Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
レダ暦31年
砂の町のメール屋さん
6
久しぶりだな、ダイオス
場所は変わって謁見の間。
赤いじゅうたんが続く先の、一段高い位置にある王座にゆったりと腰掛けたその人は、気さくな声でダイオスに呼びかけた。
金髪のやさしい顔の初老。
目元にうっすらと疲れも見えるが、リウトは場に緊張してそこまで気が付かなかった。
立ち上がったままくつろいだようにしているダイオスとは対照的に、リウトは固い顔でいた。
久しぶりじゃの。少し見ないうちにレダ王はちとやつれたかの
ははは。ふけ顔のダイオスにそんなことを言われるなんてね
ふけ顔はよけいじゃ
広い空間。
天井は高い。
床も壁もぴかぴかに磨かれている。
高貴な雰囲気があり、敷居が高い。
場に慣れていないリウトはただただ萎縮してしまった。
ここにいるだけで気疲れしてしまいそう。
金髪の少女は、リウトの5歩後ろに腕を組んで控えている。
……まさか人生で王様に会う日がくるなんて思っていなかった。
レダ王は、その場にいるだけで威厳を放っている。
気さくだが、近寄りがたい。
そちらの少年は?
レダがリウトに目を向けた。
リウトは小さく身をすくませるが、レダ王のやさしげな瞳を見ると、自然と落ち着いてきた。
あ…僕、砂の町でメール屋さんをやっているんです
それで、仕事で城下まで来て……
幼馴染のクローブに、たまには家帰れって、おばさん心配してるぞって言いに来たんです
言ってから、しゃべりすぎたと思った。
クローブはレダ王の下に働いているのだ。
しかし、上手に嘘をつくことなどリウトにはできるはずもなく。
せめて場に飲まれて自分を見失わないように気を奮わせた。
でも、リウトの心中などお構いなしのようにレダは聞き返した。
クローブ?
この城の警備兵です
ふむ
……そういえば兵達も休みなく働いてくれてるの
レダ王はあごに手を当てて、目を伏せて考え込んだ。
何か思うことがあったのか、そんな姿はとてもぐったりしているように見える。
あ、あの、クローブに会わせてくれませんか?
一発殴るだけでいいので!
ははは。一発殴るか
なんのためらいもなく申し出るリウトに、レダ王は豪快に笑った。
レダ王は、リウトの瞳を覗き込んだ。
……砂の街か
なつかしいな
レダ王の呟きに、ダイオスがにっこりと笑って頷いた。
正直、私は兵達の指導権を握っていない
兵達の全権は、総隊長が握っている
え?
全てのことは、王様が一声発すればまかりとおるものだと思っていたリウトは驚いた。
自分の常識など、広い世界では通用しない。
話を通してやってもいいが……
ホントですか?
レダ王の言葉に、リウトの表情が一瞬明るくなった。
お城に何の事情があるかわからないが、クローブに会えればもうどうでもいいと思った。
ただし、条件がある
レダ王がにっこりと微笑んだ。
……え?
何をさせるつもりなんじゃ?
ダイオスが聞いた。
短時間一緒にいただけだが、リウトのことは孫のように可愛がっていた。
リウトは、クローブに会える期待から目を瞬かせてレダ王の言葉を待っている。
レダ王は、リウトの素直な瞳をじっと見て言った。
君は、砂の町のメール屋さんだったな
はい
私の手紙を、“ミカエルの丘”にいるアルトという者に渡してくれんかの
ミカエルの丘?
聞いたことのない場所だった。
リウトは、砂の街から城下町までの道のりしか知らない。
世界は広い。
多分、リウトが思うよりもずっとずっと……
後で地図を渡す
それと、そこにいるユニも一緒に連れて行ってくれんかの
これも条件じゃ
!
レダの言葉に、リウトとダイオスが無意識に振り向く。
金髪の少女、ユニは何か言いたそうな目をレダ王に向けたが、レダは涼しい顔でかわした。
行ってくれるか?
はい!
にっこりと笑ってレダ王が聞くと、リウトははっきりと頷いた。