。


誰かではなく、姉と向き合うために。


私はまた、口を開く。

今の物語 ~今までの私~

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