Wild Worldシリーズ

レダ暦31年
砂の町のメール屋さん

7

  

  

   

リウト

えっと……ユニさん?

ユニ

ユニでいい

リウト

えっと、ユニ、次はどういけばいいの?

ユニ

次は……

 ぎこちない会話がもどかしい。

ユニは伏し目がちで、口数も少ないので会話が続かない。

リウトにとっては話しかけにくいというほどでもないが、途切れがちな会話は、自然と必要なことのみになっていた。

リウト

 こんな人もいるんだ

そう思いながら、それでもリウトは会話の糸口を探していた。



 一晩を城で休ませてもらって次の日の朝、リウトは日が昇るころに起きだしたのだが、ユニはもうとっくに仕度ができていた。

 あわてるリウトに、「時間ならある」と言い、ユニはリウトに貸し与えられた来客用の部屋の前で、腕を組んで待っていた。




 城を出て北へ。

 レダ王から地図はもらったが、リウトには多くの文字が読めず(多少なら読める)、道案内は全てユニに任せていた。


 地図上では、城からミカエルの丘は真北に位置するが、実際は小山があったり通れない道があったり、かなり迂回をしなければならなかった。

 城を出てしばらくしてからは、道も整えられていたが、進むうちに突然舗装路はなくなり、けもの道になった。

ユニ

右。こっちの道ね

リウト

うん

 ユニが指し示す道を、リウトは素直に曲がっていった。

 むき出しの大地は硬く踏みつけられていて、誰かが通った形跡がある。

 自分達の前にここを通った人は、いったいどこへ向かっていったんだろう。

 雨はあまり降らないのか、乾燥していた。


 初めて自分が通る道に、心なしかリウトはわくわくしているように見える。

 そんなリウトを、ユニは不思議に思った。

ユニ

あなた、どうして私の言うことをそんなに素直に信じるの?
嘘かもしれないとは思わないの?

 無口だったユニから話しかけられて、リウトは少し嬉しくなった。

リウト

え? 嘘なの?

ユニ

……違うけど

リウト

なんだ。脅かせるなよな!
ならいいじゃん!

 リウトはあははと笑った。

 話がうまく通じず、ユニは渋い顔になる。

ユニ

あなた、クロ……なんとかという一兵士のために、どうしてそこまで頑張るの?

リウト

クローブ? クローブのためじゃないよ。
おばさんのためさ!

 迷いもためらいもなくリウトは言う。

 そんなリウトの笑顔が、なぜかユニにはまぶしく映った。

 嘘のない、素直な笑顔。


 誰かのために、自分もそんなふうに尽くせるだろうか。ユニは自分を拾ってくれたラムダやレダ王のために動いている。



 役に、立てるだろうか。



 誰かのために別の誰かを動かすこと、これはユニにとっては考えも付かないようなことだった。

 もし、誰かのためにするなら、自分が動く。


 レダ王は、どうして自分を外へ出したのだろう。

 ユニも地図は読めるが、外の世界をそれほど知っているわけではない。

 幼い頃は隠密の修行、今はいつどこからやってくるかわからない“敵”から国を守るために城に閉じこもり目を見張っている毎日。

 それが当たり前の毎日で、不満を感じているわけでもなかったのに。

ユニ

……おばさんのため?

 聞き返しながら、ユニは首を傾げた。

 そこが少し分からなかった。

 男の子が動くなら可愛い女の子のためならわかるのだが。

リウト

うん。僕、クローブのお母さんに育ててもらったんだ
小さい頃に両親亡くしてさ

ユニ

あ……

 それを聞いて、思わずユニは立ち止まった。

 身内の不幸を聞きたかったわけではなかった。

 しかし、言わせてしまった。


 隣を歩いていたユニが急に立ち止まるから、リウトも数歩先で立ち止まりユニを振り向いた。

 リウトは平気そうにしているが、

ユニ

……ごめん

 ユニはあやまった。

 ただでさえ伏せ目がちな瞳が、さらに伏せられた。

ユニ

嫌なことを言わせた

リウト

別に嫌じゃないよ
もうずっと……ずーっと前のことだし!
僕、親の顔も知らないよ
それが当たり前みたいに生きてきたから、今更全然平気!

 リウトが言っていることは本当だった。

 別に傷ついているわけでもなければ、悲しいわけでもない。今更なのだ。


 それが分かるからこそ、どういう表情を作ればいいかわからず、ユニが複雑そうな顔をしていると、リウトはユニのところまで戻り彼女の手を取ってニッと笑った。

リウト

ユニはやさしいね!

 伏せた瞳を少しだけ上げて、ユニはリウトの目を見た。

 リウトのほうが少しだけ背が高いから、ちょっとだけ見上げる形になる。

ユニ

素直な瞳……

  やさしいのは、リウトのほうじゃないのだろうか。

 曇りのないリウトの笑顔は、やっぱりまぶしかった。

 取り合った手が、じんわりとあたたかい。

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