Q.ヒーローの素質とは?
これは私の中学校時代を象徴する問いだ。
結論から言う。
小学校時代の私は間違っていた。
なんでもできる存在がヒーローであると勘違いしていた。
それはヒーローの素質では無く、持つべき素養だった。
十分条件ではあったが、必要条件では無かった。
修飾であり本質では無かった。
必然的に私はヒーローでは無かったし、今後何があったとしてもヒーローになり得ないことはまぎれもない事実であった。
Q.ヒーローの素質とは?
これは私の中学校時代を象徴する問いだ。
結論から言う。
小学校時代の私は間違っていた。
なんでもできる存在がヒーローであると勘違いしていた。
それはヒーローの素質では無く、持つべき素養だった。
十分条件ではあったが、必要条件では無かった。
修飾であり本質では無かった。
必然的に私はヒーローでは無かったし、今後何があったとしてもヒーローになり得ないことはまぎれもない事実であった。
中学校に入って私が最も痛感したのは、皆の個性の細分化だ。
皆が皆、右を向いたり左を向いたりといったことが小学校の時と比べて明らかに少なくなった。
ある人が右を向いたかと思えば、ある人は左を向き、ある人は上、ある人は下、ある人は手元の本を読み、ある人は外を眺め、またある人は自分の世界で夢を見ている。
そんな環境でどうやって万人の目から見てなんでもできる状態を維持しろというのか。
得意だった運動も、中学校で部活を始めた皆には次第に敵わなくなっていった。
誰だって24時間、同じだけの時間しか分け与えられていないのだから、オールマイティーを目指す私がスペシャリティーな皆に敵うわけもない。
あれよあれよという間に私の個性は集団の中に埋没し、ぱっとしないものになっていった。
――どうしたらいい?
どうしたら私はまたヒーローに戻れる?
解決策も見つからないまま気ばかりが焦っていく。
私は焦燥感を覚えながら周りを見渡すことが癖になっていた。
わーい、アセロラ大好き!
私は本が読めればなんでもいいや
毎日笑って生きていたい
教室の中にはいろんな人が居た。
本が好きな人も居るかと思えば、それが死ぬほど嫌いな人もいる。
運動も、勉強だって同じように。
人間っていうのは外から与えられる無限の選択肢に回答しながら自己を形作っていく。
けれど、それに比べて私はもう――
アセロラってさいっこーに美味しいよね!
――……あ……
ん、どしたの?
……う、ううん、なんでもない。
そう? ならいいけど。
誰かに同調するという簡単なことすらできなくなっていた。
誰かに同調するってことは、別の誰かに嫌われる原因を作ることと同義だ。
そうなったら私は二度とヒーローにはなれなくなってしまう。
しっかりしろ。ヒーローになるんだろう、私は。
ヒーローは選り好みをしないんだ。
そうやって強がってみたけれど、もう意味は無かった。
だって、誰がどう見たって私の方が間違っているんだ。
そうじゃなければ、今私がこうして一人でいるわけが無いんだから。
――どうして、こうなったのか。答えは簡単だった。
私は誰よりも努力をしてきたと思っているし、実際に誰にも負けない努力をしてきたはずだけれど……
それはただ、自己の可能性の選択を先延ばしにしていただけなんだ。
人は可能性を選択することで何かを好きになるし、何かを嫌いになる。何かを得意になるし、何かを苦手になる。
そうやってできた好き嫌いが人に形を与えて、その形がかちっと組み合わさることで初めて本当の意味で誰かと繋がることが出来るんだろう。
だから、こうなったのは必然なんだ。私はヒーローに憧れて可能性の選択を先延ばしにしてきた。何かを好きになったり嫌いになったりしないように気を付けてきた。
そんな私はきっと周りから見たら真球みたいな形をしていて、誰かが入りこめるような隙間が無いんだろう。
――私はさ、誰よりもストイックにヒーローを目指してきたつもりだった。
強くありたいと、そう願い続けてきたはずなのに――
……笑えてしまう。
結局、私は誰よりも弱かっただけだ。
弱かったから、強いふりをすることを選んだんだ。
私が知っている本当のヒーローは演技なんてしない。
誰よりも自分の心に正直に生きているもの。
誰よりも強くあろうとヒーローを目指した私は、その時点で間違っていたってこと。
Q.ヒーローの素質とは?
この問いの答えはきっと……
A.誰よりも選択が速くて、迷わないことだ。
それはなろうと思ってなれるものじゃない。
私は違う。
私は、ヒーローじゃないし、
ヒーローにはなれない……
……もう疲れた。
誰かの問いに答えるときに、他の誰かの耳を気にしなければならないことに。
本当は右だと思っているのに、左だと答えなければならないことがあることに。
誰かのために、別の誰かを犠牲にしなければならないことに。
本当は嫌いなのに、好きなふりをすることに。
だから、もうやめにしてしまおう。
私はヒーローではないし、ヒーローにはなれない。
どんな風に生きていたって、その姿が私の中のヒーロー像とかけ離れてしまうのであれば。
そうやってまた深く傷ついてしまうんだったら。
私は、私らしく生きよう。
――私にはもう、ヒーローは要らない。
このころから私は、自分らしさを取り戻すことを目標に生きるようになったのだった。
けれど、それも決して楽な道ではなく、中学校を卒業して高校に入っても明確な答えを見つけることは出来なかったのであった。