――深夜、冒険者区の酒場。
――深夜、冒険者区の酒場。
チキンカクテルレースは
あそこで行われています。
結晶師ニグを先頭に、ハル達は懐かしい冒険者区の酒場に来ていた。
ハルの類稀なる才能を実戦で試す時がきたのだ。
おい、あそこか?
何か看板に書いてあるぞ。
挑戦者求む!
明らかにそこがレース場だと分かるカウンターがある。壁には力強い字で書かれた看板が打ち付けられ、傍らのテーブルには不自然な程グラスが積まれている。
又、懲りずに来たか。
首を洗って待って
いたようですね。
後ろからの声に、ニグが振り向き反応する。ハル達も遅れながらも振り向き、声の主を確認した。
ふっ、相変わらず
口だけは達者だな。
何よ、
ただの料理人じゃん。
油断してはいけません!
彼はここで最強と謳われる
地獄四天王の一角なのです!
おおーーー!
四天王っすかぁ!?
かっこいいっす。
にいちゃん褒めても
手加減はしないぜ。
飯食ってる時は客でも、
レース場の前に立てば
一人の敵だ。
それじゃぁ、ちょっと
胸を貸してもらうかな。
何だか知んないけど
オイラがやってみるよ。
見たところ
昨日今日始めた奴だな。
そんなひよっこが俺と勝負だと?
笑わせる。が、やってやる。
快諾した地獄四天王は、すぐにルール確認をする。
1、カウンターの端により寄せた者の勝ち
2、金は賭けずグラスが割れた時だけ弁償する
ニグから聞いていたとおりだ。
おりゃーーー!
よしっ!
グラス一個分手前。
中々寄せれたんじゃないか?
これは地獄四天王でも
結構プレッシャー
かかるんじゃないか?
やるねぇ。
もじゃもじゃのおにいさん。
そう言って直ぐに投げられたグラスは、ジュピターのグラスより端に寄せられて止まった。
おおぅ……。
やるな地獄四天王。
はい、地獄四天王である
俺の勝ちぃ~。
地獄四天王強ぇ!
プレッシャーとかないのかよ。
地獄四天王の力は
素人など遠く及びません。
百回やってもまぐれすら
起きないでしょう。
もういいだろニグ。
茶番は終わりだ。
元地獄四天王だった
お前にしか、俺は倒せん。
そうですね。
あなたは……、
地獄四天王である
あなただけは
私が倒します!
クゥッ!!!
七回引き分けた後の戦いで、ニグがギリギリを狙い過ぎてコースアウト。互角と言ってよい実力者同士の決着は、地獄四天王に軍配が上がった。
腕を上げたな……。
俺が負けていても
おかしくはなかった。
完敗だ……。
……、し、しかし……
しかし……? ……何だ?
私は負けましたが
私達は負けてません!
ハルさん!
お願いします!!
燻製サーモンとろチ~ズ
食べたいっすぅ~。
寝るな!
私が良い感じに
場の雰囲気を
作ったというのに
台無しではないか!
直火焼きシンザー豚の
薄皮パリパリ香味添え
美味いっすね~zzz
起きろー!!
ハルの襟元を掴み、前後に振りまくるニグは、頭に血が上っているようだ。ハルはそんなに頭を振られているのに、まだ料理名が二つ三つ口から洩れている。
ほへぇ~
目が回るっすぅ~。
ハル、起きろ。
遂に出番だぞ。
はわ、はぁ~あ。
ああぁ、レースっすね。
目が全然開いていない状態でグラスを滑らせるハル。そしてグラスはドンピシャリ、テーブルの端っこに吸い付くように動きを止めた。
な、何っ!
こりゃあ負けじゃないか?
地獄四天王さん?
まぐれだ!
まぐれに決まってる。
俺はその上をいくぜ!
グラスの衝撃音は深夜の酒場に無常に広がった。
ば、馬鹿な……。
地獄四天王の俺が
寝ている奴に負けるなんて。
そりゃ偶然だと
思うわよね。
なんだコイツラの普通の表情。
当然といった感じではないか……
貴方の気持ちも分かります。
他の三人との勝負を一見すれば
認めてもらえるはずです。
するとカウンター周辺に、続々と何者かが集まってきた。
ふ、見ていたぞ。
冗談がすぎるわ。
ほほほ、
かかってきなさい。
でましたね。
地獄四天王。
モブ感が半端ないな。
って、最後の一人
なんか知ってるぞ!
どっかで見た!
不吉すぎる。
秘技、鬼祭りぃ♪
出た、鬼祭り。
相変わらずのビタ止めじゃん。
必殺!
レイマールの黒いハゲ頭ぁ!
何を必ず殺すか知らねぇけど
ギリギリのビタ止め。
名前も理解不能だけど
とにかく凄ぇ。
天衣無縫
完璧だ。
完全にあの領域に
身を置いている。
別次元。
超越的存在。
田舎者の皮を被った神!!
さり気なくひどっ。
ってハル、
難しい言葉使ってるし
もう投げてすらない。
目も白目なってるしキモッ!
私としたことが……
信じられない……
弁償チェケショー!
次々とグラスの破片が床に散乱する。トップクラスの実力を持つ彼等でも、覚醒したハルの前ではチリカス同然の存在だった。安物のお茶っ葉を八回出涸らした後、天日干しで乾燥させ、しぶとくもう二回出涸らしたぐらいチリカス同然だった。
ふ……。
お分り頂けたでしょう。
さぁ、奴を出しなさい。
勝負です。
覚醒したハルは
比類なき力を手に入れた
グニが語る奴とは誰か?
闇に蠢く魑魅魍魎共が
暗黒の文言を携え
濁り酒を
浴びるように呑み散らかす!
これは戦争なんかじゃない
只のお遊びさ
次回!!
~錬章~ 54
頂上決戦
掴みとれ!
生きた証と冷えたおしぼりを