Wild Worldシリーズ

レダ暦31年
砂の町のメール屋さん

8

   

   

   

 もう、どれくらい歩いただろう。

進んでいくうちに軽い山道に入った。

森と呼ぶほどでもないが、木が覆い茂ってくる。

しかし上り坂のため、ふたりの疲労は確実に激しくなってきていた。



 日も傾き、夕暮れの空。

上空には、黒い鳥がうるさく鳴いている。

初めて見る鳥に感動を覚える暇もなく、リウトは歩き続けていた。

リウト

今日中にたどりつくかな?

 オレンジ色の空を眺めながら、リウトがつぶやいた。


 ここから見る夕日はどことなく儚げで、見入ってしまいそうになる。

 砂の町の夕日は、もっと強く燃えている。

ユニ

この坂を登りきればすぐのはずよ

 リウトの数歩先を歩いていたユニが、振り向きもせずに答えた。
 
 一日中歩いていたせいで、ふたりとももう疲れきっている。

 少し休みたい気持ちもあるが、日が出ているうちに少しでも進んでおきたかった。

 
 すると突然、上空の黒い鳥が一羽、一際甲高く鳴いたかと思うと、急降下してきてリウトを襲った。

 それは驚くほどの速さでリウトの回りを飛び回り、威嚇し攻撃してくる。

リウト

うわっ!?

ユニ

……!?

 予想もしていなかった襲撃に、疲れきっていたふたりは反応が遅れた。



 

ユニ

やっ!

 それでもとっさに反応したユニは、ふところから小刀を取り出して黒い鳥に投げつけた。

 
 それは見事に命中し、黒い鳥は空へ逃げていく。が。

リウト

あーっ!!
クローブの手紙!!

 黒い鳥は、いつのまにかリウトから奪っていた手紙を、くちばしで器用にくわえていた。

リウト

返せーっ!!

 あわてて空に叫ぶが、黒い鳥はそ知らぬ顔。

 その手紙には金色のシールが張られていて、その光が黒い鳥の目に映ったのだろう。

 光物が好きな鳥なのだ。


 ユニが数本小刀を投げつけるが、ターゲットが遠いことと、地上の風と空の風は風向きが違うから、狙いが定まらずうまくいかない。

 黒い鳥は優雅に羽ばたきながら、飛んできた小刀をひょいと避ける。

ユニ

く……
私もまだ修行不足のようね……

リウト

どうしよう
あの手紙がないと……

 今までやってきたことが、ここまでやってきたことが無駄になってしまう。

 なす術がなく、ふたりは呆然と空を見上げた。


 一気に疲れたリウトは、その場にしゃがみ込んでしまった。








   

あの手紙を取り返せばいいの?

 場違いな明るい声。

 男の人にしてはやや甲高い声が、後ろからした。


 リウトたちが振り向くと、細身で長身の、大人の落ち着きを持った人が立っていた。さらさらの髪。

 ポケットのたくさんついたコートを羽織っている。

 その穏やかな顔には似合わない、大きめのボウガンを黒い鳥めがけて構え、眼鏡の奥の瞳は、黒い鳥しか映していない。

 
 突然現れた彼は、どうやらリウトを助けてくれるらしい。

 
 リウトとユニは、集中する彼をただ黙ってじっと見守っていた。


矢は神速で飛んで、黒い鳥を見事に貫いた。

力をなくした黒い鳥は、真下へ落下する。

リウト

あ! 手紙!!

 ぼーっと見ていたリウトだが、我に返ると黒い鳥の落ちる先をめがけて走り出した。

 
 そしてその鳥が落ちた時に、近くに放り出された手紙をあわてて取り返す。

 黒い鳥は無様な姿になっていた。

 リウトはそっと目を伏せる。

アルト

大丈夫だった?

 左手にボウガンを持った人が追いついて、リウトに声をかける。

リウト

はい! ありがとうございましたっ!!

 大事そうに手紙を抱えて、リウトが頭を下げた。


 手紙を取り返してくれて、本当に嬉しかった。

アルト

役に立ててよかったよ

 眼鏡の穏やかな人は、にこっと微笑んだ。

 その笑顔に、疲れが少し飛んだ気がした。


 その人物こそ、リウトたちが探していたアルトだった。









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