Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
レダ暦31年
砂の町のメール屋さん
5
長い洞窟を抜けてたどり着いたのは城の中だった。
城の一室の掛け軸の裏。
広い部屋には、高価そうなものが飾り棚に綺麗に飾られている。
ここは展示室じゃ
展示室?
リウトは、きょろきょろと辺りを見渡した。
手近にあった水晶の水差しを手に取ってみる。
ずっしりと重かった。
磨き抜かれたそれは、鏡のようにリウトを映し出した。
飾られている全てのものは高価そうではあるが、リウトには値打ちが分からない。
絵画や絵皿、壷や宝石など、どれだけ高価なものであろうと、リウトにとっては全く価値のないものだった。
さて、レダ王のところにでも行くかの
ダイオスは城内を見知っているかのように歩き出す。
リウトは水差しを元に戻してあわてて後を追った。
あの、僕の会いたいヤツ……
それならレダ王に頼んで呼んでもらえばいいじゃろう
問題は、レダ王がいるかどうかじゃな
連絡を入れてないからの
……王のくせに外回りも好きなやつじゃから
……
リウトとダイオスが展示室を出ると、左右に赤いじゅうたんの敷かれた長い廊下があった。
左へ行こうとして、ダイオスが急に止まる。
不思議に思ったリウトがダイオスの背中からひょいと顔を出してみると、金髪碧眼の少女が壁に背を預け、腕を組んで立っていた。
…………
……通してくれんかの
ダイオスが言うと、少女はゆっくり壁から背を離し、ダイオスと向き合った。
少女が発する殺気に、リウトは思わず身を固くした。
侵入者を通せって?
……できないわ
少女は明らかにリウトとダイオスを警戒していた。
レダ王に用があるんじゃ
王に何の用よ
それはお主には関係ない
ダイオスと少女がにらみ合う。空気がピリピリと痛くなった。
老人と少女、けんかになったらどっちの方が強いのだろう。
リウトが遠慮がちに申し出た。
あの……僕たち、決して怪しいものじゃないんです
会いたいヤツが城の中にいて
今までは普通に入れたけど、今日はそれができなくて、
その、だから……
「……だから侵入した?」
いくら『怪しいものじゃない』と言ってみたところで、掛け軸の裏から出てきたところでもう怪しかった。
言いながら気が付いてしどろもどろになってしまったリウトの言葉を少女が継ぎ足した。
あなた、城下の人じゃないわね
リウトの格好を見て、少女が呟く。
そのまま少女はしばらくリウトの瞳を覗き込んでいた。
リウトは自分にはふさわしくない、場違いな場所に来てしまったと今更ながら気が付いた。
今まで普通に城内に入れた時は、来客は専用の待合室に通されていたから、いくら砂まみれの格好だったとしてもこんな気分になることはなかった。
ここまで来て引けないし……
……素直な瞳
……?
ダメね。どんな人でも外部からの侵入者を信じるなんて出来ないわ
今、戦争の動きもある
あなたたちはスパイかもしれない
少女が動きを見せた。
右手に鋭く光るナイフ。
それが逆手に握られている。
誤解を解きたいが、下手なことを言えば返って怪しまれるだけだった。
やれやれ、ずいぶんと疑い深いのぅ
ダイオスは身構えて、リウトは凍りついた。
ダイオスは多少の戦闘経験があるが、リウトは誰かと争うなんて全く経験がなかった。
まして、光物なんて果物を切るときくらいしか使ったことがない。
ど、どうしてこんなことになってるの?
ここ、お城の中だよ。お城の中って平和なんじゃないの?
しかし、次の動作で少女は目を見開いて固まった。
それに気づいたリウトとダイオスが顔を見合わせる。
ピリピリとした空気が和らいだ。
…………
まぁまぁ、話を聞いてみようじゃないか
声は、リウトの後ろからした。